つきやままつり@ヲチ藩国 様からのご依頼品


闇を払う金の翼を持つ少女
それは子供の頃信じた夢
誰もが笑う夢の話
でも私は笑わない
私は信じられる
あなたの横顔覚えているから


<突撃軍歌ガンパレードマーチより一部抜粋>


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光の雪が降っていた。
それが降り積もり、音が雪に吸い込まれ、無音と化す。
さながらその光景は、世界の終焉と呼ぶに相応しい情景だった。
「屋外は怖いなあ……」
つきやままつりは、思わずそれを見て声を上げる。
「ひさしぶりだな。これを見るのは」
 舞はやや目を細め、窓から景色を見た。
「前にも見たことあるんですか?」
「熊本で、見た」
 つきやまはやや驚いた顔をした。
 熊本でも、こんな怖い事があったのかと。

 光の雪は世界終焉の始まり。
 ニューワールド中を震撼させるそれは、星見司により大々的に広まっていた。
 世界終焉を防ぐ方法はないのか。
 混乱が混乱を呼んでいる事は、つきやまも聞きかじり程度には聞いていた。
 それを平然と見る舞を、つきやまはただ驚いて見ていた。

「そのときは誰か具合が悪くなったりしませんでした?」
 つきやまが舞を見る。
「舞さんは…大丈夫ですか? 今」
「私は大丈夫だ。まだ」
 舞は精悍に笑った。
 つきやまも思わず一緒に笑う。
「私が影響を受ける時は、おそらく全員がひどいことになっているだろう」
「よかった……具合が悪くなったりしたら、青… 厚志さんにも申し訳ないから」
「青は……まあ、どうにかするだろう。あれはそういうものだ」
 つきやまはほっと胸を撫で下ろした。
「私は、ただの人間だ。それがいいときもあるというだけだ」
「そうですねー 肉体的には、かなあ」
 つきやまは少し考えた後、思いついた事を言ってみた。
「私ね、舞さんと普通におしゃべりしてみたかったんです ずっと」
 つきやまの言葉に、舞は笑った。
 その笑みを見て、つきやまは少し照れる。


「私も猫も、そうかわらないと思うぞ。とはいえ、それと私が私を特別に思うのは別だ。世界は特別でなくても特別になれる」
 舞はそう言うと、つきやまにはよく分からない言葉をしゃべった。
 その言葉に反応して、ブータがやってきた。
 舞はブータを抱き上げる。
「わあ ブータ…さん ここでははじめまして!」
「にゃ」
 ブータは挨拶のように鳴いた。
「わあい、背中撫でてもいいですか? ほっぺおかきしましょうか」
 ブータは特にさしゆるすと頷いた。
「ありがとうございます!」
 つきやまは腰を低くし、背中をかいた。
 ブータはひどくご満悦の表情で目を細めた。
「5121に参加したときはお世話になりました」
 つきやまの言葉に、ブータは頷いた。


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「世界の、終わりが近いんですって」
 つきやまがぽつりと漏らす。
「どんなものにも終わりがあるが、それは今ではあるまい」
 舞ははっきりと言った。
「何を悩んでいるのかは良くわからぬが、空回りしても回転はしているのだろう。回転力を生かせばよいだけの話だ。あまり、思いつめないことだ」
「はい……ありがとうございます」
 つきやまは舞の言葉に頷き、ブータの顔をこすった。


「…舞さん 今しあわせですか?」
「普通だが」
 つきやまは、舞を見ながら想い人の事を考えた。
 彼が、無事かどうかが不安だった。
 舞とブータは目を細めてつきやまを見た。
「え、な、なんでしょう」
「好きな人間がいるなら、私と話さずにそこにいけばいい」
「う、うーん… そ、そうか、そう見えるんですね」
 つきやまは慌てた。
「孤独を愛するならそのようなことは言わぬ」
「そりゃあ、独りがいいとは思いませんけど…うん千年のロマンスに割り込もうってほど厚かましくはなれない、です」
 つきやまの言葉に舞は続けた。
「世界はたくさんあるというぞ。…青の話だが。私が死んだ世界もあるらしい」
「う、そ、そうですね 青がすさまじく荒れたとか」
(荒れたなんてもんじゃなかったとか)
 つきやまはそう考えたが、黙っておいた。
 世の中、知らない方がいい事もある。


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 雪のやむ気配はなかった。
 相変わらず、窓から見える景色は、時間が止まったかのように見えた。いや、実際に止まった人間達も多くいるらしいのだが。
「ここだけの話 みおちゃんは私にとって同志みたいなものなんですよ」
 つきやまは、ブータを抱きかかえながら言った。
「壬生屋か。生きていればいいんだが」
 舞の反応に、つきやまは過敏に反応した。
「…え。行方不明ですか?」
「探さねばならぬ」
「お手伝いできますか」
「手伝うのはまだ先だな。情報がなければな」
「うーん…… もう雪が降ってるのに…」
「そうはまたせぬ…そなたに感謝を」
 舞はつきやまをまっすぐ見た。
 つきやまは思わず赤面する。
 つきやまが赤面している間に、舞は誰かと話を始めた。
 どうも受話器は見えないが、電話がかかってきたようだ。
 「私だ……遠坂か。どうした」
 えっ、遠坂さん?
 つきやまは電話する舞をまじまじと見、電話が終わるのをブータにマッサージしながら待った。
 舞は電話を終え、マッサージをしているつきやまを見た。
「言った傍からだな…瀬戸口がみつかった」
「…どこですか? 危険な状態で?」
「戦闘中ではあるが、まあ、さほどではあるまい」
 舞はさらりと言う。
「そ、そうですか。舞さんの話しぶりでは慌てなくてもよさそうですね」
 つきやまの言葉に、舞が笑う。
「? おかしなことを言いましたか?」
「戦場の基本は慌てないことだ。それだけで、意外にやることに気付く」
「ああ。そうですね。なんであれ慌てちゃだめですね」
「そうだ」
「なんで小笠原がまた戦場に……」
「まあ、それなりにうまくやるだろう」
 今度はつきやまが舞の淡々としたしゃべりに笑う番だった。
「舞さんのそれは 信頼?」
「いや、冷静な評価だ。簡単に死なぬ知り合いばかりだからな」
「それを信頼と言うんですよ」
 つきやまの言葉に、舞は笑った。
 ブータもにゃんと鳴いた。


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 不思議な事だった。
 あれほど「怖い」と聞かされていた光の雪が、今は怖くはないのだった。
 慌てず、まずは情報を得て、そして自分ができる事を精一杯しよう。
 つきやまは舞を笑い合いながら、そう思った。


作品への一言コメント

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  • 書き込みが遅くなってごめんなさい。 (それなりに感情の動きはあったものの)淡々と会話していただけのログがしっとりした雰囲気のSSになって、嬉しい驚きです。結びの部分にあらためて励まされたような素敵な気持ちになりました。ありがとうございました。 -- つきやま@ヲチ藩国 (2007-10-27 18:11:41)
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引渡し日:2007/10

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最終更新:2007年10月27日 18:11