NO.84 経さんからの依頼
何者もない荒野を二人の戦士が進んでいく、風は冷たく、大地は堅い、空は曇っており、先が見えない。
椰子の実をたたくような音を立ててエクウスが歩く、その背にまたがったジャスパーは抜きはなったレイピアを丁寧に布で拭いて手入れする
ひときわ強く鋭い風が吹くと、鼠の騎士ジャスパーは、レイピアの手入れをやめて、吹き続ける強く吹きすさぶ風の音に耳を澄ましていた
そんなジャスパーの動きを感じて相棒のエクウスも動きを止めて、風のにおいを嗅ぐ
風の精霊が囁いてくれた、あの緑の戦士のことを、風のにおいが教えてくれる、健やかであると。
鼠の騎士ジャスパーは、かつて決闘にまでいたりかけたアスタシオンが、強い乙女の側にいると聞こえた気がした。
「いいことだ」
オーマだからといって死ぬこともないし、闘わなくていいときもある、ジャスパーは思っていたのだ
ジャスパーの囁きにあわせるように、風のにおいが幸せそうな春のにおいと、暖かな五月の芽吹く若芽の香り
エクウスも鼻を動かして、いいことだと笑った、ただ風をともとする二人旅も、こうやって、風の運ぶ幸せな噂があれば、暖かく感じられる。
岩崎は、再会の予感を感じて笑った、いつも笑っている男だが、
あの場所でなら、本当に笑える、岩崎にとっては、何者ともしれない大事な人たちが集まる大事な場所だ。
駅前の蕎麦屋の前で、ポケットの中の硬貨を確認、かけそば一杯といったところか、ネギだく七味大盛り、胃に貯まる組み合わせを思い浮かべる。
葉月さんのところにいこうかとおもったが、たまにはこんなのもいいか
用事も済んだことだし、一服して戻ろう、暖簾をくぐろうと腕を上げる。
冬の風ではない、暖かい春の風が吹いた
暖簾をまくり上げるほどの強い風、雪が微かに舞って、駅前のガードにつもった雪が落ちる、岩崎の周りを雪がきらきらと舞い落ちた
風が教えてくれる、誰かが呼んでいると、岩崎は風のささやきに耳を澄ませると、赤くなった耳を手で覆った
予感に従って、岩崎は駅前の蕎麦屋から、離れた
腹を空かせた方がいい気がするのだ
時と場所の異なる三人が笑うと、光が漏れる、小笠原に飛んだ
経はオーブンの前で、顔を引き締めている。
薪から出る火花が、アフロに点火しそうな気もする
だが、旧式のオーブンは火力の調整が難しい、出来るだけ近づいて、しっかりと温度を見極めたい。
オーブンの内部が熱すぎると焦げて駄目になるし、低くてもべっしょりとなって、パイのサクサクとした触感が無くなってしまう。
特に果物を使ったパイでは、水分がきれいに抜けるかが勝負の分かれ目。
温度が低いと外はさっくり中はべっちょり、また高すぎると、ザクザクになってしまう。
ひっかき棒で灰を掻き出すと、素早くパイを入れて戸を閉める。
あとは信じるのみ、バスケットを棚から出して、紙皿とフォークを人数分出す。
冷蔵庫に入れておいた、ジャムを取り出す。
自分でもいだリンゴと、山に入って取ったブルーベリー、それらを一日側にいて煮詰めて作った、特製のジャムが二瓶
片方は金色に輝くリンゴジャム、リンゴはそれ自体が甘いので、少し控えめの甘さ、形が残った歯ごたえが気持ちいいのは手作りの特権
ブルーベリーのジャムは、青紫、目に優しく、紅茶に入れても美味しい、ジャスパーたちは戦う人だから、きっと助けになるだろう。
順番にバスケットに詰めて、オーブンの戸を開ける、ゆっくりパイを取り出す。
岩崎への思いの詰まったパイは、さっくりほんわけ、鼻を探る甘いにおいと、食欲をそそるバターの香り、隙間から見える
会心の出来! 余熱を取って、バスケットにがしっりと固めて入れる、持っていくときに揺れて形がくずれたりしたらここまでの苦労がぱーだ。
準備は完了! 岩崎さんはいつも貧乏だから、きっと喜ぶだろうと思って頬がゆるむ
「は!」
そんなことを考えた自分に恥ずかしくて、頭ぐるぐる、あったまがグルグルグルグルと、わあとおもって、うちを飛び出す
10分後
息を切らして、家に戻る。
バスケットを取りに戻って再び出発、忘れ物がないのを確認して
駒地真子は、野の花を摘んで、きれいな花輪を作る、わっしわっしと、花壇から摘んだ花を水につけておく。
青虫がわっしわっしと進んでいるような気もするが、見ないふり
かなり真剣にこちらを見つめられているような気もするが、見ないふり
何か黄色いモノを出してるけどあえてみないふり。
青虫はその見事な無視に敬意を払って一礼して去っていった
小さな花で間を埋めて大きな花で形を作る、色の三原則に従って美しく栄える。
ふとおもった、ジャスパーたちは旅人だから、丈夫な方がいいかもしれない。
手近な蔓と髪の毛を入れて補強する、無事でありますように、いつまでもと思いを込めて。
とてもきれいにまとまった、がっしりとした花輪が出来た。
息を大きくすう、花の持つ自然の香りが胸一杯に入ってきて、気分がすっきりしたような気がする。
よろこんでくれるといいなあ、でへへへへとわらうと、特製のケースに入れる、花が散らないようにそっと入れて鞄にいれる。
風が吹く、幸せの力を乗せて、風が吹く
余った花を風に乗せて撒いた、この幸せが誰かに届けと
作品への一言コメント
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- 請け負ってくださってありがとうございます!和やかなACE達とリリカルな国民で、とっても可愛いです。リゾート参加者総出演(アスタシオンさんも!)で素敵です。そこはかとなく、詩歌藩国の雰囲気があるのが不思議にすごいです。素敵な作品をどうもありがとうございました。 -- 経@詩歌藩国 (2007-10-28 20:03:54)
最終更新:2007年10月28日 20:03