左木@FEG様からのご依頼品


ふしぎなふしぎな木のお話~生命の樹~

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ある日、一人の男と二人の女の子と一匹のペンギンが、小笠原の海辺でキャッキャワイワイしていました。
男の名前は、是空とおる。
女の子達の名前は、左木と風野緋璃。
ペンギンの名前は、ハードボイルドペンギンと言いました。

みんな、FEGという国の王様とその国民と王様の師匠でした。

その日の是空はしおしおでした。
猫耳がだらーんとしていて、
言葉では「小笠原もいいなあ。」とは言ってたものの、明らかに何かを気にしている様子でした。

左木と緋璃はそんな是空をリフレッシュさせる為に連れてきたのですが、是空は無限に凹んでいます。
元々ボードをするために一週間時間を作るほど、南の島が好きな是空なのですが、
原稿とか原稿とか原稿の事を考えて、既に心はここにあらずです。
ISDNとか光回線とかのパンフレット片手にぶつぶつと呟いています。
師匠のペンギンはタバコをふかして、そんな是空と左木と緋璃のやり取りを見ていました。

ついに、是空の頭が原稿の事でピークに来た時、是空は歌を歌いだしました。
完璧に現実逃避です。

「相変わらず忙しいみたいですねー。海に来たんだからのんびり遊びましょうよー。」
「是空さん、凹んでいるんですかー?ほら、海ですよ。遊びましょうよ。」

これまでの左木と緋璃の言葉も、柳のようにひらひらと受け流していました。
これには師匠のペンギンも流石にダメだと思ったらしく、ちょっと神々らしく助言をしてみました。

「いいのか、あのまま現実逃避させても。」

凄く渋い顔でした。ハードボイルドそのものです。
その脇で、

「式神の城が終わったら、女のいない大陸に行こうと思うんだ。」

などと、すごくらしくない言葉を呟く是空。
その是空に対して、緋璃はやれやれという気持ちでツッコみました。

「嘘つき。」

左木も緋璃に続いて言葉を放ちます。

「えー、会えなくなっちゃうじゃないですかー。」

さっきまでの勢いはどこいったのやら、是空は急に黙り込んでしまいました。
そこに師匠のペンギン、弟子の状況を一発で言い当てました。

「どんな表情で話せばいいか分からないんだな。」

もう。仕方が無い藩王様なんだから。という気持ちで左木と緋璃はお互いの顔を見て、
やっぱりお互い大変だよねー。と無言の会話をしていました。

そんな中、ペンギンが自分の吸っていた煙草の箱を是空に投げました。
これでいつもやってるようにカッコつけてみろ。と言わんばかりのハードボイルドさです。
是空は、空中に舞う煙草の箱を右手で掴み、はっとしたように我を取り戻しました。
手馴れた動作で煙草に火をつけて、その紫煙を肺一杯に吸い込みます。
そこまで見守って、緋璃は軽くアッパーを仕掛けました。

「別に今更、私相手に格好つけたってしょうがないでしょ?」

いつも通りに格好をつけようと考えていた是空はぽろっと本音をもらしました。

「今日はセクハラする材料がない。」

それを逃がす緋璃ではありませんでした。
「左木ちゃん行くよ!」「わかった!あかりちゃん!」と言わんばかりでした。

「えー、たかとちゃんに着せられたこの格好とかノーコメントですか!」
「今日は張り切って水着で来たのに!」

緋璃は大笑いしつつ、左木は持ち前の明るさの中にどよーんとした雰囲気を沁み込ませて、間髪入れずにワンツーを決めました。
是空は、ついつい元に戻ってしまいます。

「まあまて、ぼかあ君たちのことをおもってだね。」

ペンギンは言わずもがな、緋璃も超じと目。
少し焦った是空は素に戻りました。

「水着って、これ以上どうしようもないだろう。」

もういつもの藩王是空でした。

少しずつ元に戻っていく是空に、緋璃と左木は安心しました。

「・・・・・・そんなにスカートめくりたいの?」

緋璃は笑いながら是空にツッコむと、左木がなにやらごそごそとしだしました。

「ちゃんと今日ははろうぃんだから、魔女のカッコも持ってます。」

何処に隠してあったのか、魔女のカッコ(小笠原夏バージョン)を取り出して、
目にも留まらぬ早業で一瞬にして、水着姿から魔女の姿に変身しました。

「とりっくおあとりーと。」

ハロウィンの子どもがやるように、チロンと可愛く手を差し出す左木。
そんな左木を見ながら、是空は小首をかしげながら「ハロウィンってなんだ。」と冷たくあしらっています。
そして緋璃に対しては、「あれはつながりが絵師としてだね。」と素早い切り返しで言い訳を募っていきます。
そんな感じで話をしているうちに、先ほどよりも随分調子が良くなってきた是空。
このマシンガントークで、完璧に元の是空に戻りました。
話を聞いているうちに、いつの間にか水着に戻った左木と緋璃は、顔を合わせてにっこり微笑みました。

