ホーリー@満天星国さんからのご依頼品
「ポコ・ア・ポコの楽しい1日」
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美しい旋律と歌声が、満天星国の夜空へと溶けていく。
「I wish you're happy. (Renkon Renkon) 」
歌声の主は、ピアノの上で、軽やかに指を踊らせ、
「Free from any tragedy. (Renkon Renkon) 」
伸びやかに歌い上げる。
「It's a beginning.
I'm believing all will be in harmony.…」
一通り歌い終わると、ぱたりとピアノの蓋を降ろし、オーブンへと向かった。
ちょうど20分。焼き上がったレンコンブラウニーを一口頬張る。
「これは…さっくりとしたレンコンの歯ごたえが、斬新な食感を生み出していますね」
満足げに微笑むと、食べやすい大きさに切り分け、ラッピングを始める。
「緊張するなーお口に合えばいいのだけど」
明日は初めて二人きりで斎藤と会う。
目的地のポコ・ア・ポコのパンフレットを引き寄せてパラパラとめくった。
「カントリーパークは外せないな…喉が乾いたらカフェ・オレを砂糖たっぷりで…」
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「斎藤さん、例のものは用意できていますか?」
「はい!こちらです!」
斎藤は丁寧に折りたたまれた薄いピンク色の衣服を、善行に手渡した。
一度広げてサイズを確認する。
「結構。感謝しますよ」
「はい、ところでこれ何に使うんですか―?」
「それは…申し訳ありませんが言えません。軍機ということにしておいてください。…ところで、嬉しそうですが何かありましたか?」
眼鏡に手を当てつつ、うまく話題をそらす善行。
「はい!実は明日おでかけするんです!お外なのでもしかしたらワニが食べれるかもしれません!」
「それは素敵ですね。おっと、用事が…それでは私はこれで」
そう言うと、善行は衣服を紙袋にいれて、そそくさと去っていた。
「さて、私も準備をしなくてはいけませんね!奈津子―奈津子―最強の子―♪」
鼻歌まじりに、鞄に包帯や注射針を詰める。
「それにしても…女性看護師用の服なんて何に使うんでしょうか」
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ホーリーは、待ち合わせ場所につくと、そわそわとあたりを見渡した。
場所は満天星国の郊外ファームタイプの遊園地、ポコ・ア・ポコだ。
この遊園地は、4つのパークに分かれており、今いるゲートから入ってすぐのカントリーパークは、コンクリートパークと並んで人気のあるスポットである。
遠く広大な草原を渡る風が、優しく髪を撫でていく。空は広く青く透き通っていた。
「あ、斎藤さんーこんにちは。おひさしぶりです!」
斎藤は、すぐに見つかった。女性にしては長身であることもあるが、学生服が目立っている。
「こんにちは!」
急いできたのか、少し息が乱れて、髪がところどころはねていた。
「お元気にされてましたかー?」
「にゃー。元気です元気ですー」
ニコニコと笑う斎藤。相手まで楽しくするような、そんな笑顔だ。
「わーいよかった。わたしも元気ですっ」
ホーリーもにっこりと笑って、二人で微笑みあった。
「ここは、どういうところなんですか?」
きょろきょろとあたりを見回す斎藤。
珍しい建物や、マスコットキャラクターの看板などを見ては、おお、とか、わあとか歓声をあげた。
「満天星国です。ここがわたしの国ですよー。」
近くにあった、看板の「満天星」という字を指さして、説明する。
「変わった名前ですね-」
斎藤は指で字をなぞりながら、首をかしげた。どの字がどの音に対応しているのか確認している。
「ええ。読みにくさでは一二をあらそいますね。それで、今日はファームタイプの遊園地におまねきしてみました。」
「農園ですか?」
「牧場を中心とした、体験型のテーマパークですね。」
『牧場』という単語を聞いて、斎藤の眼がキラキラと輝きだす。
「牧場? お馬さんいますか!?」
勢い込んで斎藤はホーリーの眼を見る。というか顔が近い。
「いますよっ、乗馬もできます」
ちょっとどきどきしながら、パンフレットの内容を思い出して答える。
「わーい」
くるくるっと回って踊りだす斎藤。どうやら、場所のつかみは万全だ。
