日向美弥@紅葉国様からのご依頼品


 じゃあ、藩王に連絡してきますね、と電話に向かう美弥を横目に、玄ノ丈はベッド脇に置いてあった端末を引きよせた。
 めんどくさい、とばかりに緩い動きだった。

「まあ、ここから取れる情報にも限りはあるが…なにせ専門外だからなあ…」

 基礎教養だけでも頭に入れておかないと、事件の調べようもないだろう。
 ここに来て覚えた、ごくごく単純な電子書籍ソフトを立ち上げて、頭が痛くなるような単語を読み始める。
 どうせ暫くは遠くにも行けない。近場の街での情報収集がせいぜいだ。
 ちらりと部屋の外を見る。
 自分の伴侶だって、ごく普通にやるべきことをやっている。

「なるようになる、か」

 いくつかのことを考えながら、玄ノ丈は<暇つぶし>をはじめた。


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coffee break

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 落ち着きがない昨今の情勢の中。
 玄ノ丈と美弥の、二人の家で、玄ノ丈はとても暇そうにしていた。
 くたりとソファーでくつろいでいる。

「玄ノ丈さん」

 美弥が声をかけて側に行くと、「ん?」と軽く首を傾げて反応された。
 ……かわいい。
 本能のままに、更に距離を詰めて飲み物はテーブルに置いて自分はソファーに座り、ごろごろと甘える。(そこまで一挙動だった)
 と、機嫌良くなでなでされた。
 しあわせだー。

「大きなヤマだ」
「ですね」

 なでなでされるがまま、玄ノ丈にもたれる。
 くっついているところが暖かい。
 家に二人いるのは、とてもよい。いろいろ、いろいろあったからというのもあるが、好きな人と一緒にいられるのは、こう、純粋に、よい。
 しあわせだー、とふやけた思考を情勢に戻しつつ、玄ノ丈の話を聞く。

「が。金が使えないんじゃ、環状線もロクに乗れないわけで、回復までには随分かかりそうだ」
「お金をまわせないと、流通その他、厳しいですね。うちの国は、観光収入の割合も大きかったですし」
「まったくだ。まあ、スーパーインフレが始まって、こっちで約1ヶ月、なんの手も打てなかったのはミスだろうが」

 ちょっとため息のような仕草が垣間見えた。
 なにか、別の事かな、と思いつつ飲み物を勧めると、玄ノ丈が喉を湿らせつつも言葉を継いだ。

「他にもあるかもな」
「他に、というのは?」
「わからんが、外交費用を大統領府が出すと、経済破綻する理由が、個人的によくわからん。だからかもしれん」

 どちらも経済専門家ではなかった。
 ので、二人してうーん、と首を傾げる。

「こちらでも、よく理解できてなかったとこです。対処に追われて、そのあたりはつっこめてないですね」
「まあ、金が増えてインフレになるのは、TVのニュースで何となく分かった」

 諸々の対処が終わったら考えるやつも出てくるだろう。
 そうひとつ頷き、玄ノ丈は言った。

「実際、調べてみてそれだけなら、まあ、次から金の使い道を考えようで終わる」
「ええ」
「まあ、暇なんだな。実際」

 最初に戻る、とばかりに暇そうにしている玄ノ丈を、美弥は軽く抱きしめた。
 触れている面積が増える。

「相手が経済だと、動く人も動き方もかわってきますしね」

 身体を受け止められる。
 なでなで。
 撫でられて、ふにゃりとした。なでなではよい。
 こちらに心をくばっていてくれるのが分かるのだから。
 いいんだけ、ど。

「電車代もないんだがな」

 なでながら苦笑された。

(でんしゃだい…)

 インフレ=お金が意味無くなる=お金足りない。
 …外に出るにはお金が要るのか。
 はたと思いついた。

「あう…それでうちにいるんだ。ちょっと、うれしいですけど」

 同じ状況の人がたくさん、なのだろう。
 とはいえ、家に玄ノ丈がいるのは本当に嬉しいので、感情のままに微笑んでしまう。

「いやまあ、俺はごろごろするでいいが、農家以外は大変だぞ。今は」

 うなづく。
 確かにそれは、自分たちも危惧していたことではあるのだ。

「ええ、うちの国は食料生産地あるから、そちらの支援を厚くしつつ。都市船関係は、どうなっています?」
「うかんだままだな。まあ、水と空気には困らない」
「確かに、潜行しちゃうと空気の問題でてしまいますしね。かといって、そのままでいつまでもいられないし……にゃうう。けっきょくまず経済建て直し、か」
「で、それは俺の専門外だ」

 いっそのこと清々しいまでの言い切りに、ちょっとだけ笑った。
 このひとは(こういう人達はと言うべきか)、できることとできないことを明確に区別できているのだ。
 そして自分は、専門ではないにしろ、話をしなければいけない立場なのだった。

「うん、そのへんは藩王摂政と話し合ってみる。まず状況がぜんぜん把握できてなかったのが、こっちの問題だったから」
「まあ、でのみというやつで、ようやく回復基調だ」
「うん、あとは回復の波に乗り遅れないようにですね。そのへんは藩王もあれこれ話してたし」

 頭を玄ノ丈さんにあずけてあれこれと考える。
 ごろごろしたり抱きついたり始終くっついているせいか、なんというかほわほわする。
 玄ノ丈さんは相変わらず、なでなでしてくれるし。…うん、なでてはくれるんだ。
 心の中で、多少考えてはうーんと却下してみたり。

「それがいい。俺も暇つぶしする」
「はい。えーと、暇つぶしって?」
「今回の経済事件を調べてみる。専門外なのは分かってるが」
「ううん、裏がありそうでなさそうで気持ち悪いのも確かだし。調べてくれると助かります」

 なんだか無性に口づけたくなって頬にキスすると、玄ノ丈は笑った。

(ん、だいじょうぶそうなきがする)

 更にごろごろと甘える。

「にゃー、その前に今ちょっとだけ甘えさせてください」
「?」

 撫でてくるその腕を取って、封じて。

「さっきから、なでられるばかりなので」

 少し長めに口づけた。
 からかうような笑いを返される。

「お前は忙しいんじゃないのか?」
「藩王と連絡とれるのは、数時間後です。忙しいけど、編成はもう終わらせてるし、今この時間は待機だから、ゆっくりしてるんですよ」
「なるほど」

 微笑んで説明していると、玄ノ丈に押し倒された。
 視線の先に玄ノ丈がいるのが、たまらなくうれしかった。

「数時間ね」
「うん」

 玄ノ丈に優しくキスをされ、うっとりと目をとじた。

「ゆっくり会いたくて、時間あけてきたんです」

 頬や口の端に唇を触れさせ、最後にキスのお返しをする。

「愛してる」
「私も、愛してます」

 美弥は、目の前にいる想い人を抱きしめた。


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これ以上ないほどの砂糖っぷりで、え、私何を文章にすればいいの!?と難産いたしました(笑)
とはいえ、始終によによしながら書かせて頂きました。ありがとうございました。


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引渡し日:2011/06/07


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最終更新:2011年06月07日 20:31