NO.58 高原鋼一郎さんからの依頼

 壮大な音楽が遠くで聞こえている。高原は新郎控え室で沢邑と時間を待っている。
 高原の付き人は急遽変更されたらしい、打ち合わせの時と違う人物が部屋に入ってきた。
 その人は何の特徴もない顔立ちの男で、彼は前任者の名前をあげて、彼は病気になったと告げた。
「はぁ、それはどうも」
と挨拶をする高原。
「ところで貴方のお名前は」
 このタイミングで人が変わるとは怪しい。
「……高原さん、大丈夫ですかね」
 沢邑も怪しいと思ったのか、高原に小声で尋ねた。
 男はそんな様子も意に介せず、自己紹介をした。
「大和丘一人。と言います」
 どう聞いても、おそらくは偽名としか思えない。が、怪しんでもどうにもならない、と握手をする高原。
「大和丘さんですか。よろしくお願いします」
「ありがとう」
 大和丘は微笑んで両手で貴方の手を握った。
「そして、お幸せに」
 彼は年をとっているようなそうでないような目で高原を見ている。
「はい、ありがとうございます」
 高原は以前にアララを救助した際に知らされた、知恵者の盟友とか言うアララの実父かと思ったが、彼から視線を外した途端に彼の存在を忘れてしまった。勿論彼を見れば今日の付き人であることを認識できるのだが。
 ふと違和感を覚えてポケットの中を検めると、軽く、小さなコインが一枚入っていた。
「?」
 高原は入れた覚えが無い。そのコインを取り出して眺めてみる。
 そのコインは本当はすごい力を持ったコインであるのだが、高原も沢邑も、知らない。
「どうしたんですか? それよりも、アララさんのウエディングドレス、自信作ですから見に行って下さいよ!」
「わかりました、すぐ行きます」
「夜なべして作ったんですよ……って、何ですかそのコイン」
 高原の持っているコインに気付き、珍しそうに見る沢邑。
「さあ、いつの間にかポケットに」
 コインには03と刻まれている。高原は取り敢えずコインをポケットに戻した。
「さて行きましょうか。お待たせしてすいません」
 二人は花嫁の控え室に向かう。
「……そうそう、お客さんの服はどうなってるかな、サイズちゃんとしたんだけど……」
(03って何だろう。3にゃんにゃん硬貨…?)
 二人がそれぞれ考え事をしながら歩いていくと、入り口で止められてしまった。
 新婦のお披露目は式までご法度なのである。これは愛を誓うその時のためだけに綺麗になって出てくるのを待つためだ。
 それじゃぁ仕方ない、と新郎控え室へ戻る二人。
「あのウエディングドレス、ちゃんとアララさんに似合ってるかなぁ……何かこっちまでドキドキしてきましたよ」
 二人がそわそわと待っているとノックがあり、付き人の大和丘が部屋に入ってきた。
「そろそろお時間ですよ」
 呼ばれて立ち上がる高原。
「はーい。それじゃ行ってまいります。また後で」
「頑張ってきて下さいね! 今日の主人公は高原さんとアララさんなんですから!」
 沢邑の声援を受けて、高原は付き人を連れて、歩き出した。
 式場へ続く、長い長い道。
「主人公って柄じゃないですよ、俺は」
 高原は廊下の途中で苦笑しながら呟いた。付き人はそんな高原に
「それでいいじゃないですか。あの子が選んだのは、そう言う貴方だ」
と言った。
「励ましていただいてありがとうございます」
 そう答えた高原に、付き人は優しく微笑んだ。視線を外すと忘れてしまう彼だが、この笑顔だけは、ずっと覚えていられるだろうと思った。


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 式場の席に戻りながら沢邑は指を折りながら呟いている。
「ちゃんと挨拶しないとなぁ。青さん、舞さん、ターニさんに小太刀さん、三輪さん、加納さん……後、清子さんにも」
 式場について頭の中が一瞬真っ白になった。なにせ式場には1000ほどのACE、エース、業界関係者が並んでいるのだ。
「わ、メイドさんの仕事手伝わなくていいのかなぁ……」
 その様をみて思わず呟いたのがこれだった。
 場内では一足先に着いた高原が挨拶をしてまわっている。
 先ずは久保雄一郎氏。
「おめでとうございます」
 海法氏も席についている。
「いやー、めでたいめでたい」
 その隣は是空氏だ。
「……憎い、憎いがおめでとうおめでとう」
 よくわからないまま皆さんに頭を下げている高原。
「ああどうもありがとうございます皆さん」
 まだ挨拶は続く。
 永野氏は「おめでとうございます」と挨拶し、礼服姿の善行の隣に座った。佐々木と言う人物はひとしきりカメラをとっている。

