多岐川佑華@FEG様からのご依頼品


指輪を見つける前のお話

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 ゴゴゴゴゴゴゴ

 遠くで工事の音が響く。奥に引っ込んでいても小さく音は聞こえたし、震動は肌で感じられた。

 だが、多岐川佑華にとってそれは酷く些細な事だった。
 しゅーんと猫耳を垂れ下げ膝を抱えた。

「ショウ君・・・・・・・・・・・・・・・」

 佑華の最愛の同棲相手・小カトー・多岐川は現在不在だった。

『すぐ戻るけど、危ないから外には出るなよ』

 そう言い残して小カトーは姿を消した。
 食料は、2人暮らしな上に今は1人だから当分買わなくても問題はないが。
 だが、それもやはり佑華にとっては些細な事の1つだった。

「だってショウ君いないんだもん」

 本当は探しに行こうか本気で考えたが、小カトーとの約束を破るのは嫌だった。それに、ひょんな事から共和国と帝國を行き違いになった前科もある。1度起こったまた起こらないなんて事、ありえないのだから。

 だから・・・・・・・・・。

「早く帰って来てよぉ・・・・・・・・・」

 猫耳をシューンとさせて佑華は、暗闇の中膝を抱えて目を閉じた。

 遠くからはまだ、鉄骨を組み上げる音が聞こえていた。


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 サイボーグのおじい達が懸命に作業を行っているのを尻目に、小カトー・多岐川は帰って来た。手には佑華への土産の彼女の好物であるチョコレート菓子の入った袋を持って。幸い、これを買うのに苦労はしなかった。軍人が巡回している地域は安全だと分かっていたから。

「ただいまー」

 鍵を開け、いるであろう彼女に向かって声をかけた。
 が、尻尾ふりふりな勢いの「おかえりー」は帰って来なかった。

「・・・・・・あれ?」

 小カトーはいぶかしみながらも靴を脱いで部屋に入った。

「佑華―」

 かくれんぼするには狭すぎるスペースの中、小カトーは恋人の姿を探した。彼女の性格だから、危ない真似はしないと思うが、万が一・・・・・・・・・・。小カトーはホルダーの銃を引き抜き安全装置を外した。そして、五感を集中させた。

 ガタン

 外からじゃない、家の中で小さく音が響いた。
 どこからだ? 小カトーはお世辞でも上手いとは言えない銃の腕を披露しなくていい事を願いながら音のした方向を探す。

「うー・・・・・・・・・」

 うー・・・・・・・・・?

 しょっちゅう聞いている声が。物音のした方から。

 あ。

 そこがどこかを確認してから、小カトーはかくん、とずっこけかけた。ずっこけながらも、手は引き抜いた銃の安全装置を付け直している。

 小カトー・多岐川の同棲相手にして恋人の多岐川佑華は、いじけたりへこんだりするとクローゼットに入り込むという妙な癖があった。本当は押入れがあったらそこに潜り込みたかったのは内緒の話だ。

「おーい、佑華―・・・・・・・・・?」
「あ、ショウ君?」
「うん、ただいま」
「おかえりー」

 ギギギギギギギ

 クローゼットは引きつった音を立てて暗闇から手がにゅっと出て光る瞳が見えた時は、再会の喜びよりもちょっとだけ恐怖が勝った。この登場の仕方はちょっとしたホラーである。ちなみに、音の原因はクローゼットの扉が立て付け悪いからである。あと、佑華は猫妖精だから本物の猫みたく光る。かもしんない。

 だが、小カトーも佑華も笑顔だった。いや、小カトー引きつってたけどそれは一瞬の話だ。

「ほい、お土産。佑華好きだろ?」
「あっー、チョコレート。うん好きー」

 お茶を淹れようと台所に向かおうとして、ふと佑華は止まる。

「・・・・・・・・・ショウ君、工事いつ止まるかなぁ?」

 そう、外はまだゴゴゴゴゴとかギギギギギと機械音やら金属のこすれ合う音やらが振動を伴って響いているのだ。揺れる中、やかんに火をかけて大丈夫なのだろうか?

 あー、と思いながら。小カトー、一言。

「電機ポット。確かあったからそれでお茶作れば?」
「あー」

 普段お湯が必要な時はもっぱらやかん派だったから盲点だった。
 こっくり頷いた佑華はポット発掘に再びクローゼットを開けて宝探しを開始した。てか、クローゼットは服仕舞う所ではないのかこの家では。

 苦笑しながら、多岐川はぼんやり彼女に渡す予定の指輪の事を思った。
 あれ、この揺れのせいでいつも置いてる所からなくなってないといいけど。

 佑華がその指輪を発見するのはこれから数日後の事である。


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最終更新:2009年10月08日 19:52