都築つらね@満天星国様からのご依頼品


ちかごろ、オンサはいつも機嫌が悪い。
向かうところ敵なしの絶好調なのにもかかわらず、である。

何が不満なのか、ぶすっとした表情のまま、静かな街並みの中を歩いていく。
時々ふっと顔を上げ、空を見上げている。
少しの間、何かを考えるような遠いまなざしをした後、また歩き出す。

そんなことを繰り返しながら、どこへ行くでもなく不機嫌に歩いていた。
それはまるで、遅れてくるのが分かっている待ち合わせの相手を待っている様子であった。


―― 遅い。…遅い
半眼のまま、道の向こうをにらみつける。

―― そろそろ来てもいいころじゃない
視線の先には人影はない。

―― どうせまた義務に縛られて後回しにしてるのよ
面白さの感じられない手近な施設を爆破してやろうかと思う。
が、目をつぶり、待ち人の顔を思い描いて思い直す。

―― 私がこんなに調子がいいのだから、また体をこわしてるのかもしれない
突然、言い知れない何か暗く冷たいものが忍び寄ってきたように感じる。
歩みを止め、両腕を抱いてその場にうずくまってしまう。

―― ばか。なんでここにいないの?
ふと器用にもジャンピング土下座で謝りたおす男のイメージが頭をかすめる。
少しだけ、笑ってしまった。

―― ……ばか
ずっと曇っていた空だったが、雲の切れ間から光が差し込む。
顔を上げ光の照らす先をみると、洋服を飾ったショーウインドウが輝いていた。
飾られているとてもかわいい感じの服は、光の中でとてもよく映えていた。

―― こういうの、好き…かな…?


いつものように機嫌の悪いオンサ。
実際には別に機嫌が悪いわけではない、と思われる。
気がかりなことがあれば表情が険しくなることは、誰だってある。

いつものように静かな街並みの中を一人で歩いている。
いつもとは違う印象の服をまとっている。

目的地はない。そもそも彼女は決められた道は歩かない。
ただ、向うべき場所は分かっていた。

知らせがあったわけじゃない。理由があるわけでもない。
ただそんな感じがした。

彼女の足が止まったのはとても立派な建物の前。
満天星国政庁城の前。


―― 来なかったらここを爆発させるから
ゆっくり目を閉じ、ゆっくり開く。

視線の先には人影がある。

こちらを見てなぜか手を振っている。

―― …遅い
人影から目をそらしてしまう。
ちゃんと見ていたいのに。

近づく足音を聞いて、今日はいいことがあるような気がした。


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都築つらねは長い長い不調の中にいた。実際に体調も崩していたらしい。
しかし、回復の兆しがないわけではない。

リアルの時間でおよそ半年会えなかった相手に会えてからは、文字通り心も体も少しではあるが楽になりつつあった。

そして、ようやく確保できた次の生活ゲームの時間は彼女のために使う、と決めた。
いつもなら国内の調査やら問題への対処やら、王としての責務をそのつもりはなくとも優先してしまうところであったが、今回だけは無視を決め込んだ。
もちろん、国のことを対処する別枠を確保できたのも一因ではあったが。

むしろ、彼女を放っておくことの方が対処すべき問題だとも考えられた。


そして当日。
今日こそはちゃんと話をしたいと思った。

―― さて、どんな話をしようか…?
これまでの会話を思い出す。

―― …会話なのか?あれは
ものすごく無秩序な状況で会話するのは大変なんだろう。

―― いや、そもそも待ち合わせ場所にいるとも限らないか
過去の彼女の派手な登場シーンを思い返して苦笑いを浮かべている。
頭の中では爆発音やら銃声やらが飛び交っていた。

―― 今日はどんな姿でどんな性格なのか、まずそこを見抜かないと
どんな姿でも見出すことのできる自信はあるようだ。
どんな性格でも「可愛い」と言ってのけるくらいには覚悟もあるんだろう。

―― …ま、心配してても仕方ない、な
流れに身をまかすのも時として悪くはない、そんな気持だろうか。

―― さて、行くか…


スタートは見覚えのある場所。この静けさにも覚えがある。
そびえる城を一瞬だけ見上げ、周りを見渡す。

待ち人がいるかどうか、見出さなくてはいけない。

そして、見つけた。過去のどの姿とも一致しない彼女を。

―― あれ…なのか…?
とりあえず手を振ってみる。…が、顔をそらされる。

―― 間違いはなさそうだな
ゆっくりと近づいていく。
分かってはいても、いつもとは違う感じの格好をしていると戸惑うものだな、とか考えていた。

そのかわいらしい彼女の姿が、いつもとは違う展開への期待からか、都築の足取りを軽くしていた。


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最終更新:2009年08月20日 15:45