山吹弓美@愛鳴之藩国様からのご依頼品


「るしにゃんの森を…」


作:11-00230-01:玄霧弦耶



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るしにゃんの森を男が二人歩く。

一方は、蛮人ともいえる筋肉を、どこか気品のあふれる衣装に包んだ偉丈夫。
一方は、触れただけで折れるかのような細い体を、緑の衣装に包んだ美男子。
二人は、生まれも育ちも、身に着けている物もまるで違って見えた。
しかし、そのどこか高潔な様は、まったくと言って良いほど同じであった。

るしにゃんの森を男が二人、歩く。

木々の匂い、川の匂い、それらを複合した、森の香り。
そのどちらとも違う、火薬の臭い、饐えた臭い、そして、血の臭い。
前者はともかく、後者は、男達のよく知る臭い。
遠く響く戦争音楽。男達がよく知る音楽。


るしにゃんの森を、男が二人、歩く。


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不意に、美男子が咳き込んだ。
素人目に見ても危険な咳き込みかたである。

「大丈夫か、ベルカイン」

歩みを止め、偉丈夫が声をかける。
ベルカインと呼ばれた美男子は、息を整えながらも、寄ろうとする偉丈夫を手で制した。

「大丈夫だよ、リョーマ。心配は要らない」

咳き込みながらも其れだけを言うベルカインを見て、リョーマと呼ばれた偉丈夫が、軽く息を吐いた。
周囲を観察しながら、ベルカインの復帰を待つ。
暫くして、ようやく息の整ったベルカインが改めて口を開いた。

「すまないね。さぁ、行こう」

リョーマは、「本当に大丈夫か?」と確認しようとして、やめた。
ここから先は、死地である。
そこに向かうのであれば、それなりの『覚悟』のある人間である。
その覚悟を穢すような真似は、したくないと思ったのだろう。


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殆ど会話も無く、二人は歩く。
疾うの昔に、森の香りはなくなっていた。
変わりに強くなる、よく知った匂い。よく知った音楽。
周囲の様子が、次第に異様なものへと変貌していた。
征くべき場所が、近づいてきた証だ。

「リョーマ、ありがとう」

不意に、ベルカインが声をかけた。
リョーマは、何を指して言われたかは思い当たらなかったが、少し微笑んで、頷いた。
ベルカインも、弱弱しく微笑む。

「もうすぐ、集落があった場所につきます。 ……残って、いれば」

リョーマの顔が、不意に渋くなる。
勿論いきなりロマンスグレーになったわけではない。言葉の意味を察して、顔を顰めたのだ。
理解はしていたが、納得はできない。そんな、顔である。
ベルカインも、同じような顔をしていた。

「急ごう」

どちらとも無くそう言いだし、男達は歩みを進めた。


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たどり着いた『元集落』は、人であふれかえっていた。
但し、全ての人は武装された軍人か、医療・整備班だった。
元居た人々は、既に逃げたか、もしくは、既に存在しないか。

「(或いは…)」

そこまで考えて、リョーマが頭を振った。
その際に、戦場に似つかないメイド服の女性を見かけ、ふと、昔を思い出した。
前に居た国のメイド服とは意匠が違うものの、共和国では珍しいその服装に、懐かしさを感じたのだ。
改めて頭を振って、リョーマは考えを消した。兵の一人に声をかける。

「すまない。この先に行きたいのだが」
「申し訳ありませんが、この先は凶悪な敵が出現します。正式な許可が無ければお通しすることはできません」

表情を変えずに返す兵をみて、二人は顔を見合わせる。
兵の言うことはもっともだ。普通の人間なら、少し進んだだけで敵に取り込まれるだろう。
とはいえ、ここまで来た手前、はいそうですか。ともいかない。

「どうしてもここはとおれんのですか」

少々威圧的な言葉に、兵がたじろぐものの、退く気配は無い。
そんな押し問答をしていると、先ほどのメイド服の女性がベルカインの名を呼びつつ、走ってきた。
リョーマは、反射的にベルカインを庇う。
メイド服の女性は、所属と名前を名乗り、続けてベルカインの恋人だと言った。

「なんだ、すみにおけんな」

と、リョーマがベルカインの背を叩く。
よろけるベルカイン。そのまま、倒れた。
大げさだな、とリョーマは思ったが、名を山吹弓美と名乗った女性の非難がましい目をみて、むっつりと考え込んだ。
単に苦手なのもあったが、恋人の語らいを邪魔するほど、無粋でもなかったらしい。
2・3言喋ったあと、リョーマは、背を向けた。


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しかし、恋人の語らいは長く続かなかった。
急に声をかけられたリョーマが振り向いたときには、女性は消えかかっていた。
リョーマにはこの風景に覚えがある。知り合いにも、同じような現象で消える人物がいた。
真剣な様子で、女性はリョーマに助けを求めた。
苦笑しつつ、ベルカインを放り投げるリョーマ。
女性が慌ててキャッチした瞬間、二人が消える。

「……まあ、一人でいくか」

頭をかきながら一人つぶやくリョーマ。
あたりを見回し、帝国の兵を見つけると、何事かつぶやき、堂々と兵達の間を通り、死地へと向かった。

周囲には異形の気配。目指す先には懐かしい音楽と懐かしい臭い。
そして、友軍たちの奮戦の声。



るしにゃんの森を、男が一人、歩く。


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一方そのころ。
消えた山吹とベルカインは自分たちの国に戻り、大騒ぎをしていた。
といっても主に大騒ぎをしているのは山吹のほうであり

「うわーんばかー!」

だの

「でもよかったー!」

だの

「だけどもう一人にしないでー!」

だのと、百面相する山吹に、ベルカインは弱弱しく、しかしやさしい微笑みを返している。
それを見て、また山吹が大騒ぎをする。
騒ぎの中心であるベルカインは、どこか残念そうではあったが、次第に表情も和らぎ、数分前と同じく、愛おしい人をやさしく、抱きしめた。




その後、二人の似ていないようでどこか似ている男がどうなるかは、また、別の話。
同じく、ベルカインを愛する山吹のその後がどうなるのかも、また、別の話である。



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コメント:
すいませんすいませんえらい時間かけてしまいましたマジすみません。
そのうえ出来上がってみたらなぜか山吹さん&ベルカインより谷口の方が目立ってる気がするぜ・・・

なんだか申し訳ない気分で一杯ですが、納品させて頂きます。
何かと大変なことが続いておりますが、お二人の幸せを願っております。


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引渡し日:2011/05/15


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最終更新:2011年05月15日 21:39