159萩野むつき@レンジャー連邦様からのご依頼品


お昼がサンサンと晴れる中、レンジャー連邦の騎士であるドランジはむつき嬢から呼び出されたのである。幾度か小笠原で会い、夜明けの船にて正式なお付きあいを始めたのであった。

今日のむつき嬢はどことなく緊張しており、その件で緊張しているのか? とはじめドランジは思ったが、どうも別の緊張を感じる。そもそも出かけるというのに緊張しているというのは……。ドランジは少し躊躇しながらも疑問を口にした。

「……どこにいくんだ」

 むつきはドランジの言葉に答えるかのようにドランジの目をまっすぐに見、答えた。

「ドランジさん、今日は重要な用事があって、黒オーマの方の家に行くのだけど、一緒に来てもらったのは、一人はさすがに心もとないのと、なによりも私が無茶をしないように、見ていて欲しいからなのね」

 むつきの目はお願いと訴えてるようではあるが、状況がわからないドランジはしばし、立ち止まった。

「?」

 ドランジの顔を見て、疑問に気づき、答えを口にしようかと少し躊躇しつつもむつきは時間がないのであきらめた。

「事情は、後で時間がないの。」

 むつきの想いがわかったのか、ドランジは真面目な顔で頷いた。

「ああ。分かった。機体はすぐに持ってくる」

 むつきは慌てて答えた。

「えと、彼等とは前に戦っているけど、今は和睦中だから物騒な事は無しで、あくまでもお話をしにくの。それで一つ注意するのは、相手は魔法使いの方だから本当の名前の方を言わない事」

 小笠原に来る前に藩王である蝶子伯爵夫人にドランジは黒オーマの人と戦っているから気をつけてと助言をもらっていたむつきは慌てて説明をした。友人であるミーアさんとのお話で得た知識により名前の注意もする。

「……」

 ドランジはじっとむつきの目を見て、むつきの真意を見た。

「行きかたは教えてもらってるし、この小笠原の中だから。」

ドランジはむつきの言葉に頷き、答えた。

「分かった」

「ありがとう!」

 何も詳しい事を言わなくても信じてくれたドランジに感謝し、またこれから元敵であった人の所に行くという緊張感からか、ドランジの手を繋いだ。ドランジも気づき、そっと握り返した。



ドランジは機体を持ってくるのをやめ、用心にと軍用銃だけを腰にさした。むつきはそんなドランジを見、宣言するように答える。

「銃を使う事のないように、私がんばるね」

むつきの笑顔に答えるかのようにドランジも微笑み、二人してバルクの家へと向かった。


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 その家は、そう、サイコロなのです。



 その家はまるでサイコロが大きくなったような家だった……というかサイコロそのものであった。話に聞いていたむつきもそのままの形に少し驚きつつもサイコロに声をかける。

「こんにちはー、バルクさんいらっしゃいますか?ミーアの泉の件でどうしてもお話がしたくて、彼女からここの場所を教えて頂き、会いに来ました」

 むつきの声が聞こえる中、ドランジはあまりもの家の形に思わず口笛を吹いていた。

「不思議なお家でしょ?」

 むつきの言葉にドランジは笑いつつも答えた。どうも面白がってるようである。

「魔女がいそうだな」

 ドランジの笑い顔に頼もしさを見つつもむつきは軽口で答えた。

「いるのは強い魔法使いですよ」

 むつきは1の面にある窓の方を見て中に人がいるかどうかを確認しようとした。ドランジはむつきの後を追いつつもさらに答える。

「男性なのが残念だな」

 むつきは気持ちがわかるのか苦笑いしつつもさらに答える。

「えーーー」

「鼻の長いおばあさんがいて、怪しいものを煮込んでいると最高だと思うんだが」

 むつきは北欧らしいなぁっと思いつつもドアに近づこうとしてドアがないので窓へと近づいた。ドランジは先ほどまでと同じくいつでも行動ができるように自然体でむつきの横についた。