「では、いきましょう」
ホーリーは斎藤を促すと、二人分の切符を買って入場した。
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ふんふんっという音が聞こえるが、まだホーリーは馬に乗っているわけではない。
だいたい、馬に乗ってるなら下から聞こえるものだが、今聞こえているのは横からだ。
「あはは。気合はいってますねー」
笑いながら、音の主に話しかける。
「お馬さんに乗るのははじめてなんです!」
勢い込んで答える斎藤に、すれ違ったカップルがびっくりして、そして微笑んだ。
「おおー。それはよかったです。」
目的地を頭で思い描きながら、斎藤を手際よく誘導していく。
乗馬施設にはたくさんの馬がならんでいた。
小さな女の子がポニーに乗って嬉しそうにはしゃいでいる。両親と思しき男女が幸せそうに、手を振った。
遠くには、ポニーより一回り大きい馬に乗った二人が、並んでおしゃべりしている。
幸せな休日の光景だった。
「こんにちはー」
「こんにちはーっ」
二人が声をかけると、背の高い従業員のお兄さんが飛んでくる。
「いらっしゃいませ、乗馬体験教室にようこそ!お二人様ですか?」
少し腰をかがめて、二本指を立てる。
「はいっ」
力強くうなずく斎藤。の姿をみて、従業員は少し困った顔をする。
斎藤は遠く見える黒鹿毛の馬と目があって、なんだかわあわあ言っている。
「はい、かしこまりました。あーと、お客様ちょっと」
ホーリーは呼ばれて、少し斎藤と離れる。
「あの、お連れ様の恰好ですといろいろと、その問題がおこるかと・・・」
「問題ですか?」
「ええと、その、馬にまたがったりしますので…」
聞いて、ホーリーは少し顔を赤らめた。
「ああ、そうですよね。困りました」
「よろしかったら、あちらにスタッフ用の乗馬服がありますので、お着換えになりませんか?」
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「目がかわいいですねぇ!」
乗馬用の服に着替えた、斎藤はご満悦で馬の首に抱きついている。
少し小さめのおとなしい黒鹿毛の馬で、さきほど斎藤が熱心に見ていたのを従業員がちゃんと見ていてくれたようだ。
離れた場所で、先ほどの背の高い従業員が微笑んでいた。
「ですよねえ。おんまさんの目って、黒くて、深くてー」
すらっとした斎藤には、白のキュロットや黒い皮製の長靴が良く似合った。
着替え終わって出てきたときに、お似合いですよとか言えばよかったかなと少し後悔する。
斉藤はえへへと笑いながら、首をだいてる。無邪気な笑顔が可愛かった。
「よおし、じゃあ、いっちょ乗馬挑戦してみましょうか~」
「あ、はい。でも重くないですかね」
ホーリーの方を振り向いて、また馬を見る。
「ぜんぜん大丈夫ですよ。斎藤さん、スマートだしー」
そう言われて、斎藤は鐙に片足をかけて、ふわりと静かに馬の背にまたがった。
心配そうに、そっと首筋に触れる。馬は機嫌がよさそうに、ふふん。と歩き出した。
「わあ」
「おっ、歩いたっ」
馬というのは、乗ってみると意外と視点が高い。自転車やバイク、車といった『座席が揺れない』乗り物に慣れてる人間にとって、馬に乗ると言うのは慣れるのに時間がかかるものだが、斎藤の乗る馬は、とても安定しているように見えた。
「君はすごいねえ」
手綱を垂らしたまま、斎藤が馬に話しかける。
「優しい子なんですね。はじめての斎藤さんを気遣ってくれてるんですよ。楽しんでいって欲しいなって」
ホーリーは別の鹿毛の馬に乗りながら、斎藤に話しかけた。
「えらいね。ありがとう。」
ぽんぽんと斎藤が馬の首をたたく。馬の方も上機嫌でかっぽかっぽとあるいた。
少し高い位置にいるだけなのに、空が近いように感じた。
先ほどの親子連れが、ベンチに座ってアイスクリームを食べていた。
小さな女の子は、どこでもらったのか左手にしっかりとポコ・ア・ポコの風船を握っている。
「のんびりしていいですね、斎藤さ……ん!?」
ふと、斎藤の方をみると、なんだかえらくスピードが上がっている。
「っと!」
ついていこうと、ホーリーも速度をあげるが、それ以上に加速していく斎藤たちには追いつけそうにない。
ぐんぐん、速度が上がって、ジャンプ一番。柵を乗り越えて、駆けだしてしまった。
「わ、すご!……えと、わたしたちもできるかな?」
馬首をぽんぽんと叩きながら、鹿毛馬に尋ねるが、なんだかえーという顔をされたので苦笑いする。
