玄霧@玄霧藩国さんからのご依頼品



世界には思いもよらない事がよく起こるものである。
その内のほとんどは自分が予想している事より悪い方向に。
                       -E・ハガネスキー

「52017002、旅行社より天領への報告書第一稿。数日前から行方不明となっていたACE、結城火焔と雷電のコガを母島にて発見、と…」
ホバーの駆動音と機体にぶつかる波しぶきの音が混じるコクピットで、ぱちぱちと古めかしい小型ワープロのキーを叩く。
「外傷、及び疾患等は見受けられず。ただし食事が取れなかったらしく軽度の栄養失調の可能性あり。同行者で医師でもある玄霧氏に後を任せて必要物資の運搬を行う…」
と、そこまで打ってうーんと悩む。報告書ってこういう書き方でいいんだろうか、いや今までだって何度か打ってはいるがこういうケースは初めてなので。
「にゃーん」
「ん?もうすぐ着くってか。わかったわかった」
akiharu国の猫士に急かされて、ワープロを手荷物の中にしまうとそのまま操縦桿を握る。
猫士の言うとおり、ターキッシュバンのセンサーはつい数時間前に出航した港を捉えていた。

港に機体を停泊させ、コクピットから降りる。潮の香りがつん、と鼻を刺す。
「さて、必要なものを持っていくとはいっても何を持っていけばいいんだろう」
「とりあえず食料と水は用意しておいたけど」
ふわ、と後ろに降り立つ気配。そして聞き覚えがあるというかいつも聞いている声。
「…ありがとうございます。で、どうして小笠原にいるんですか?」
「連絡もらったから。仕事先の人から」
そう言いつつ、後ろの気配の人-高原アララ-は首に手を回して抱きついている。
知らせたのは多分小宇宙か船橋辺りであろう。後で書類仕事押し付けてやる。
「身重なのに…」
「あら、少しくらいは運動したほうがいいのよ」
心配してくれるのね、と耳元で囁く。恥ずかしがってもそれを嫌がらないと知っているから。
「あー、うー、えーと、と、とりあえず必要なものを調達しましょう。なるべく早く持っていってあげたいですし」
顔が赤くなっているのを無理矢理忘れて、早足で歩き始める。
「いいのに。恥ずかしがらなくて」
そう漏らしつつ、抱きついたままの姿勢で飛びながらついてくる。
いや恥ずかしがりますから。普通は人前でそういうことやるのは恥ずかしいですから。
…こんな格好で言っても説得力が皆無どころかマイナスだが。

「ところで何を持っていくの?」
「一応最低限の生活必需品を持って行く予定です。食料に飲料水、ろ過装置にテントとか」
「ふうん、リストあるんでしょ。見せて」
返事を聞く前にポケットから抜き取るのは止めてください。
リストを上から口の中で呟いている。全部読み終えたところでふぅん、と漏らした。
「駄目ねえ、殿方は女の子に気を使えなくて」
「?何か抜けてましたかね」
「ショーツとぶらじ」
「わーわーわー判りましたからそっから先は言わなくていいです」
あらそう、と言って笑っている。くそ、この笑みは何かまだあるということか。
「売ってるかしらね。下着」
「…浅田に頼んで空輸してもらいます」
「ふぅん、選ぶの?」
「…お願いしますから選んでください」
「そんなに見たい?」
「違います!」

3時間後-
「毛布よし、テントよし、タオルやら何やらよし、飲料用と生活用水よし」
港には先ほどは無かった大きなコンテナがある。国元の摂政に連絡を取って必要なものを空輸してもらった必要物資が詰まっているのだ。
あとはこれをターキッシュバンで運ぶだけである。
「それじゃ行ってきます」
ん、と黙って顔を出す奥様。これで口ごもったりすると後が怖い…いや後に尾を引くのである。
周りの目の隙をついてきっちり3秒。一緒にぎゅう、と抱きしめておく。
「よし、それじゃ行って来ます」
「行ってらっしゃい、旦那様」
夕日を背にしてにこりとしながら手を振っている。日が沈み始めた小笠原で、それが今日の別れの言葉。
赤くなった顔を逆光で隠して、ターキッシュバンへと乗り込む。早く届けて家に帰ろう、うん。


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引渡し日:2007/

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最終更新:2007年11月20日 15:09