津軽@満天星国様からのご依頼品
ハイビスカスが咲き誇る。
低木なので、遠くまで見渡せる風景。様々な色、種類で、それでも同じ<ハイビスカス>。
夏の園は、まさしく、夏の様子だった。
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夏の園でWデート
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夏の園は名前の通り、いつ来ても四季の「夏」を感じられる場所だ。
日差しも、空気も、もちろん雰囲気も。夏である。
熱気が音を作る。生き物や風も、夏を表現していた。
海の近くに行けば、波の音も聞こえるだろう。
「わー!」
自分が多少なりとも設計をした場所だ。なんとも言えない満足感に、津軽は思わず感嘆の声を上げた。
勢いよく頭が揺れ、頭部の付け耳がひょこひょこと揺れる。
キャミソールに巻きスカートという、如何にも女性らしい服装をしているのが津軽だ。
日よけ代わりか、長袖らしきシャツを、無造作に腰に巻いている。
ふ、と空を見上げると、夏らしい高い空。
光が、まぶしい。
ああ、自分たちが欲しかった「夏」だ。
津軽はちょっと嬉しくなった。
「おおー、爽快だ~!」
ホーリーも勢いよく、うん、と伸びをして首を回した。良い場所だなぁ。ハイビスカスが楽しみだ。
こちらはシャツに七分丈のズボンと、本人いわく普段通りの服装の男性だ。
その分髪のセットに時間がかかっているのは秘密である。
あー、ゲストがいるならもっと良い場所なんだけどな、とホーリーは一人ごちる。
コースよーし、お土産のシナモンロールよーし、後は楽しむだけー。
そしてちら、と目的地を見て――内心万歳三唱した。
――さて今回は、件の人物はしっかりと最初から、いた。
ヤガミも斉藤も、夏の装いだ。
場所を聞いていたからか、ヤガミは如何にもバカンス中のような色合いの、TシャツにGパン。
斉藤は動きやすそうなゆったりしたシャツに、すとんと裾の落ちたスカート。こちらは夏の定番私服です、といった感じである。
「ここは悪の別天地-」
やたらと調子良い響きで、ヤガミは歌っていた。
何気に上手い。でも、よくよく歌詞を聞くと――
ちょっと聞き惚れかけながらも、とりあえずは挨拶である。
「こんにちはー」
「あ、斉藤さん、ヤガミさん、こんにちはー」
津軽とホーリーは、それぞれ似たように挨拶した。それに元気良く「こんにちわっ」と答える斉藤。そんな斉藤を見て倒れかけるホーリー。
が、ヤガミの歌う内容が気になったのか、わずかに顔を引きつらせたままの津軽。
おそるおそる、聞いてみた。
「あ、悪の別天地ですか?」
ヤガミは笑った。
「単なる歌だ」
かるく口笛でも吹くように答えると、ヤガミは首をわずかに傾げる。
「何の用だ?」
「今日は、4人で、ハイビスカス園に行ってみたいのですけど、どうでしょう?」
「あ、ハイビスカス園は実は、津軽さんが建設に携わっているんですよー」
津軽とホーリーのそんな誘いに、ゲスト2人の反応は両極端だった。
「なぜ?」
「いいですね!」
海賊ゆえの警戒心(というより、これは行動に理由をつけたがると言うべきか)で疑問を出すヤガミ。
その言葉の響きに、あっさりと賛成する斉藤。ぶんぶんと首を縦に振っている。
あんまり予想過ぎて、なんともはや。うわん、やっぱりー、とは内心の叫び。
「宝でもあるのか?」
「私的には、宝かも知れませんが、ヤガミさんにとってはどうでしょうね? うーん…」
つっかえつっかえ話してみると、ヤガミは苦笑した。
前ので大体、予想はついてたが。と自分自身にぽつり。
「まあ、見てみるか」
「わぁい! ありがとうございますー!」
「わーい」
大喜びの津軽と、半ば苦笑しつつの「わーい」なホーリー。
とりあえず、連れ出す事には成功だ。
二人こっそりとアイコンタクト。
いざゆかん、デートの地へ!
