黒崎克哉は人生の中でも大きな決断をしようとしている。
黒崎は、書いた手紙に封をすると、ポストに目をつぶって放り込んだ。
そのまま走って部屋まで戻る、途中、友達に声をかけられた気がするが、脳が沸き立って反応できなかった。
廊下を駆けぬけて、一直線に部屋に走る
ドアが見えた、右手で強く、突き飛ばすようにしてドアを開く。
右手を逆手にして、引き抜くようにドアを勢いよく閉める。
大きな音を立てて、ドアがきしんだ
そのままベットに倒れて、二転三転、ぎゃーとうめいて、枕に顔を埋めるとそのまま寝た。
どれぐらい眠ったか、朝の光を感じて、目を覚ました。
腫れぼったい目を擦すりながら、顔を洗う、ひんやりとした水の冷たさが眠気が飛ぶ
ゆっくりと髪を整えると、テーブルの上に鞄を置き、その中の小さな瓶を、そっと手に取った。
涼やかな色をした液体は、瓶の中で少し揺れて、少し赤のかかった窓からの光をきらきらと反射する。
ビドポーション、性別反転薬とも言われる、小笠原特産物で、資源に並ぶトップ商品だ。
黒崎克哉は、ヤガミが好きだ、いつ好きになったかは覚えてない、思えば最初からの様な気がするし、ふれあって、色々なことを知ったからとも思う。
だから、側にいたいと思った、そして、優しさにふれて、自分の中で何かが、変わっていくのを感じた、最初はともかく、それは今は恋と呼ばれるモノに
だから、決断する
女性になろうと。
今までの関係が崩れてしまうかもしれない、地に足のつかない不安が背中を駆け上がってくる。
ヤガミに対する信頼と混ざり合う自分自身への不安。
男のままなら、たとえうまくいかなくても、また元の友達に戻れるかもしれない、でも変わってしまったら? どうなるかは、分からない。
黒崎は、少しだけ、マイケル、あの可愛らしい火星の民をうらやましいと思った。
昼間は友人で、夜は恋人で、それは、望めないと分かっていても、少しだけ憧れる生き方だ。
だが、どちらかしか選べない、もう後にはひけない。
黒崎克哉は、ゆっくりと瓶に口を付けた。
とても、苦い、そんな気がした。
結論
笑われた。
万が一を考えて、校門の前に立つ、足が震えるような気がするので、腰に手を当てて少しだけ出てきた胸を張る。
向こうからヤガミが来た
まっすぐに来る目がまぶしい、鋭い眼光がこちらの目を射抜くように光っている
こちらに気がついたらしく、まっすぐに向かってくる
「手紙読んでくれたか?」
何とも言えないヤガミの顔に不安を覚えながら、黒崎は尋ねた
「見た」
「悪かったな、あれがおれの正直な気持ちなんや」
胸の中がが冷える
「なるほど、ま、知ってはいるつもりだったが」
それでも、いつも通りつきあってくれるのはきっとヤガミのいいところで、同時に少し、憎たらしいとも思った。
つねってやろうかと思って、手を挙げたが、引っ込める。
いつもの話じゃなくて、今日は大事な話なんだ、気合いを入れて、ヤガミに伝える
「そうだろうな、だからこうして薬も飲んでみた」
「なんの?」
ヤガミはなんのことかわからないと、首をかしげた。
にぶいなあ、と黒崎は思っている、見れば分かるだろうとも思うが
「えーっと、女になる薬だ。まだ、見た目にはわかんないだろうけどな」
大爆笑
ヤガミは体を縦に折って笑い転げた、道でなかったら床に転げまわってわらっていたかもしれない。
「まてまて、まてまてっ」
さっきまでの、心配が一気に形を変えてくる、かなり腹がたった。
「やっぱりわらったなー」
「お前は極端から極端だな」
ヤガミの目に涙が浮かぶ、笑いすぎだ、黒崎は思った
それでも気を取り直す、ここのままだといつものてんかいだ、馬鹿話しながら遊びに行ってしまいたくなる。
「まーね、こうでもしないとお前わかんないだろうし、ほーら」
何が? と聞き返すヤガミの手をつかんで、胸に当てる、まだ余り大きくはないが、はっきりとかんしゃくは伝わるだろう
「分かってる分かってるって。ああ、1年分くらい笑った」
わらわんでもええやん! そういってもヤガミはまだ笑っていた、激しく笑って、やがて、いつも通りにヤガミはいった
「帰るか」
オーと、返事をして二人横に並ぶ
まずここからかーとおもって、黒崎は少しだけ安心した、変わらないことにかわっていくことに
特に予定もないので、そのままいろんな事を話した
ヤガミは笑いながら
「俺はずっとお前のことを女ぽいと思っていたが、女になったあたりで、男らしいと思った。面白くないか?」
といった、言われてみるとおもしろいかもしれないが、何だかなーと黒崎は考えた。
そのまま笑いながら、男らしいと女になるんだ。なんとも男らしいも女らしいも、適当なもんだなといってるヤガミを見るとそれもいいかと思ったりした。