「ピケの操縦なら慣れてるんだけれどな。」
すいっと手綱を操ると、係員さんのところにもどる。
「すいません。連れがコースを外れてしまいました」
「え、えええええ!すいませんでした!あんの馬鹿馬――――――!」
さっきの背の高い従業員が、猛ダッシュで斎藤と馬の消えたほうへ向かっていく。
それを見届けるとホーリーは施設の始点のところへと馬首を向けた。
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しばらくしてから戻ってきた斎藤の顔は晴れ晴れとしていた。
「おかえりなさい。よい冒険だったみたいですねー」
ホーリーがニコニコと話しかける。
「ごめんなさーい。この子がはしりたそうでぇ」
「ははは」
ホーリーが笑うと、斎藤も、まわりを元気にするようなそんな笑顔で笑った。
斎藤が元の制服にもどる間、背の高い従業員は平謝りに謝っていた。どうも、見かけによらず問題児な馬だったらしい。
この件はどうか穏便にといわれたが、こちらにも非があることなのでということで片がついた。
制服に着替えると、斎藤は黒鹿毛の馬に近づいて、馬体を撫でた。
「楽しませてくれて、ありがとうね。」
ホーリーが二頭の馬にお礼をいう。鹿毛の馬は言葉がわかるみたいに、馬首を下げ、栗色の馬は斎藤の制服の裾を軽くかんだ。馬に甘噛みされると、結構唾液がついてべたべたになる。
「うう~」
「あはは。また来たら、乗せてあげるってよ」
涙目の斎藤を笑いながらフォローする。黒鹿毛の馬はやっぱりふふんと上機嫌そうだ。
「さて、運動したらおなかすきませんか?」
「あ、え? はい」
名残惜しそうに撫でている斎藤に声をかける。
「また来ましょう…お世話になりました。ありがとうございました」
乗馬施設を出て、ホーリーは上機嫌にポコ・ア・ポコの道を歩いた。
ここまでの流れはなかなか良かったように思う。次はどうしよう。とりあえずどこかで、もってきたブラウニーでもつまめるといいのだけど。
案内板を見つけて、じっと見つめる。
「さて、どこに……ってあれ?」
斎藤に話しかけようとする。が、隣をみるといつの間にか斎藤がいない。
「しまった」
どうやら、乗馬施設においてきてしまったらしい。
急いできた道を戻る。ほどなく追いかけて来ていた斎藤と落ち合った。
「ごめんなさい~。先々勝手に動いてしまって」
「いえー。すみませんー。ちゃんときいてなくてーどんくさくてごめんなさい」
道の真ん中で二人で二人で謝り合う。
「いえいえ。えーと。お土産にお菓子焼いてきたんで、よかったら食べようかと思って、焦ってしまいました」
「わー。ありがとうございます!」
斎藤の顔がぱっと輝いた。斎藤の住んでいる世界では砂糖は高級品で、甘いものを食べる機会はあまりない。
「お口にあうといいのですけれどー」
言いながら、先ほどの案内板を思い出しながら、荷物を広げられる場所に案内する。今度ははぐれないように、気をつけながら。
「大丈夫です! お腹は丈夫です!」
ぐっと握りこぶしをつくって、微笑む斎藤。
「よし、心強い!」
つられてホーリーも笑顔になる。
羊の鳴き声が遠くに聞こえる。
子どもたちが傍を駆け抜けて、植え込みのドウダンツツジがふわりと揺れた。
二人のデートはまだ始まったばかりだ。
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おまけ「ポコ・ア・ポコの問題児」
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わしの名はルドルフ。まあ馬の数の多いポコ・ア・ポコの中でも1番の美しい馬体を持つ貴公子や。さっきもひょろっとした美人のチャンネーが、わしのことを熱心に見とったわ。あれはまあ……惚れたな。知っとるか?馬ってのは、女性が求めるすべてを兼ね備えてしまっているんやで。優美な馬体、深く知的な眼差し。まあ、あれやな。隣の背の低い兄ちゃんにはスマン!っちゅー感じやな。
「おい、クリキントン号」
なんや、ケンジか。っちゅーか、その名前で呼ぶな。ルドルフやいうとるやろ。
「これが最後のチャンスだぞ。これでヘタ打ったら本当に馬肉にされてもしかたないんだからな」
なにいっとんねん。わしが何したっちゅーんじゃ。
「この前だって、お客様振り落としやがって。あのあと大変だったんだぞ」