「お花の嫌いな人なんてあんまりいませんから、きっと楽しいですよー」
「私、ハイビスカスはじめてです!」
はじめて、を強調して瞳をきらきらと期待に輝かせる斉藤。
何せ、ハイビスカスと言えば冬は温室に入れなければいけないぐらいの、南国使用の花だ。
斉藤がはじめてなのも、無理はなかった。
「わ、それはよかった」
ホーリーは嬉しそうに笑うと、続いて津軽も笑顔で太鼓判を押す。
「きれいですよ、とっても」
行きましょう、実際に見るのが一番。
津軽がそう言うと、斉藤は早く早く、と歩きだす。
それに続く3人。
そんなわくわく状態の斉藤を先頭に、ダブルデートが始まった。
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さて、夏の園の中、ハイビスカス園である。
暑い場所ではあるが、人はそれなりに入っている。風景を見てか、楽しそうな声が遠く響いていた。
低木であるため、低い位置に咲き誇るハイビスカスはちょうど満開で、空気が染まって、良い香りが広がっていた。
斉藤は目をつぶって匂いを楽しんでいるようだった。
心から楽しそうな表情は、とても魅力的である。ホーリーは思わず見とれた。
めろめろなのよ、とは津軽談。
「わぁ! 建設のとき以来だから、ちょっと感動するなー」
「へえ」
津軽の言葉を聞いてか風景を見てか、驚きの混じった声のヤガミ。
「はじめてのハイビスカスの感想はどうですー?」
「なんか、涙でます」
心底嬉しそうな斉藤に、ホーリーも微笑んだ。
「とりあえず、遊歩道沿いに歩いてみませんか?」
津軽がそう言うと、ヤガミはゆっくり歩き出した。
ちょこちょこと津軽がついていく。
何も話しはしていないが、ヤガミもそれなりに楽しそうだった。
軽く花を見ながらの、散歩。花の匂いが、自分の中にも入ってきそうだ。
つい近くの花を触ると、ふわりとした感触と、匂いが舞った。
ああ、すごい。
「わたしも、こんなに一度にたくさんのハイビスカスははじめてだから、感動だなあー」
人の多さに目を見張りつつ、ホーリーは呟いた。
そんな言葉に乗っかって、考えに考えていた台詞を、津軽は口に出す。
「丘の上のあずまやからの眺めが絶景なんですよ」
じ、とヤガミを見る瞳は、真剣そのものだ。
「行ってみません? 混んでいるかもしれませんが…」
「港が見えるとか?」
はい、と口に出しかけると。
「はいっ。いきましょう。いきましょう」
勢いの良い斉藤が、津軽の手をしっかり取って歩き出す。
一瞬目が点になる津軽。それを見て思わず「ははは」と笑いが零れるホーリー。
斉藤が何をしてても嬉しいらしく、ひたすら目で追ってはホーリーも嬉しそうに笑っている。
「えへへっ」
津軽は照れつつも、斉藤に手をつないで貰えるのもまた、女の子してて良い感じねー、と笑った。
にこにこしながら引っ張られるまま、東屋に向かい歩いていく2人。
「わたしたちもいきましょう」
ホーリーがそう言うと、ヤガミもひとつ頷き、素直についてきた。
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東屋からの景色は綺麗で、遠く海も広く、見渡すことができた。
青い海、青い空、白い砂浜――とは使い古された表現だが、まさにソレ。
自然な色合いの風景が、一番心に響く。
「わー! 感動で涙でそう…」
やっぱり自分が設計したものは感動ひとしお。想定以上の絶景に、ちょっと目が潤んでいたり。
「海はやっぱりいいなあ……」
しみじみと頷くホーリーの隣で、斉藤は背伸びして海を見ている。
おおー、という感じだった。
何せ緑に囲まれた生活が長い斉藤だ。久々の一面の青には、驚いているようだった。
そんな様子も可愛い。にこにこしながらホーリーは問いかける。
「何か見えますかー?」
「海底火山と、あとは」
すい、と視線を移動させる斉藤。
「海豚が見えます」
い、イルカ!?
