お茶会の前奏曲

  (小笠原ゲーム 『ソーニャとエミリオ 冒険編』より ―ソーニャ様に捧ぐ―



木漏れ日あふるる午後のひととき。

太陽が元気よく照りつけるそんな日には

美味しいお茶と美味しいお菓子、そして大切な人たちとテーブルを囲んで。

楽しいお茶会をはじめよう。


「ねえ、エミリオ。そこの白いテーブルクロスをとってくれる?」
「これ?」

ソーニャの声に、エミリオはぱりっとのりのきいた、真っ白なテーブルクロスをソーニャに手渡した。

「ありがとう! じゃあ、そっちをもって……せーの!」

ソーニャとエミリオがテーブルクロスの両端をもって、白い波をテーブルに広げる。
ふわりと布が翻って、外の光が一瞬さえぎられた。

「あとは、このうえにお花を飾るだけね」
「うん」

ソーニャは満足げに腕を組み、大きくうなずいた。
エミリオもつられるようにこくりとひとつ頷いて、はたと気がつく。

「あ。でも、フィナンシェの用意は?」
「大丈夫、まかせて!」

ソーニャは、ぐ、と親指を立てて見せた。

「そっちは、スイトピーががんばってくれてる…」

はずよ、とソーニャが続けようとしたその瞬間。

ぐぉぉん。

というすさまじい音があたりに響いた。
ソーニャとエミリオは思わず顔を見合わせる。

「な、何かしら。この音……」
「キッチンのほうだ。行ってみよう」

漂い始めた黒い煙と、焦げ臭いにおいになんとなく嫌な予感を覚えつつ、ソーニャとエミリオはキッチンへと向かったのだった。




「なんですの、このオーブン…! けほ、けほっ…」
「スイトピー、大丈夫?」

エミリオとソーニャがキッチンに辿りついたとき、スイトピーはもくもくと立ち上る煙に顔をしかめて咳き込んでいた。

「大丈夫じゃありませんわ! このポンコツオーブン!!」

げし、っと行儀悪くスイトピーはオーブンを蹴った。
その拍子にさらに煙が立ち上って、今度は三人で咳き込む。

「す、スイトピー…けほっ…オーブンに八つ当たりしても……」
「わ、わたくしとしたことが、ちょっとしくじりましたわ……」
「げほっげほっ」

咳き込みながらも、エミリオが排煙用の窓を開け、それでなんとか煙から解放された。

「はぁ……。やっと一息つけたわね」
「酷い目にあいましたわ」
「二人とも、大丈……夫?」

そう言って、ソーニャとスイトピーの顔を覗き込んだエミリオが、一瞬動きを止めた。
次いで、息をつめる。
何かを必死でこらえているようだ。

「エミリオ?」
「どうかしましたの?」
「二人とも、鏡を……」

それだけ言うと、肩を震わせて笑い始めた。
鏡を覗き込んだ二人は、自分たちの姿を見て目を見開く。

「な、なにこれ~!」
「真っ黒……」

まるでパンダのような隈取が、すすによって施された二人の顔を見れば、まあ笑い出してしまうのも仕方ないような気がしなくもない。
しかし、レディの顔を見て笑いをこぼすのは紳士失格でもある。

「笑ってるエミリオだって、顔真っ黒じゃない!!!」
「え?」

ずいっとソーニャが差し出した鏡を見ると、当然のごとく真っ黒な顔をしたエミリオが映し出されていた。
しかも、笑いをこらえるために腕を顔に押し付けていたせいで煤がのび、さらに酷いことになっている。

「エミリオのほうが黒いですわね」

自分はさっさと顔を洗ってさっぱりしたスイトピーがあっさりと言う。
それは確かにそのとおりだったので、何も言い返せずに、エミリオはとりあえずソーニャに鏡を返した。

「これ、ありがとう」
「ああ、どういたしまして」

言い合っていても不毛なだけと気づいた二人は、スイトピーにならって顔を洗う。
同じくさっぱりして、とりあえずあたりを見回した。

「それにしても、キッチンも真っ黒ね」
「スイトピーは何を作ろうとしてたの?」
「これですわ」

スイトピーがさししめしたのは、マドレーヌのレシピだった。
とりあえずソーニャがオーブンを覗いてみると、原形をとどめていない何かが、ぷすぷすとくすぶっていた。

「ねえ、スイトピー」
「何ですの」
「オーブンの温度、いくつにしたの?」
「え?」

ソーニャは設定温度を見ながらちょっと遠い目をしている。

「300℃……」
「え? これじゃあダメでしたの?」

エミリオが設定温度を読み上げる。
ダメと言うか、その温度なら焦げて当たり前である。

「……まあ、ちょっと高すぎるかも」
「どうしようか。今から作り直す時間は……」

見れば、皆が揃う時間まであと1時間しかない。

「ごめんなさい……」

さすがに悪いとおもったのか、スイトピーがしゅんと謝る。

「大丈夫よ、スイトピー! 三人でやればなんとかなるわ!」
「うん。今度は僕も手伝うよ」
「ありがとう」
「そうと決まれば、ダッシュで行くわよ~!」
「「おー!」」

そうして、何とかクッキーが焼けたのは(時間がないのでマドレーヌから変更)、ぎりぎりお茶会が始まる1分前のことだったとさ。


END


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最終更新:2007年10月08日 23:30