平 祥子@リワマヒ国様からのご依頼品


草原の風 川のせせらぎ

 広がる草原。
 その草原を彩る緑を、優しいかぜが撫でていた。

 そこは、少し前まで、間違いなく一面砂漠だった・・・
 砂を掻き分け、草花を木々を植え、時間と手間をかけて人々は根気強く、緑を一つまた一つ、と増やしていった。

 そうして、どうにか緑広がる草原まで、作り上げてきた。
 所々には、まだ育ち始めたばかりだが、木々も顔を出してきているようだ。


 そんな草原を穏やかな表情でみやる少女が一人いた。
 目を優しく細めている。


 風が少女の綺麗に三つ編みされた髪の毛を撫でる。
 制服のスカートは、三つ編みと同じように風吹く方向へそよいでいた。
 時折強くなる風が、少女が着ている制服の、スカートの裾を舞い上げるのが少し気になるのか、裾を舞い上げられては直すその小さく細い指先は爪も綺麗に切り揃えられていた。

 その指で少しずれた眼鏡を直す。
 レンズの先に光る瞳は利発そうで意志強く感じるまなざしだった。



 そんな少女、小村佳々子に見とれる青年が一人いた。
 こちらは、金の短い髪の毛を風になびかせ、国の民族衣装をまとっている。
 その衣装は褐色の肌に映える金糸の刺繍が施されているものである。
 男性にしては少し細いであろう青年の、身を包むその衣装もまた、髪の毛と一緒に風になびいていた。

 少女と、心地よい風に止まる青年。
 はっと我にかえると、少女の方へと歩んでいった。

 そのしぐさは少しだけ、女性であった頃の名残が残る、しなやかな動きを見せていた。


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 佳々子と青年、平 祥子がいるのは、平の国であるリワマヒ国の一角だった。
 青年の名前が女性名なのには理由があるが、それは二人がこの国の自然を楽しむには不必要であるものなので割愛させていただく。

 二人は草原を歩き、国の状況を把握していく。
 自力で戻り行く緑が、二人を心軽やかにしていった。
 まだ、膝くらいだろう、草の絨毯。
 点在している村とそこで生活を育む国民。
 少し歩けば、小川も流れていた。

 そんな国の姿を目の当たりにして、ぽつりと平は言った。

「こういうのを見るとうれしくなりますね。少しずつだけどみんなが頑張ってもとの明るくて平和だった国に戻っていくところ・・・」
「・・・・・・」

 佳々子は、目線を平と同じ方を向きながら、しんみりとそれを聞いていた。
 その空気を感じ取った平は少しオロオロする。

(あ、あう・・・何かいらないこと言ってしまった・・・)

 少しだけの沈黙。
 それを先に破ったのは佳々子だった。

 目の前を流れる小川。
 水もとても綺麗だった。
 見たところこの小川は灌漑(かんがい)のようだ。
 その小川を見ながら平に聞いた。

「川に、はいっても?」

 入ってもいいですか?と聞いてくる佳々子に、とっさに平はその小川の付近や流れる水の中をみやる。
 佳々子に危険を及ぼすものがないか、を探っていた。
 しかし、それらしきものは見当たらない。
 ほっと胸をなでおろして、「大丈夫ですよ」と、答えた。

 嬉しそうな佳々子。先ほどの憂いた表情はどこへ行ったのか、小川に入っていった。

「冷たい」
「じゃあ、自分も・・・」

 冷たい、と言って笑う佳々子を「かわいいなぁ」と思いつつ、平は手に持っていた荷物を水に流されないような所へと置くと、一緒に小川に入って佳々子と少し遊んでみることにした。

 水の温度が気持ちいい。
 少し火照っていた身体にはちょうど良かった。

 ぱちゃぱちゃと水を掛け合ったりもした。
 滑らないよう足元に気を付けながら、小川の中をそのまま少し歩いてみたりもした。
 そして佳々子は小川の傍らに竹が生えているのを見つけると、その笹の葉を一枚拝借して、笹舟を作り出した。
 丁寧に作ると、それを小川に流す。
 倒れもせず流れていく笹舟を見て、嬉しそうに微笑む佳々子。
 そんな佳々子を見て、楽しそうな様子に微笑む平。

 ふと佳々子が、小川に足をつけたまま、傍らの茂みへと顔を近づけて何かを見ている。
 平もその横へと移動すると、佳々子の視線を追ってみると、そこにはバッタがいた。
 他の生き物も探してみると、色々な昆虫を見つける。

(ここにも、生態系がある・・・良かった・・・)

 よく見れば、野鼠や小鳥などもいる。
 小川にも、めだからしき魚しか見えないが、いるにはいる。
 平にはそれが嬉しかった。

「こうやって探してみるとたくさんいますね」
「はい?なんですか?」
「虫とか鳥とかです。」

 ぽつり、と言った平の言葉の意味がいまいちわからなかった佳々子は、問いかけて返すと平は丁寧に答えた。
 平の言葉の意味が判った佳々子は嬉しそうに、明るく「はいっ」と答える。
 佳々子も、この光景が嬉しかったようだ。

「木や草だけじゃ、ないのっていいですね」
「ええ、本当に」

 木々や草花、植物だけではない。
 動物が、人が、この地で力強く生きている。
 それが嬉しかった。


 そうして、他に何がいるだろうか、と自分達が入っている小川とその付近を見回した平。
 そして、自分の荷物が目に入り、思い出す。

 そうだ、今日は佳々子の誕生日をお祝いしにきたのだ、と。

「実は今日バースデーケーキを用意してきてるので少し休んで一緒に食べませんか?」
「あ、はい。それで、包みを・・・楽しみだな」

 佳々子は、草原での平を思い出した。
 そういえばなにやら大きな荷物を持っていたな、と。

 平は先に小川から出ると、付近に腰を下ろせる場所はないかと探し、そこに持ってきたケーキの準備をした。
 後から、足を拭き靴を履いた佳々子がやってくる。
 その頃にはケーキにろうそくも立て、準備も整っていた。

「これでよし、と。ではどうぞ」

 佳々子は「わぁ」と感嘆を上げ、ケーキとろうそくを見ると、少しかがんでハフーとろうそくの火を吹き消し、しすて照れくさそうにはにかんで笑った。

「誕生日おめでとう、佳々子ちゃん」
「ありがとうございます。祝ってくれて嬉しいです」


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 佳々子と平は、ケーキをしっかりたいらげ、食後の腹ごしらえにと再び小川とその付近を見回った。

 まだ、復興途中の国内ではあったが。
 一つずつ一つずつ、力強く自然と生活の営みを見つけては微笑み合う二人に耳には、風でなびく草の葉音と、小川のせせらぎが美しいハーモニーを奏でているのが聞こえていた。


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 余談。

 最近、佳々子から時々、淡いオレンジの香りがすることがある。
 機嫌がいいとき、よく香るな、と周りの人々が話していた。

 それを平が知るのは、もう少し先の話だろう。

【終わり】


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引渡し日:2010/05/07


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最終更新:2010年05月07日 00:33