「バルクさん、こんにちはー」

コンコンと窓を叩く音が響く中、むつきはあらかじめミーアから話を聞いていた事を思い出した。このサイコロの家は3の面がドアであるのだ。確認すると側面は1の窓に2、5、6である。少し考えもしかして居留守? とも思ったが窓に向って話しかけた。

「私はレンジャー連邦より来ました、むつきと申します、彼は当国に逗留いただいてる、ドランジさんです、今日はバルクさんに、公園に出された泉の事でお話に参りました」

相手が相手なので名前に気をつけつつも声をかける。窓からは中が見えるが誰もいないようである。同じくむつきの頭の上で中を見ていたドランジと顔を見合わせた。むつきは近くにバルクがいないかどうかとキョロキョロと周りを確認し始めた。ドランジも同じく横についていく。

「ドランジさん、バルクさんは長い黒髪の方です」

「中々いないようだ」

 ドランジも同じく確認し、二人していないという同じ結論に至る。

「薬草を取りにいっているのかもしれません」

 むつきの言葉に少し考え、ドランジは答えた。

「しばらく、まつか?」

 ドランジの言葉に少し考え、むつきは提案した。

「少し家の周りを見ながら、待ちましょう」

 むつきの言葉にドランジは同意し、二人してサイコロの周囲を見回ってみる。むつきはバルクさーんと心の中で念じてみたり、魔法使いなら呼んで出てこーいとか、出てきてーと願ったりしつつどっかの道から帰ってこないかなぁなどとキョロキョロと見ている。

「……」

「困ったな。留守中のようだ。どうしたものか」

 むつきの顔を見て、また遠くに姿がないか目を凝らすドランジ。

「ドランジさん、何か見えませんか…」

 しょんぼりしたむつきをそっと支えたいと思いつつも何の手助けもできない自分の不甲斐無さにドランジはあやまった。

「すまない……」

「あー。書置きとかはどうだろう」

 結局、消極的な方法しか思いつかなったという思いがドランジにあるのかやや不安そうな声である。

「では、そうして、泉の側で待機してみよう。」

 むつきはドランジの気持ちがわかるのか、気づかなかったように答え、大きい紙を取り出した。





 こんにちは、私はレンジャー連邦より来ました、むつきと当国に逗留いただいてる、ドランジと申します。
今日はバルクさんに、公園に出された泉の事でお話に参りました、ミーアの泉のほとりでお持ちしています
 今泉は大変な状態です、どうか来て下さるようお願い致します






 サイコロの家からミーアの泉へと向かう道には特に何もなく、鳥の声が聞こえるのどかな道のりであった。

 こんなのどかな道をともに歩く……ドランジはつい、むつき嬢と楽しくデートしている気分になっていた。
 そもそも説明を聞いてないから状況がわからないということをあるが、むつきが緊張し、困っている分、自分が落ち着き、リラックスさせるように笑顔を見せ、むつきの顔を見た。そもそもこの魔法使いを探すという途方もない道を歩くのならば笑うことでむつきの緊張をとろうと思ったのである。時間がないと焦っているだけではいけない……むつきをリラックスさせようとドランジはそっと手を握った。
 むつきも時間がないと慌ててはいたが、そっと握り返し、二人はミーアの泉へと足を進めたのである。





 現在のミーアの泉は立ち入り禁止状態であった。テープがビシバシと貼ってあり、いかにもここは通しませんという様子である。

「立ち入り禁止だ、でも泉のほとりにいないと駄目なんだなあ…」

 ドランジを見つめるむつき……ドランジは自分の主義を曲げ、むつきの為に頷いた。

「ルールを守るのは好きではないが、いかなければならないのなら、いこう」

 ドランジの言葉にむつきは微笑み答えた。

「はい、行きましょう、待つ間にあそこに行った理由を説明するね」

 ドランジはむつきがやっとリラックスし、周りを見る余裕ができたことを感じ、微笑みともにテープを乗り越え、泉へと近づいた。泉は何事もないように見え、一見見たところは害もない普通の泉に見える。むつきとドランジは泉から少し離れた場所に立ち止まった。