「あははー。いつもの是空さんだ。」
「おまたせしました。是空、復活。」
「おかえりー。」
「わーい。」

メタルなヒーローや、鏡な男を髣髴とさせるポーズを取る是空と、ワイワイぱちぱちと拍手をする左木&緋璃。
小笠原なのに、すっかりFEGな雰囲気になりました。
ルパンなポーズで煙草を吸っている是空と渋く煙草を吸っているペンギンは、並んでみるとやっぱり弟子と師匠な感じがしました。

「じゃ、是空さんも復活したところで遊びに行きますかー。」

今回の小笠原の目的がすっかりないがしろにされそうな所を緋璃が助け出しました。

「どこにだ?」

ペンギンが渋く聞き返すと、

「んー、そこら辺ふらつこうかなくらいにしか考えてなかったんですが、岩場はこの格好だとちょっと危ないかな。」

緋璃は考え込みました。
すると、

「是空さん、お勧めの場所ってないんですか?」

と、左木が助け舟を出しました。

「んー。こちら。・・サンダルは?」
「一応、足首まで固定出来るやつ。・・ビーチサンダル苦手なんだよね。」

是空は二人の姿を確認した後、ペンギンに上着を左木に貸すように頼み、てきぱき準備をしだしました。
煙草を吸い込み、煙をぷかーっと吐き出す是空。
すると、その煙がみるみる間に矢印に変わっていきました。
その矢印に沿って是空は歩き出しました。

「いくぞ。」
『はーい。』

二人は返事をハモりながら、煙の矢印を珍しげに眺めました。
特に緋璃はその技に感心していました。

「ほんと多芸ですねー。」
「ここは、俺のもともとの世界だからな。」

緋璃は是空のデータを頭の中で検索しながら、是空が式神使いでもある事を思い出しました。
左木の方はと言うと、頭の上に矢印ならぬ?を出しながら、「もともとの世界?」と小首を傾げています。
同じように緋璃も「あれ、私たちとは別の世界の出身?」と首を傾げています。
是空はその答えは出さず、もったいぶるかのように、煙をふっと吹き、緋璃の身体を纏う煙の服を作り出しました。
二人はふかふかでもこもこな煙の服にすっかり女の子心をくすぐられ、煙の服に夢中です。

「おー、あかりちゃんの服もっこもこー!」
「わー、ふかふかー。」

是空は二人の様子に微笑むと、林の方へと歩き出しました。
是空の爪の一つが、他の爪と色が違う事に、二人は気づきませんでした。

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歩き出した先の林を通り抜けると、海岸の岩場に着きました。
向こうの方に洞窟が見えます。

左木と緋璃は洞窟を遠目から見やって、

「洞窟ですかー。何か出そうですね。」
「目的地はこの中ー?」

と、是空に問いました。
是空の方は、うーんと洞窟を見やって深くは行かない事を二人に告げると、ペンギンに聞きました。

「地の母の・・・迷宮ですよね?」
「そうかもしれんな。」

二人のやり取りは、少し重たい雰囲気でした。
特にペンギンは入り口でたたずんで、突き出た石に何かを思い出しているようでした。

「・・・・・・そっか。こんな所にまで出来ているんだ。・・ん、この石がどうかしたんですか?」
「迷宮への近道?」

と、そんなペンギンのふしぎな様子に、二人は少し興味深々です。

「いや、なんでもない。古い思い出だ。」

そう言ったペンギンの表情は、すごくハードボイルドでした。

「入り口だけなら、問題ないだろう。」

ペンギンはそう結論付けると、ポケットに手を入れようとして上着がない事に気づきました。
そして、そのまま何もなかったかのように洞窟の中に入っていきました。
ハードボイルドなペンギンは、絶対に表情は出しませんでしたが、左木はペンギンが少し寂しそうに見えました。
慌ててペンギンに上着を返そうとして、後を追いかけ洞窟に入った左木は、その光景に息を呑みました。
天井に石の中を泳いでいる魚がいました。