 栄光号式典仕様が長い槍を持って、門を飾っている。


(何で物凄い数の人がこんなに…)
と、少し呆然としながら、挨拶まわりを続けている高原。
(おかしい、何でこんな派手な話に…明らかに個人とか諸々のレベルを超えている感が…)
 そんなところに沢邑がやってきた。
「はじめまして。沢邑と申します。今日はわざわざキノウツンまでに来ていただいてありがとうございます。高原さんもきっと喜んでますよ」
 最前列以外では既知のほぼ全部のACEが出席しており、晋太郎や光太郎の姿も見える。
「善行さんと永野さんも楽しんでいって下さいね。ウチの国のメイドさん達のサービスは一流ですから」
 沢邑はにこにこと挨拶をしている。
「しかし……ここまでいたら知り合いに会いそうな気もする……」
 きょろきょろとすると、そこにはターニが。彼は頭悪いように口を半分あけて、風景を見ていた。その隣には青。
「……あの、どうなされたんですか? 体調でも悪いとか……」
「ああ、いや、全員で飯を食べたら、偉い量になるだろうなと」
 なんともターニの心配しそうなことである。
「あはは、その辺は気にしないで下さい。折角のお祝いですし、パーッといきましょう!
 アシタさん浅田さんに頼んで何とかやりくりします!」
 沢邑がこぶしを握ってそういうと、ターニはにやりと笑った。
「なるほど。そいつはたくさん、食べれそうだ」
 あ、遠くでポチ王女が何か主張している。
「司会は私がやりますっ」

 高原が、落ち着かないと思いつつ呼吸を整えていると、舞が腕を組んで見ているに気付いた。
「…あ、どうもはじめまして」
 舞はそれに答えず
「中々のものだ」
と言った。それは規模や新郎のことではなかった。
「といいますと」
 高原は舞の視線の先を見た。純白のウエディングドレスを着たアララが、歩いてくる。
 その姿に、息を呑む高原。アララは、高原の反応を見て顔を赤くして盛大に横を向いた。
 アララはツカツカと歩み寄ってくる。
「あの、その、えと」
 上手く言葉が出ずにあわあわしている高原に、顔を真っ赤にしながらアララは
「に、似合わないのは、自分でも分かっているから。だから、目を逸らしていて」
と可愛いことを言う。
「いやいやいやいや。見ますよ、晴れ舞台なんだし」
 二人は小声でそんなやり取りをしながら、新婦の登場でしんとしたバージンロードを歩く。
「似合わないわけ、ないじゃないですか」
 アララはまだ呟いている。多分、嘘ばかりとか、そういうのだ。
「嘘つく余裕があったらこんな緊張しません」
 高原がアララの呟きに気付いてその言葉を言ったところで、バージンロードの終着点、壇の元へ着いた。
 式場中に、壇上の知恵者の声が響き渡る。
「よろしいかな」
 知恵者は偉い立派な白い服を着ている。こうして壇の上にいる限りは、光の神々の一つのようだ。
 アララと貴方は互いに視線を外して下を向いた。
 久保雄一郎が拍手を始め、他の全ての人物がそれに習う。式場中に、二人を祝う拍手が鳴り響く。
 アララは貴方を見ている。嘘だったら、許さない。
 高原が、この場で嘘つけるほど、大物ではないですよ、とアララを見ると、アララは小さくうなずいた。
 付き人がこっそり微笑んで、背を向けてどこかに歩き始めた。
 アララは高原の付き人を一瞬だけ見たが、彼女はそれだけで、その人物のことは忘れた。
 清子さんが、礼砲を撃った。
 拍手が止み、知恵者が口を開いた。
「では私に誓うがよかろう。私に誓ったから何があるわけでもないが、私は貴方がたのことを、ずっとずっと覚えていられる。
 貴方が死んで、宇宙がいくつも崩壊しても」
 高原が続く。
「はい。ええと共に歩み続ける限り、生涯新婦を愛する事を誓います」
 アララは顔を赤くして横を向いたまま、
「同上」
と、なんとか知恵者に聞こえるくらいの声で言った。知恵者は促す。
「もう少ししっかり言うがよかろう」
「同上っ!!」
 知恵者は顔をしかめている。
「えーと、一緒にもう一度言いましょうか…?」
 高原が気遣い言うと、アララはいじわるっという顔で、知恵者を見た。
 微笑む知恵者。
 アララは恥ずかしさに顔を真っ赤にしながら、正面を向いた。
「天が落ちるまで、地が裂け海が割れるまで。
 私は誓います。アララは名を棄て愛の名をとると」
 式場中に凛とした声が響き渡る。
「よかろう。ロール・クランの娘アララ。良い航海を。絶技を使いなさい」
 アララは絶技、キスの誓いをかけた。
 アララは高原を見た。
「目を、つぶって。恥ずかしいから」
「はい。あと、愛してますから」
 最後は小声で言いつつ、高原は目をつぶった。
「それぐらい知ってるわよっ」
 小声で返して、アララは目をつぶってキスをした。
 一斉に礼服組が帽子を投げた。帽子が乱舞している。
 その様子に沢邑は感動して涙目になりながら、二人の幸せを願った。
 小太刀達はペリスコープでその光景を見ると、戦場に移動を開始した。
 高原が唇を離して目を開けても、アララは恥ずかしさでまだ目をつぶっている。
 ポチが恥ずかしくて下を見た。
 拍手が、鳴り響いた。

 結婚式は最高潮にある。
 二人の幸せは、まだこれから、ずっと続くのだ。



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最終更新:2007年09月26日 18:05