少し日が暮れる中で
「ま、お前はお前だ。いいんじゃないか」
といって、ヤガミは手を出した、それはきっと、ヤガミなりの優しさだったのだろう。
そう思って黒崎も、手を出す
「ありがとう、ヤガミ」
「これまでどおり、仲良くしよう」
握手した、手が暖かくて、その事暖かさを黒崎は、ずっと忘れない。
それからいろんな事を話した、女好きだと思われていたこと、その話でお互いに頭が悪いことを確認しあったり、エビを食ったというヤガミと、エビの食い方の話をしたり
急にヤガミが立ち止まった、ヤガミの視線が道の先の一点に注がれている。
黒崎はヤガミの視線を追う、かすかに、女生徒がみえたような気がする
「変じゃなかったか?」
眉をひそめるヤガミ
「いや、いわれても」
ずっとヤガミを見ていたから、気がつかなかったとは言えない。
甘味処
おごるといって、ヤガミが案内してくれたところは、 雰囲気のいい甘味処、窓際の席で向かい合って座る
注文はそれぞれジュース
「どんな風にって、ああ。そうだ。敵に見えた」
「敵?こんなところに?」
小笠原も平和じゃないのか、休暇にもならない、黒崎は少し不安になった、戦火はヤガミを呼ぶ、ヤガミスキーの常識だ。
「気のせいだろう」
「そうか…ならいいけれど」
心配そうな黒崎を見て、ヤガミは笑った。
「ま、なにかあっても守ってやる」
「!」
息が止める、ほほに血が上っていく。声がうわずるような、かすれるような
「………あ、りがとう、ヤガミ」
「なんといっても女の子だからな。わははは」
ばんばんとヤガミが黒崎の肩をたたく
「っておい!」
反射的にツッコミ、軽く引いてヤガミがかわした。
「ま、暴力は好きじゃないのは確かだろう」
「そりゃそうだ、そもそも守られるのは柄じゃないけどな」
それに
「お前も守ってやりたいんだよ、俺は」
笑いのオーラが肝に刺さったらしいヤガミ、終始笑いが止まらない。
「安心しろ。お前より美人がいたらそっちを助けるから」
当然だろという表情をした
「ひでぇ!」
「そっちのほうがお前も嬉しいだろう」
「うれしかねーけど、な;」
むくれる黒崎、おもしろがってる、ヤガミの奴
「そうか?」
「なんで嬉しいんだよ」
「今ならやっぱり美人より美少年か?」
「ぶ!」
100%ジュースが豪快にストローからヤガミに飛ぶ、ヤガミ、スウェー回避
いつもの関係に戻っている、もしかして、ヤガミは分かってないんだろうか?
「あのなーちゃんと手紙読んだのか? 友達としてでなくって書いといたろう」
「読んだ、読んだ」
ため息が出る、知ってはいたけど
「…お前もまだまだだなぁー。………俺は、お前が、いいんだよ。」
わかれよと、眼力を込める、わかれわかれーと、眼力で火花が出そうだ
ヤガミは眼力を受けながら、ジュースをすすった、甘いなこれーという表情をして涼しげに眼力が流れていく
「分かってはいるがまあ、ぴんとこんなぁ」
「ま、いいや、昨日今日でわかってたら苦労はしてないもんな」
少しだけ皮肉もこもってる、今すぐわかれっていうほうがむりだもんな
「まあでも、薬の効果はあったようでなによりだ。今までよりも、ずっと穏やかだな」 「お前が女っぽいー女っぽいーっていうから」
「俺のせいか」
笑う、笑う、ヤガミ笑う、今度は優しい笑い、しみ通る様な暖かい笑顔
今まであった中のヤガミで一番笑ってるかもしれない
「一部はね」
少し腹が立って、ふんとはなをならす、そんな仕草が可愛いらしく、ヤガミはまだ笑った
「わかった分かった。責任はとってやる。知り合いの男がいてな、紹介する」
笑いながら言うヤガミに、腹も立たずにむしろあきれる、ほんまにおまえってやつは・
「ちょっと頭悪いな、うん そこがいいけどな」
もう笑うしかない、そういうところにも惚れているのだ、惚れたがまけだ。ただ、いつか、もっとらしくなれたとき、コレをネタにいびってやろう、黒崎は意地悪な事を考えながら、負けじと笑う
「いくら俺好きだからって、気持ち悪いだろう。そう言うときはあれだ、新しい環境ならうまくいくさ」
「殴るぞ?;」
軽く手を挙げてみせる、気持ち悪いとか、そんなことは絶対にない
「お前が俺を気持ち悪いと普通は思う・・・はずだ、たぶん」
「おれはそうは思わない。」
断言、何を考えてるんだか、ヤガミはいつも変なことを気にしていると黒崎は思った、
「そんなものか。性別変わるとそんなものなのかな、何事も臨機応変だ」
ヤガミはまいったと両手をあげていった
「分かった」
そこで接続が切れた
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最終更新:2007年10月22日 15:14