あおひと@避け藩国様からの依頼より



あおひとは波止場で待っていた。
 ただ、彼の無事を祈って、待っていた。


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 善行が戦場に出たのは、つい一月前の事である。
 どこで戦うか、何と戦うのかも、軍機と言う事で聞かされなかった。
 ただ、あおひとは待つ事しかできなかった。
 大丈夫、あの人は大丈夫。いつも死ぬかもしれないと言っておきながら、ちゃんと帰ってきたじゃない。だから大丈夫。
 何度も何度もそう繰り返し自分に言い聞かせてきた。


 船が入港した。
 あおひとはタラップから少し離れた所で、彼が出てくるのを待った。
 人波が来た。
 あおひとはもみくちゃにされながらも、彼の姿を探した。
「た、忠孝さんどこですかー?」
 返事はなかった。
 人波が静まった後、次は棺桶が流れてきた。
 あおひとはぞっとした顔をし、棺桶を片っ端から調べ始めた。
 幸か不幸か、善行の名前は見つからない。
 あおひとは手を合わせた後、船の事務局に走っていった。


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 乗員名簿には彼の名前は載っていなかった。
 不安になり、入港した船に乗ろうとして……。
 ようやく会いたかった顔をみつけた。


「っ?! あ、あの……だいじょうぶですか?」
 あおひとは善行を見た。
 久々に会えた彼の右眼は包帯で覆われている。
 その包帯の上に帽子を被っており、彼のトレードマークのあごひげは剃られていた。
 あおひとはどう言おうか悩み、思わず零れた涙を拭いて顔を上げた。
「え、えっと、あの、その……違う、そうじゃなくて……おかえりなさい、忠孝さん」
 泣き笑いをするあおひとに、善行は微笑みを返した。
「再会の言葉が大丈夫ですかには、少し驚きました」
 善行が腕を広げた。
 あおひとは迷わず、その腕の中に飛び込んだ。
 あおひとはそのまま、善行の腕の中にぴったりと収まった。


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 久々の恋人の匂いに、善行は軽くめまいを覚えた。
 あおひとが嫌と言う訳ではない。ただ色々と、主に理性の面で問題があるだけだった。
「手、繋いでいいですか?出来たら…恋人つなぎだと嬉しいのですけれど」
 あおひとは照れながら、おずおずと手を差し出した。
 善行は微笑を浮かべると、あおひとの手を取り、指を絡めた。
「どこに行きましょうか?えっと、私は忠孝さんと一緒にいれたらそれで幸せなのですけれど」
 あおひとが笑う。
「私もどこでもいいんですけどね。まあ、歩きながら考えましょうか?」
「そうですね…あ、二人っきりになれるところだと嬉しいです…甘えられるので」
 その言葉に、善行は顔を赤くした。
「まあ、甘えるくらいなら」
「えへへ、いっぱい甘えますから、覚悟してくださいね」
 あおひとは無邪気に言う。
 いかんいかん。善行は軽く首を振った。
 こうして、二人並んで歩き出した。

 しかし、善行にこの地の土地勘はない。辺りはどんどん人気がなくなっていっている。
「って、すみません。道をあまり知らないせいか。これでは寂しすぎるところですね。もう少し、人の大きなところに行きましょうか」
「いえ、構いませんよ。一緒に歩ける時間が増えたんですし……すいません、ここでいいです」
 あおひとはそのままポンと善行に抱きついてきた。
 善行は笑いながら、彼女を抱き締め返した。
「たしかにこれだと、人が少ないほうがいいですね」
 善行は笑いながら、あおひとの耳元でささやいた。
「ただいま。今帰りました」
「はい、おかえりなさい」
 善行の胸に、あおひとは顔をうずめた。


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 幸せだなあ。
 あおひとは、善行の大きな手で頭を撫でられながらそう思った。
 彼の大きな手も、匂いも、触れられる事も。
 できれば、それが少しでも長く続きますように。
 善行に身を任せながら、そう思った。






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最終更新:2007年11月18日 16:10