悪童屋@悪童同盟さんからのご依頼品


『洞窟と白い少女と紳士な思い』

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海の中の小さな島々。小笠原。
小さな観光地として細々と栄えているようなそんな島に、一人の男が船に乗ってやってきた。
持ち物は特になく、観光に来たと言うよりかは近所に散歩に来たという風体である。

「・・・時間には少し早かったが、まあ、いいだろう。」

定期船の甲板に立って、よく晴れた空と、少し肌寒くはなったが、それでも気持ちいい海風に男は顔を綻ばせる。
眼鏡越しに見る、小さいが綺麗な島は、これから会いに行く少女を何処となく思わせた。

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場面はそれから数日前にさかのぼる。
電網世界の中の一つの国、悪童同盟と呼ばれる国の城に一つの手紙が届いた。
白い封筒に流れるような綺麗な文字が並ぶその手紙の宛名には、その国の城主・悪童屋の名前があった。
いつの間にか、城の主である悪童屋の部屋にその手紙はそっと置いてあり、
近頃、暇になったその部屋で、手紙に気づいた悪童屋はその差出人を確かめた。

中の便箋には細いがしっかりとした字で文言が並んでおり、
その最後の行に『スイトピー・アキメネス・シンフォリカルプス より』と描かれてあった。

悪童屋は差出人を確認すると、次にその内容を確かめた。
手紙の内容はいたってシンプルで、

『また遊んでください。』

たったそれだけを伝えるものであったが、それだけに書き手の教養とセンスが光る手紙であった。

少々手紙をいぶかしんでいた悪童屋だったが、どうやって手紙が届いたかや、何故そこにあったのかなどはもう気にする事もなく、
その手紙を読み、さも隣の世界の崩壊を止めに行くかのように、その身一つで北海島から本州経由で小笠原に行く船に乗った。
そう、距離など関係なく、ただスイトピーにたった数時間会いに行く為だけの長旅であった。

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場面はそれから、数日と数十分後になる。

船が着いた後、すぐに白い少女に連絡を入れ、少々驚いていた彼女を中心部の船着場の木陰で待った。
少し時間が経った後、いつもとは少し違う小ぶりな白いワンピースを着た少女が、小さく手を振りながらやってきた。
まるで敬愛する人を待ち焦がれていたかのように、悪童屋の姿を見つけるなり駆け寄ってきた。
そして、会うなり恋人にするようにきゅっと組んだ腕は、どうみても紳士淑女が親しげにしている図そのものだった。

「こんにちは。おじさま」

数日前に届いた手紙そのもののような、澄んだ声が胸の辺りから聞こえる。
なされるがままに腕を組まれた悪童屋は、それでもあくまで紳士な態度であった。

「こんにちは、スイトピー・・・。元気にしていたかい?」
「ええ。」

落ち着いた返事だったが何処となく違和感を覚え、腕を組んでいる少女を少し心配した。
スイトピーは、小さなポーチから地図を取り出して、眺めていた。
違和感は彼女が悪童屋に顔を向けていない事が原因だった。

「そうか・・・。それは良かった・・・。早速だが何処に行こうか??前回は公園だったが。」

彼なりの優しさがこもった声で、スイトピーに呼びかけてみたが、彼女はいっこうに地図から目を上げない。

「えーと。おじさま、行きたい場所は?」
「二人でゆっくり話せる場所がいいかな?景色が良くて・・・。そんな場所ある?」

スイトピーはうーん。といったような仕草で、地図の上を眺めている。
やっぱり顔は上げない。

「まあ、このまま散歩でもいいけどね。」

そう言った時に、彼女はあるポイントを見つけた。

「天文台?・・・・・・・・・あ。洞窟がある。古戦場ですって。」
「ほう・・・。天文台に洞窟かぁ・・・。どっちにしようか?」
「洞窟?」
「?・・・何か変なこと言ったかな??」

悪童屋は、洞窟と言ったスイトピーの難しそうな仕草に、とっさに反応してしまった。
悪童屋の気持ちを察したスイトピーは慌てて行った事がないからと補足すると、
そういうことならば、そこに行こうという事になった。

「火星先住民とか、いないかしら。」
「火星先住民かぁ・・・。いると面白いかもな。・・・あ、あと、洞窟行くのにワンピース汚れないかな?」
「あら、そういう時は、抱えてくださるんでしょ?」
「では、そうさせて頂きます。・・・では、行こうか。」

と、いつものように彼女なりの冗談だと思った悪童屋は笑いながらそう言うと、
初めて彼女と会った時から感じていた違和感に気づいた。
彼女の顔が、薄桜色に色づいてたのだ。

普段、透き通るような綺麗な白い肌をした彼女の顔にしては、とても紅潮している。
熱があるのかと心配した悪童屋は、綺麗な金の髪の下にある彼女の額に手をあて、自分の熱と比べた。

「少し、顔が赤いけど大丈夫かい?」

心配心から出たその言葉に、スイトピーは少し驚いたようだった。
その事に悪童屋は驚いていたのだが、数十秒後、自分が鈍感である事を悟った。

「・・あら。顔が蒼白だったら、もっと心配ではなくて?」

少し間を置いて、

「・・・デート、ですもの。少しくらいは照れます。」
「・・・先を、急ごうか。」

その言葉に、自分の顔が赤くなるのを感じた悪童屋は、組んでいた手を繋ぎなおし、
小さい手をきゅっと握って早足で先を急いだ。
つられて少し駆け足になったスイトピーは、可愛いおじさまだと思う一方で、
少し早く流れる景色に嬉しくなった。