「(冒険のカホリ・・・)」

その光景に、ワクワクドキドキです。
そして、ペンギンと左木に少し遅れて、是空と緋璃が入ってきました。

「化石かー。」
「化石は泳がないと思う!」
「しばやんにつれていかれたなあ。」
「ねぇ、泳いでるよ。なんでー!」

少しボーっとしていた是空とキャッキャワイワイしている緋璃はまるで漫才コンビです。

緋璃の言葉を聞いて、あれ?と思った是空は「え。うごいては・・・・・・」と口を開けたまま上を見ました。
魚は全く動いていませんでした。
是空は騙されたと思いました。緋璃酷い、でも、完全には騙されなかったぞ!と思い直し、緋璃にツッコみを入れました。
頭を叩かれた緋璃はたまったものじゃありませんでした。

「いったーい。」
「奥行くぞ。しまった。俺としたことが騙された。」
「馬鹿が移ったらどうするんですか!」
「師匠ー。」

緋璃は頭をさすりながら、駆け足になった是空を追いました。
二人が、ペンギンと左木に合流した時、ちょうど石の部屋に着きました。
天井を見上げると、その石から中に女の人がはえていました。

「え、どうなってるの?あの人。」
「・・・・・・何だろう?」
「すっげえ美人ですね。」
「え、論点そこ?!」


3人の普通の疑問と普通の感想がもれました。
ペンギンは女の人を見ながら、入り口で石を見たときの様にたたずんでいました。

「地の母の迷宮って、ほんと変わった場所ばっかりだなぁ。」

と、緋璃が感想をもらしているそばでは、是空が「すげー。」とか「胸でけー。」とか言ってました。
緋璃は胸でけーの言葉にふと自分の胸を見て、ちょっと悲しい顔になりました。
左木はそんな二人を横目に、石の中の女の人がなんだか物悲しげに見えて、少し寂しくなりました。

「師匠。あれ?」

是空がやっと普通の疑問にたどり着きました。
ペンギンは、やっぱり入り口で石を見たときにの様に遠い昔を想い、話し出しました。

「昔のことだ。この先には大河の図面がある。」
「図面、ですか?」
「なにがあったんですか昔?」

ペンギンは左木の言葉に思い出を辿るように、少しずつ歩き出して質問に答えました。

「ここは戦場だった。悲劇の千年期の、最後の戦いの場所。至高墓所だ。」

その言葉に左木は少し寂しさを感じながら、昔の戦場の事に思いを馳せ、手を合わせました。
そして、ペンギンの後をゆっくりとついていきました。
緋璃も、ペンギンの邪魔をしないように周囲を眺めながらついていきました。

しばらくすると、一人の男と二人の女の子と一匹のペンギンは、少し歩いた先の玄室に入りました。
その部屋の一面に木の絵が描かれていました。
その木の絵の先には実がなっていて、文字が書いてあるのが分かりました。
文字は、普通の文字ではありませんでした。
緋璃は頭の中のデータとその文字の形状を照らし合わせ、パズルのように文字の一つ一つの意味を解いていきました。
それは、生き物の名前だと、すぐに分かりました。
この世に存在する全ての生命の名前が記録されていました。

「メモメモ。後で海法さんに読んでもらう?」
「えーと、何か生き物の名前みたい。」
「へー。」
「すごいやー、たくさん書いてある。・・・・・・そっか。地の母の迷宮から、生き物は生まれるんだっけ。」

知的好奇心にワクワクしていると、壁の一つの一部に火が灯り、その火の中から新しい枝が描かれました。
そこにはBALLSと名前が打ってありました。

「こうして増えていくのかな。」

緋璃は新しい命が生まれる瞬間という、ささやかな時間を感じました。

「そうだ。もう一つ、生まれそうだな。」
「おー、何か増えた。BALLS?・・・何が生まれるんでしょ。」
「誰かが見ていたほうがいいだろうな。人から派生している。」

ペンギンは冷静に左木に説明をしていました。
左木は説明を聞きながら、描かれた木の絵を眺めました。

ふしぎなふしぎな木の絵は、まだまだその枝を伸ばしていきそうで、とてもとてもふしぎな感じでした。
地の母の迷宮に一本、寂しそうな女性を包み込もうとするかのように、その木ははえていました。
とてもとても、ふしぎな木でした。

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ところで、ふしぎなふしぎな木の絵を見終わった後、
左木は「なるほどー。」とペンギンの解説に感心をしていましたが、
緋璃は別の思いに囚われていました。

「あれ、ところでBALLSって生命でしたっけ。」

その答えは、緋璃をかなり悩ませました。
でも、その答えを良く知っていそうな是空は、騙された仕返しに教えてあげようとはしませんでした。
男心もふしぎなものです。

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最終更新:2007年11月08日 10:04