うにょ@海法よけ藩国様からのご依頼品


「端数、あるんです」

夏も過ぎた、秋祭り。悪気なくとはいえ、プレゼントしようとしたカピパラを断られたうにょは内心がっかりしていた。はにかんだような亜細亜の笑顔が、逆に痛い。しおしおと垂れそうになる尻尾を励まして、こっそり握り拳を作った。大丈夫、お祭りには他にも夜店がいっぱいあるんだから。チャンスはまだある。そんなことを考えて、やっぱり顔には出さないように心がけながら、うにょは燃え上がった。

「亜細亜ちゃんっ、・・・あれ?」
「はい?・・えっ、ええ、何で」

意気揚々と声をかけるうにょ。首を傾げる亜細亜。直後カピパラが動いたように見えて、二人は揃って目を擦った。動くぬいぐるみの可能性を否定するわけではないが、四股を踏むようにのそりと傾ぐ動きは、うにょの想像するカピパラの動きではなかった。むくむくと見る間に膨らんでいくカピパラを、亜細亜がその重さに顔をしかめながら手から落とす。
ぶるり、と身震い一つ。ぱくぱくと口を開け閉めする二人を置いて、すっかり巨大化したカピパラは走り出した。

「亜細亜ちゃんっ、大丈夫?カピパラ待てー…ってもう追いかけてる?!」

うにょが言った時にはもう亜細亜は走っていた。手首は大丈夫だろうか、すごく重そうだったけど、と考えながらうにょもその後に続く。
夜店の人込みを器用に掻い潜ってカピパラが逃げるのを、二人は必死に追いかける。軽い音を立てて石畳を蹴り、白熱灯の光が流れては消えるのを目の端で見て、人の波は避けた。浴衣は確かに走りにくかったが、カピパラの速さはそれほど速くもない。これなら、いける。確信してうにょは、跳んだ。

「あいたっ!」
「ちゅー?」
「つか、捕まえ、」
「ぢゅー!」
「痛い、痛い!」
「ぢゅー!!」
「大人しくしてよー!」

ガンッ。と、骨と石のぶつかる音。バリバリッ。と、爪を研ぐような音。大捕物の音を散々立てて、目測を誤ったうにょは、それでも何とか興奮したカピパラを捕まえることに成功した。

「…捕まえたぁ、」
「ちゅー、ちゅー」

少し毛がチクチクする腹に腕を回して、うにょはその場にへたりこむ。腕から逃れようと手足をばたつかせるカピパラに腕の力を少しだけ強くして、それから、自分たちの周りに人の輪が出来ていたことに気付いて赤くなった。

「し・・失礼しましたっ」
「ちゅー」
「って・・お、重い・・・」

慌ただしく立ち去ろうとして、予想外のカピパラの重さにまたへたりこみそうになる。呑気に鳴きながらカピパラが手を振ってくれたおかげで解散していく人の輪から、うにょは中腰でふらつきながら脱出した。

「あ、ああー。あー」

どこかで追い抜いてしまったのだろう、元居た場所に向けて少し歩いたところで、先に走り出したはずの亜細亜の荒い息と声が聞こえた。カピパラの重量が、うにょに地面以外を見ることを許さない。頭上から落ちてきた声を亜細亜が残念がっているのだろうと解釈して、うにょはカピパラを抱えたまま目をきつく閉じた。

「・・えっと、さっきの、・・あれ?」

突然腕の中のカピパラが軽くなった気がして、うにょが顔を上げる。来た時同様にへばってはいたが、目を輝かせ頬を染めて興奮した様子でカピパラの手を掴む亜細亜が、そこには居た。

「ちゅー」
「・・かっ、かわいい!」

カピパラの耳に寄せていた口をぽかんと開いて、うにょは亜細亜を見返す。ふるふると震えていた亜細亜は、カピパラが鳴いたのをきっかけにするように、ぶんぶんと腕を振り始める。

「お、大きくなっちゃった、けど・・」
「おっきなカピパラもかわいいですね、すごくっ!」
「・・うん」

ちゅー、とカピパラが鳴く度に。きゃー、と身悶えて嬉しそうに笑いながらカピパラの手を上下左右に揺らす亜細亜を見て、うにょもまた微笑む。腕の中の重さは相変わらず酷いもので、腰が痛みはしたが、この子がこんな風に笑ってくれるなら問題にならないな、と。そう思った。



この後、時間切れで居なくなったカピパラや200匹のネコリスの噂に、亜細亜が猫やカピパラ地獄を企むことになるのだが、それはまた別のお話。





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引渡し日:2007/11/10


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最終更新:2007年11月11日 17:59