「これが、ミーアの泉かー、これ、バルクさんが出したんですよー。」

 むつきの言葉に頷き、ドランジが子供の頃に読んだ物語を思い出し口にした。

「魔法使いが出す泉か。旅人が喉を潤すんだな」

 むつきは頷き、話を続けた。

「初めはそうでした、しかし、今は違うんです。何かが色々と重なって、危険地帯となってるの、私、それをミーアさんに代わって言いに来たのね」

「これはゲートなんです…一度封印されたのですけど、それが壊されてしまって…、実は国の蝶子さんとサクさんがその影響を受けてしまったいるんだ…(どんより」※6

 ドランジは泉をあらためて見て答えた。

「なるほど。ゲート、か」

 一見普通の泉に見えるゲート……今は特に危険なようには見えないが……ドランジは半歩ほどむつきに近づいた。

「うん、本来きちんと機能していなくてはならないのだろうけど、私には詳しい事わからないから、出した本人なら分かるかなって思った。」

「来てくれるといいなあ…」

 少し顔を曇らせたむつきを見て、ドランジは今まで疑問に思っていたことを口にした。

ドランジ:「……信用なるのか?」

 ドランジの言葉にむつきはドランジの目を見て正直に真っすぐに答えた。

「あのひとは黒オーマの魔法使いです、星一つは簡単につぶせる力をもっています、味方になってくれれば心強いのですが。」

「それは、私の交渉次第です、だから頑張るって言いました。」

 今のむつきは先ほどまでの緊張し、不安そうなむつきではなかった。今やるべき事とやりたい事を理解し、ただ行動するだけ……。

「……」

 ドランジはむつきらしさを取り戻した様子を見て微笑んだ。物事に突撃するのがむつきらしいと感じ、またその事に好意を感じていたのである。そしてむつきがドランジの手を強く握ってきたのでなおさら信頼の想いを感じ、強く守りたいと感じたのである。
 ドランジはやさしく微笑むと力むむつきをやわらげるかのようにやさしく聞いた。

「まあ、座ってまとう。長くなるかもしれない。何か買ってこようか?」

「ううん、一緒にいて、その方がいい」

「分かった」

 やまびこのようにすぐに返ってきた返事にドランジは強く頷き、手をそっと握り返した。

 ゴゴゴゴゴ!

 急に泉が振動し、水が揺れ、波を作り始めた。泉に生じた波がだんだんと大きくなっていく。

「Σなに!」

 急な泉の変動に慌てたむつきは自然とドランジにしがみついた。そんなむつきを見つめ、ドランジはむつきの髪にやさしく触れた。顔はむつきを見ているが油断はせず、その上で自分の守るべき姫君を落ち着かせようとしていたのだ。 

 むつきはドランジの行動と泉どちらに慌てたらいいのか混乱しつつも叫んだ。

「泉、おかしい!」

 むつきが叫んだ後、数秒もたたずに泉の振動が収まった。まるで嵐の前の静けさのように静寂が周りを包む。

「今のなんだろう、えええー、やだー!」

 むつきはあまり近すぎないようにしつつもそっと泉を覗こうとするが、そんなことお構いなしに泉は再び動き始めた。


ゴゴゴゴ!


 ドッカーン!!



「危ない!」

 むつきは叫び逃げようとしたが水の勢いは強く、二人を大きく覆いこむように襲い掛かってくる。ドランジがむつきを庇おうとしたが、水の量は膨大で二人はズブ濡れになったしまった。その格好はまさに大雨なのにデートしていた帰りのようであり、二人は抱きついたまま互いを見つめていた。

「ギャーーーー、やっぱり巻き込まれた!」

 むつきは叫びつつも先ほどしっかりと水を飲み込んでしまったことに慌てまくった。ドランジは叫びまくっているむつきを不思議な顔で見ている。……ふと、むつきはその事を説明していない事に気づき、説明を始めた。

