その光景は森精華には、輝くばかりの美しい光景だった。

地面が割れて大きな蜘蛛のような姿を現す「それ」を、人々は様々な呼び方で呼んだ。
「兄」や「お兄さん」とも「ドラゴン」・「地竜」とも呼ばれた「それ」は、真っ黒な機械だった。

祭を見て歩くさ中も数度ユータは舌打ちしていた。そして今も舌打ちをする。
するとユータが兄と呼ぶ、その黒い竜の目が輝いてた。
ガシャコンギャシャコン、と。
もしかしたら、ユータは舌打ちすることで、兄と連絡やコミュニケーションを取り合っていたのかもしれない。


その様子を目を見開き、森の義弟である茜は「なんだ、こいつ」と呟いて竜を見詰めた。
さらにその横の森からは感嘆のため息と共に言葉が漏れた。
「綺麗……」
「Σ」
森のその感嘆の言葉に茜は驚きを隠せない。
しかし森のその言葉に反応したのは、茜だけではなかった。

「兄さんが綺麗だってわかるの?」
「う、うち、こういうの大好き。え。え。関節駆動部分はどうなってるの?きゃー」
飛び付かんばかりの勢いで瞳を輝かせる森。

ユータは心に何か、暖かいものを感じた瞬間だった。

 /※/

みなでユータの兄も花火の場に来たことに、ひとしきり喜んでいると、ふいにユータの兄の機関砲が動き出した。
花火をしようと、みなでやってきた海岸の先、向こうから誰かが歩いてきたようだ。
海岸の先で、影が動く。
みなが警戒を始めた頃、その人影は数歩歩いて、そしてばたりと倒れた。

それは、緑オーマでアノレゴス=ダンデオンの弟であるアスタシオンだった。
どうやら気絶してしまったらしい。

危険人物だと知っている面々は、警戒しつつ近付くと素早く怪我の様子などを確認した。
どうやら空腹で倒れたようだ、と言うことでそばにあった分校内の保健室へ運ぶこととなった。

-落ち着いた保健室で後に、何やら騎士同士の会話が行われたようだが、それはまた別の話しとしよう-

 /※/

一部、アスタシオンの元へ残った以外は、再び海岸へと戻った。
花火再開である。

森はアスタシオンに対し「わぁ美形」と思っていたら、怒る茜に連れていかれてしまい、二人とも少しの間、姿が見えなくなっていた。

わぁー、とみなが花火を楽しむ中、誰かが「ユータくんとお兄さんも!」とユータへ呼びかけると、ユータは兄から伸びるヘッドセットをかぶっていた。
その様子を周りは不思議そうに見る。するとユータの唇が不意に動き出した。

<わかりました。やりましょう>

そう言う声は、先ほどまで聞いていたユータの声音とはまた、少し違うものだった。

<面白い風習ですね>

花火をさして『面白い風習』と言う彼。
みな、もしかして、と思い始めていると、再びユータの唇は、本人の声音ではない色で言葉を紡いだ。

<弟がお世話になっています>

「お兄さんだー!」と感動の声を上げると、みな花火をユータやユータの兄の周りにも集めてきた。
色とりどり、たくさんの種類を勧められ、ユータの兄は静かに <そうですね。一番小さなものを> と控え目に希望した。

目の端に見えた、いつの間にやら戻った森と茜が二人でしゃがんで楽しんでいる線香花火が気になったのかもしれない。


誰しもが線香花火の穏やかな光りを見詰めていた最中、その瞬間は突然訪れ、穏やかな時をぶち壊した。

保健室に運んだハズのアスタシオンが、仲間内の女性を一人、人質に取り走り去ろうとしていたのだ。

穏やかな時は一転、激動する。
ユータは兄の行動宣言を告げる。

<射撃開始します>

「それはダメー!」「もっと穏便にーっ!」等など様々な言葉が飛び交う中、最も穏便ではない方法でその場を収めたのは、花火をしていた面子の中にいたフランクだった。

何せさらわれたのは彼の尻…いや彼の大切な女性なのだ。
しかも相手は何やら自暴自棄になりかけている緑オーマ。
フランクは聖銃をアスタシオンの心臓目掛けて撃つと、自分の大切な人を取り返した。


騒然な雰囲気再び。
ぶっ倒れたアスタシオンにみなが駆け寄り、息は?怪我は?とかいがいしく様子を見ている。



ユータと兄の地竜は静かにそれを見ていた。
彼らの中に吹いたのは暖かな風。

敵や味方。
そんなものは関係ない、と体現して見せる彼等の姿が、ユータ達に何か暖かいモノを生ませたようだった。

ユータと兄の初めてのお祭りと花火の夜は、こうして幕を閉じた。
また、この人達と来れることを願い--


【終わり】








作品への一言コメント

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  • 涼華さん、SS読みました。穏やかで暖かい雰囲気のSSだなぁ。と、思いました。また、機会があったらよろしくお願いします。ありがとうございましたー! -- 花陵@詩歌藩国 (2007-11-18 22:56:36)
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最終更新:2008年02月06日 02:11