駒地真子様からのご依頼品


 森精華は機嫌よく鉛筆を削っていた。
 デッサン用に揃えた筆箱の鉛筆は、4Hから2Bまで揃っている。
 明日は写生大会。小笠原のあれやこれを描いてみたいと思っていたので、こんな授業は毎回あってもいいと森は思う。
 森がニコニコしている横で、茜大介は半眼で森を見ていた。
「不気味な笑い」
「なっ!!」
 森は思わず緩めていた頬を引きつらせた。
「何よ、明日の写生大会楽しみにしていちゃいけない?」
「そんな事は言ってない。ただ姉さんの笑いが不気味だと思っただけだ」
「大介!!」
 森が頬をパンパンにして怒っているのを面白そうに茜は見た後、テレビの方に視線を移した。

『明日の午後は、80パーセントの確率で快晴が見込まれています。外へお出かけの予定のある方は、紫外線対策をしっかり施してお出かけ下さい……』

 森は天気とは裏腹に少し暗くなった。
「どうしよう。明日晴れだって」
「いいんじゃないのか、晴れてた方が」
「そりゃ、晴れてるほうが景色はきれいだけど」
 絵を描くのを趣味にしている森は口を尖らせる。
 茜はそんな姉を「可愛いなあ」とは思ったが、表立って顔には出さない。
「だって、折角いい外観が揃っているのに、影が落ちたら……」
 森は「むう~」と言う風に唸った。


 茜は「この姉本当にどうしよう」とか、そんな事を思った。
 姉はスイッチが入ったらおかしな風にマイナス思考になる傾向がある。変に慰めると逆に怒り出すからなあ。
 少し考えた末。
「まあ頑張れば?」
 何を。
 森は「むう~」っとした顔で茜を見た。
 とりあえず、この場は放置しておく事にした。
 まあ、姉の機嫌は明日の写生大会の同行者達がどうにかしてくれるだろう。
 そう期待する事にした。


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 写生大会は昼だと聞いていたが。
 森が帰ってきたのはとっぷり日が暮れた後だった。
「……失敗した。失敗した。失敗した」
 何やらずっとブツブツ呟いている。
「……今度は何?」
 茜の半眼に、森は黙ってスケッチブックを差し出した。
 茜がパラリとめくると、今日描いたらしい小笠原の景色がていねいに描かれていた。
「……まさかまた集中しすぎてこんな時間まで描いてた訳?」
 森は視線を逸らして、コクリと頷いた。
 茜は深く溜め息をついた。
「姉さん、別に写生大会に行くなとは言わないけど、せめて時間位は気にしろ。こんな時間まで描いてたら他が迷惑だ」
「それ、さっきも先生に言われた……」
「そりゃ言うだろ」
 森の涙目に、茜は再度溜め息をついた後、黙って水彩セットを出してきた。
「絵を仕上げるのは明日。今日はもう寝たら?」
 水彩セットを押し付け、そのまま立ち去っていった。
「………。ありがと」
「別に」
 森は大事にスケッチブックと水彩セットを持って部屋に帰っていった。
 これ、どう塗ろう?
 夕方? 朝焼け? 小笠原らしく真昼?
 そうウキウキ考えながら、明日が来るのを待つ事にした。




作品への一言コメント

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  • 受注ありがとうございました!森さんがこれだけ楽しんでくれていたなら嬉しいなーとにまにましてしまいました(笑) -- 駒地真子 (2007-12-16 00:08:01)
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最終更新:2007年12月16日 00:08