久珂あゆみ@FEG様からのご依頼品
[作り話]
ながいながい夜でした。
星も見えないほど深い森。
こすれあう草葉はが、おとぎ話を紡いでいる。
遠く、楽しげに、恋をささやく虫の音。
息をひそめて目をつむれば、
重なるように声がひびく。
……なんて、楽しそうなんだろう。
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おとうさんもおかあさんも寝息をたてて眠っている。お兄ちゃんのつばさのお布団はとてもあたたかかったけれど、外の声がとてもみりょくてきだったから、みんなの間で寝ていたわたしは、そこからそっと抜け出した。
テントがかさかさと音を立てて、わたしは辺りを見回した。
夜に慣れたわたしの目は、木々のりんかくをはっきりとうつしている。けれどそれ以上にせんめいなのが、わっと押し寄せてくる、緑のにおい。
空中庭園のキャンプ場は、すごく、森って感じがする。
わたしはもう一度目をつむった。あの楽しそうなミュージカルは、いったいどこにいったんだろう。
耳をすませば風が吹く。木々の枝葉が、こっちだよって、教えてくれた。
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さくさくと足下から音がする。草の音はにぎやかで、早くおいでと言っていた。
声と心にせかされて、また一歩、また一歩と進んで行く。
さいしょはおっかなびっくり、そろそろと足を出していたけど、段々がまんできなくなってきて、気付けばこばしりになっていた。
早く行かないと、早く行かないと。
そんなに急がなくてもいいんだよって、草木や虫が心配そうに言っている。だけど、どきどきが止まらなくて、
「あっ」
音が消えた。足が地面を無くしてしまう。
ぐるんと景色が上下して、わたしはそのまま――――
「――あれ?」
そのまま、空に浮かんでいた。
両手足をぶらんとさせたまま、首だけねじって背中を見る。するとそこには、爪にわたしをひっかけたお兄ちゃんの姿があった。
「いそいだら危ないんだぜ?」
ちょっと小首を傾げてる。わたしがこくこくすると、お兄ちゃんはおろしてくれた。
「どこに行くの?」
「あっち」
「ついて行ってもいい?」
「いっしょに行こう」
お兄ちゃんはきゅいとないた。
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そして、森が途切れた。
木々はきれいに並んでいて、そこだけまあるい広場になっている。
星明りだけが白くきらきらとおちて、海みたい。
腰くらいある細長い草が、小声で何かささやいている。
――――しずかに、時を待っている。
ふしぎだった。だってしんぞうは走っている時よりもドキドキして、手の平にはじんわりと汗がふきだしてくる。今はさっきよりもずっとずっと、すごくおちつかない。
「まだかな」
お兄ちゃんは、きょとんと首を傾げた。
するとふいに、ばさばさと大きな音がした。
びっくりして空を見たら、そこら中を鳥が飛んでいて、気付けば枝にいっぱいとまっていた。
そのすきま、木の穴から、ふくろうがちょこんと顔を突き出した。
「ほー」
それが始まりの合図なんだって、わたしはなんとなくわかっちゃって、
だから。みんなといっしょに、息をのんだ。
――――しずかになる。
そして、空気を振るわせるようにきらきらと、虫たちがいっせいに鳴き始めた。
緑色の海、跳ねていく虫たちは、月明かりを浴びて水飛沫みたいにきらきらひかる。
はじまったのはミュージカル。草木も虫も動物も、いろんなみんながいっしょに歌う。
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ながいながい夜でした。
星も見えないほど深い森。そのずっと奧の、小さなお祭り。
気付けばわたしは、テントの中で眠っていて。
あわてて起きて外に出たら、とっくの昔に朝日が昇っていた。
夢だったのかなって、首を傾げる。
「あれ、こよみー」
おかあさんがかけよってきた。ふしぎそうな顔。
「背中どうしたの? 少しやぶけてるね」
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「……どう?」
こよみは緊張した顔で、晋太郎の顔を見つめている。隣で、あゆみはわくわくという表情。
晋太郎は、その絵本をゆっくりと閉じて、笑った。
「とってもいいね。ありがとう」
こよみは笑った。すごい勢いで頷く。
「お誕生日、おめでとう」
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引渡し日:2010/04/26
最終更新:2010年04月21日 13:57