NO.140 悪童屋@悪童同盟さんからの依頼


 言霊と言うものがある。
 言霊。文字通り「『言』に宿る『霊』」の意である。
 この言霊と言うものは扱いの大変難しいものである。
 使い方を間違えれば間違いなく相手の気分を害し、時に残酷に傷つける代物だが、使い方さえ誤らなければ、相手に対し、希望の光を与えるものである。
 これは、大事にしまっていた言霊を、使うまでの閑話である。


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 悪童屋は執務室にいた。
 砂漠の風は、熱を含んで暑い。
 窓から吹く熱を帯びた風を受けながら、一心に仕事をしていた。
 いつものように、下から上がってくる業務連絡に目を通し、確認をし、検閲印を押し、間違っているものは指摘して下に返す。
 いつものように、その作業に没頭していた。


 この所、スイトピーとは連絡が取れていなかった。
 悪童屋にとって、彼女は何者にも変えられない大切な存在だった。
 彼女の若さが眩しかった。
 自分とは違う目で見る世界が眩しかった。
 彼女の笑顔が眩しかった。
 逢いたい。
 しかし……。


「よろしいのですか?」
 よっきーが悪童屋の印の押した書類を集めて整理しながら、心配そうに言った。
「何がだ?」
「スイトピー様の事です。この所ずっと執務室で仕事に没頭されて、連絡が取れていないように思えるのですが」
 悪童屋は作業を止めなかった。
「分かっている」
「なら、どうして行かないのですか?」
 悪童屋は、いつものように一瞬深く考えた後、笑みを浮かべた。
「スイトピーが大事だから、余計に仕事に手を抜けないのだよ」
「と、おっしゃるのは?」
「俺は彼女にとって、大事な「おじさま」でいないといけない。仕事を疎かにし、国民を路頭に迷わせるような事になったら、それこそスイトピーに合わせる顔がなくなる。それに、もうすぐ……」
「? 藩王?」
「……何、すぐ分かる」
 悪童屋はそれだけ言うと、視線を書類に戻した。
 よっきーは釈然としない顔を浮かべたが、「手が遅れている」と言う悪童屋の指摘に慌てて書類に舞い戻った。


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「俺と一緒に暮らさないか?」
 大事にしまっていたその言葉を告げる為に。
 俺は彼女に相応しい人間になろう。
 悪童屋は、次に赴くその時の事を考えていた。
 彼女に次に逢えるその時の時間が、1秒でも早くなると信じて、悪童屋は作業を終えた。
「仮眠してくる。10分経ったら起こしてくれ」



 その言葉の元で、彼女の青空の下の笑顔を見るのは、これから12時間も先の事である。




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最終更新:2007年11月30日 17:40