「い、泉の水をのむと、子どもが出来たような状態になるのです…、あは、あははは、」

 むつきはわかってたのに回避できなかったなぁっと思いつつも説明を続けた。

「それも泉の災難の一つ、なのです」

 そして、顔をドランジに向けるとドランジは自分を指さしている……。ああ、そう言えば飲んでしまった事を説明していなかったとむつきは気づき、再び口を開けた。

「ドランジさんは飲んでませんから…、私が飲んでしまいました」

 むつきはわかってたのになぁっともう苦笑するしかない気分で笑いつつもドランジの服の水をはらおうとした。

「いや。自分もその・・・飲んだ」

「ぎゃふん!」

 はらおうとして、どうしようもない事実となぜドランジが自分に指を指していたかがわかり、もうなんというかとんでもない事になった事に気づいた。

 ドランジもどうも状況に追いつけていれない様子で二人で見つめあった。

「ば、バーーールーーーークーーーーーさああああああん!!!!」

 むつきが大きく叫ぶのとは反対にドランジは少し冷静なのか? それともその状態でも十分動揺していたのか……。

「二人して子供できるというのは・・・」

「予想外を通り越して想像の枠外だな」

 単純に周りが騒いでいる分、少し冷静のようではあるが、いつものドランジでない分、わりと混乱ぎみのようである。

「うがー!それはいい、二人で育てリャいい!共に苦労でいいじゃないの!」

 むつきもなんだか大混乱。しかし、二人して同じ方向性で混乱しているので案外相性はいいのかもしれない。

「そう言う問題か」

 ドランジのつっこみにむつきは即反射的に涙をためて答えた。

「ごめんなさーい!私が泉にきちゃったから!」

 むつきに言葉と泣き叫ぶ声にドランジはなんだか先がよくわからない状況になったとは言え、自分が守る人に何の変わりもないということを示すためにもむつきを抱きあげた。


 そして、強く抱きしめた。むつきも強く抱きしめた。


「うー、なんで爆発したんだろう…」

 むつきが泣いている間も一応冷静に状況を確認していたのか、ドランジは状況を確認するようにささやいた。

「理由はともかく、泉はなくなったようだ」

「無くなった!ええ!!」

 むつきの叫び、そして見に行こうとするむつきを目で軽く止め、ドランジはむつきを抱き締めたまま泉の方へと移動した。いつでも迅速に行動し、かばえるように抱いたまま泉に近づいたのである。泉に水はなくただそのくぼみがあるだけであった。そしてひらひらと二人の前に紙が落ちてきた。

「あ、」

 抱きかかえられていた分、むつきの方が空に近かった為、むつきが拾い、二人してその紙をジっと見た。その紙には短く言葉がかかれてある。





 <泉を閉鎖しました。ばるく>




「ぎゃふーーーーーーーん!」

 むつきは再びぎゃふんと口にし、叫ぶ。どうも驚いた時の口癖のようだ。

「ちょっとー、のんだ水は大丈夫なのーーーーーー!」

 もちろん返事はない。叫ぶむつきを見て微笑みつつもドランジはむつきの頭をなでた。どうも漫才のノリツッコミのようにむつきが叫んでドランジフォローな図になってきてるようである。

「と、とにかくこの先この泉で災難が起こる事はなくなったか…」

 そして、ドランジのおかげでむつきが冷静になるのが定番のようである。

「私達がどうなるか、たのしみだなー、わー」

 などと棒読みで話すむつきに冷静さが帰ってきたことにドランジは微笑みつつも答えた。

「中々信じられないが、病院で検査してみようか?」

「そだね、うん、調べよう」

 こうして、二人は元公園を後に病院へと向かった。

 そして、この後、病院へ向い、さらにその後にむつきに大事件が起こるのである。この物語はその話の序章にしか過ぎなかったのだがそんなことはむつきもドランジもまだ知らなかったのであった。



作品への一言コメント

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  • 読みながら、恥ずかしくなったり、おかしくて笑ったり…、ノリツッコミとはナイスな例えで、orz となりながらも苦笑してしましました。あの間抜けなログを素敵なお話にしてくださり、ありがとうございましたー! -- 萩野むつき@レンジャー連邦 (2007-12-09 21:23:52)
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引渡し日:2007/12/21


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最終更新:2007年12月21日 15:46