あれは化粧臭いおばはんがドカンとでかいケツのせやがって、しかも連れのおっさんがバシャバシャフラッシュ焚くからやないか。いわば教育的指導ちゅーやつやね。
「とにかく!今回はちゃんとおとなしく、お客様をおのせするんだ!」
あーもう、うるさいやつやな。そんくらい朝飯前やっちゅうねん。そういやまだ昼飯くっとらんわ。
「さあ、行くぞ」
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「目がかわいいですねぇ!」
おーなんや、誰かと思えばさっきのチャンネーやないか。目はわしのチャームポイントなんや。わかっとるやないか。おい、ケンジ、何を心配そうに見とんねん。まかせとけや。
「よおし、じゃあ、いっちょ乗馬挑戦してみましょうか~」
「あ、はい。でも重くないですかね」
んーまあ、この前のおばはんに比べりゃ軽いもんやな。乗り方もうまいもんやね。じゃあちょっとサービスしたるか。
カッポカッポ
「君はすごいねえ」
ふふん、せやろ。わかっとるやないか、おねーちゃん。このバランス、安定感、そこらのサンピン駄馬には出せない風格っちゅうやつやな。
カッポカッポ
「えらいね。ありがとう。」
ええってええって。万事このルドルフ様にお任せしとき!めくるめくホースライディングの世界にご招待や!気張ったるでー。
お、ビーシー先輩。大変ですねー男相手やなんて。なに?お客様やから男も女も関係ないて?いやーさすが先輩は乗馬馬の鏡でんなー
カッポカッポ
あかん。だんだん暇なってきた。こんなかっぽかっぽあるいて何が楽しいもんあるかい。
なーおねーちゃん。
「ん??」
ん?馬語わかるんかい。いや、そんなはずないわな。わい、ちょろっと腹減らしがてら、走りたいんやけど、どうかなー?
「んー」
ええやないか、減るもんやなし。
「すこしスピードあげちゃいましょうか?」
おっ、話がわかるやないかーじゃあ行くでーちゃんと掴まってるんやで。
ウォークから、トロット。キャンター…そしてギャロップや!!
はははっ気持ちがいいで!見てみ!みんなこっち見てるわ!
「すごーい!はやーい!」
うっしゃ!こんな、狭いとこでやっとれるか!
飛ぶで!
「わあ!」
さあ、さあ、出血大サービスやでおねーちゃん!
おっ!メリーさん、ちわっす!って、こっちはだめや。犬がおるねん。犬は苦手や。
こっちいこ。あ、あのおばはん、この前のおばはんや。ちょっと飛び越してやってもええか?だめか。しゃーないな。ここはねーさんの顔たてるわ。
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「楽しかったですねー!」
そうやなー結構へとへとやけど楽しかったわーねーさんも案外タフやね。
「あ、ホーリーさんたちだ…ごめんなさーい。この子がはしりたそうでぇ」
せやでーねーさんは悪くないんや。そんな怖い顔すなやーケンジー。
「本当にすいません!すいません!」
「いえいえ、本人楽しかったみたいですし」
せやせや。えーからはよ飯くわせてや。あ、ねーさん戻ってきたで。
「楽しませてくれて、ありがとうね。」
はっはっは。まかせとけやーわしも楽しかったわー
かぽっ
「うう~」
ありゃ、なんや、うるうるして。感動してもうたんか?
あれやで、馬は親愛の表現としてお互いに甘噛みして毛づくろいしたりするんやで。
「あはは。また来たら、乗せてあげるってよ」
せやせや。また載せたるで。にーちゃん、ええやつやな。
にーちゃんも載せたるで。軽そうやし。
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おーケンジーわい、仕事頑張ろう思ってきたわ。
「なんだよ、急に」
まあ、あれやな、次にあのねーさんたちが来た時に、馬肉になってましたじゃシャレにならんしな。
バンバン客回せや。頼むでー。
終
作品への一言コメント
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- あらためてこちらでも感想を。すごいです! ゲーム当時の心の動きを、また新鮮なかたちで追体験するかのようでした。乗馬描写もディティールが勘所をおさえていると思います。なにより、斎藤さんがとても魅力的に描かれているので、しあわせです(笑)。ありがとうございました! -- ホーリー@満天星国 (2010-05-17 23:18:19)
引渡し日:2010/05/16
最終更新:2010年05月17日 23:18