「パンフレットにあったにしては、なんだかこう。」
「自然そのまま。」
「ああ、少し骨が折れる。」

本当に骨が折れるとは感じていない悪童屋だったが、彼女の為に木の枝を手折りながら、
口元の笑みを隠すように言葉を交わした。

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大きな水溜りがある先に洞窟が見えてきた。
いつのものだかは分からないが轍もある。
洞窟ついて興味津々のスイトピーに、目の前の洞窟がどういうものなのかを説明しながら、
水溜りの手前、洞窟の入り口の直前までやってきた。

水溜りがあるからねと、水溜りを避けるようにスイトピーを抱えた悪童屋は、暗い闇を宿した洞窟の中に入っていく。
悪童屋は、洞窟の中でその暗さから一度スイトピーを降ろし、ポケットのオイルライターで明かりを灯した。

降ろされたスイトピーは瞬間近づいた顔に照れながらも、素直に地面に降りた。
降りた後で少々不満な顔をして、それで悪童屋の様子がどう変わるかを見るために上を見上げた瞬間。
その表情のまま固まってしまった。
視線の先の光景にガチガチガチと歯まで震えている。

「どうかしたか?」

スイトピーの様子の変化につられて上を見た悪童屋は、
それを見た瞬間、素早くスイトピーをお姫様抱っこで抱きかかえ、洞窟から抜け出した。

目を強くつぶって、ぎゅっと悪童屋を抱きしめているスイトピー。
大丈夫。もう、外だから。と優しい言葉を耳元でささやく悪童屋。

一呼吸置いて、落ち着いたスイトピーが悪童屋に問いかける。

「な、なんなのあの異星人。」
「分からん・・・。しかし、とんだ洞窟冒険になったな。」
「あれが、大昔の兵隊?」
「まさか、違うと思いたいよ。」

天井に張り付いた虫(カマドウマ)の名前を思い出した悪童屋は、スイトピーに簡単な説明をした後、
火星ではもう絶滅しているカマドウマを、もう一度見に行ったスイトピーの後をついて行った。

おっかなびっくりな彼女は、ゆっくりと移動しながら、そっと背伸びをして天井を見上げている。
カマドウマの大群がわさわさと動いているのを見て、きゃっと後ずさりした彼女にぶつかった。
彼女の中でカマドウマの観察結果は、どうやら怖い生き物という結論になったようだ。
悪童屋はそんな彼女の背中を支えながら、急に愛おしい気持ちになった。

「大丈夫かい?・・ちゃんと、守ってやるから。」
「絶滅してよかったかも。善良かもしれないけど、火星では怖がられる。」
「・・・ありがとう。」

守ってやるという暖かい言葉に、スイトピーは少しだけ勇気を貰いMAKIとコンタクトを始めた。
カマドウマと友達になろうと、そして、すぐそれはやってはいけない事だと気づいた。
すこし怖くなくなったカマドウマ達に、スイトピーは優しく別れを告げたが、
貰った勇気は、悪童屋の腕に抱きつく為に使うことにした。

「じゃあ、帰ろうか・・・。少し運動したし、喉が渇いたよ。」
「はい。あ。私はレモネードで。」
「それじゃ、超特急で降りるよ。」

抱きついた腕を器用に肩に回し、悪童屋はスイトピーを抱えた。
何回も抱えてもらっているスイトピーは、少しだけ申し訳なく感じながらも、なされるがままに従った。

「重くないかしら。私、35kgもあるから。」
「大丈夫!!全然軽いよ。」

来た道を気持ちいい勢いで走る悪童屋に掴まりながら、赤くなった顔をそっぽに向けいった。

「育てばもっと重くなるわよ?」
「構わないよ・・・。俺がずっと抱えてやるよ。」

そんなスイトピーを察して、悪童屋はひょいと体勢を直し、言葉だけでなく仕草で裏付けた。
そして、スイトピーの方もそんな悪童屋の気持ちが嬉しくて、胸に甘えて笑った。

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洞窟からの道中、たわいもない会話を交わしながら、二人はその一刻を楽しんだ。
お互いがお互いに敬愛する、紳士淑女な、そんな雰囲気だった。

「このまま、俺の藩国(くに)につれて帰りたいよ。」

本心をそのまま、彼らしい言葉で告げた。
その言葉を、彼女は嬉しい気持ちとそして、少しの悲しい気持ちで受け止めた。
彼女は、いつもの冗談のように、話した。

「あら。それは大変。こう見えても、私は特別なんですよ?」
「特別?」
「ええ。私はここに捕らわれの身、公娼とあまり変わらない扱いだから。」

その言葉は、彼の中で、届いた手紙の謎と繋がったような気がした。
あの手紙は、彼女の本当の気持ちの欠片であると。
悪童屋と言う男に気が付いてほしかったと言う、彼女の気持ちだったのだと。

「なら、俺が助けてやるよ。」

真摯な言葉だったが、彼女は裏腹に冷たさを含んだ目で男を見た。

「無理しなくても、いいんですよ?」

そんな冷たい視線を、男はその笑みだけで、包み込んだ。

「無理はしない・・・。だが、俺は言ったことはどうにかしてきた。」

暖かい笑みに包まれて、彼女はゆっくり言葉を繋いだ。

「じゃあ。」
「少しだけ、期待します。夜寝る前の5分だけ。楽しみにするような。」
「それでもいい・・・。俺を信じて欲しい。」

そのままゆっくりと目を閉じ、彼女はこくんと頷いた。

「ああ、約束の証だ。」

額に軽く口付けをうけ、約束を結んだ白い少女は、暖かい瞳で少し笑った。
それは、紳士が淑女に誓いを立てる瞬間だった。

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予定日より早くなってしまいましたが、完成しましたので提出させていただきます。
少々文量が多くなってしまいましたが、久しぶりなものだったので、大目に見てやってください。


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引渡し日:2007/

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最終更新:2007年11月02日 18:45