そんな問答を横に、津軽もヤガミに話しかけた。
「ヤガミさん、港、見えますー?」
「いや。さすがに配置がうまい」
軽く言ったつもりの言葉に、しみじみと感心した台詞が飛び出し、津軽はびっくりした。
え、そこでその発言?
――えーと、それは。
「ん? もしかして、お仕事のこと考えてます? ヤガミさん」
「いや。まさか。お前に通報されて縛り首はなりたくない」
「あはは」
それこそ、まさかだ。
笑ってはいるが、なかなかに、手ごわい。
津軽はギギギ、と内心思う、のだが、ヤガミの僅かな微笑みにくらりと落ちた。
なんで、そこで、笑うかな!
ぐるんぐるんしている津軽を横に、ホーリーは真面目に考え中だ。
海底火山…って宰相府藩国では聞いたことないんだけど。
じーっと見ても、見えるはずも無く。
「うーん、火山探してみたけれど見つからないや。斉藤さんって、目がいいんですねー」
「はい。20.0あります」
ちなみに、ごくありふれた「良い目」の基準は2.0である。
うあ。それは凄い。
驚いたホーリーの声を聞いて。
それでもぐるんぐるんしていた津軽を正気にしたのは、やっぱりヤガミの次の一言だった。
「暑いな」
「夏の園、ですからねー」
ぱっと配置を確認。たしか夏のフルーツジュースを売っているワゴンがあったはず。
大丈夫旅行社経由の滞在は、マイル費用にお小遣い込みだから、出せる! これはいける!
前のコーヒーの御礼だ!
(そして横のホーリーも目を光らせているのに気づいた)
「えーと、みなさん、何か飲みません?」
ワゴンをしっかり指差しつつ話しかけると、まず最初にブンブンと首を振る反応を示したのは、斉藤だった。
「お金なくて!」
「あ、そうだ。この間のお返しに、今日はごちそうしますよ」
「水、くんできます!」
水で十分ですの意味か。
でもここって遠くに海(=塩水)、近くは散水用の水道(=飲み水ではない)なんだけどな。
「あ、いやいや、待ってー」
苦笑しつつもホーリーは引き止める態勢だ。
そんなギャグのような様子に、ヤガミの反応はあっさりしたものだった。
「俺が出す」
そう言ってヤガミは、手早く買ってしまった。
苦笑しているから、決して嫌な感情からではないのだろう。
ひょいひょい、と買ったジュースを手渡していく。
「と、ああああ、いつもすいません~」
申し訳なさそうに言うホーリー。
「ありがたく、ご馳走になりますー」
「ありがとうございます。ご馳走になりますー」
津軽とホーリー、口々に言う様子に、頭をかくヤガミ。
ジュースを一口。目を泳がせる。
「いや。いいが」
んー、ホーリーを見て唸り、一言。
「暑いので散歩してくる」
おお、と津軽は心の中で声をあげた。ピンときた。
ホンモノの犬耳がついていれば、元気よく立っていただろう。
これはもしかしてもしかすると。
「えっと、付いていってもいいですか?」
「もちろん」
ちらりと斉藤を見ると、どうやらまだ動きたくなさそう。
先ほどみたいに率先的に動かないので、確定だろう。
「ホーリーさん、斉藤さんとゆっくりしててー」
そう言い置いて、津軽は駆け足気味に、ヤガミをおいかけた。
こちらを振り向いて足を止めてくれているヤガミに、ちょっと惚れ直しながら。
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ジュースを不思議そうに見て、風景を見て。
交互にきょろきょろしている斉藤は、可愛らしかった。
目を細めて、ホーリーは言う。
「斉藤さんは、まだもう少し海を見てたい?」
「あ、はい。よろしければ…」
「あ、じゃあわたしも一緒に見ていていいかな?」
「はいっ」
「ありがとう」
にこりと笑みを浮かべる。
こ、これは良い感じだ…!
彼が先程からぐるぐると考えていた事は1つ。
一通り和やかムードを出せたらよし、その後は次回に繋げるべく印象アップ!である。
その時に取り出したるは、愛情いっぱいのシナモンロール。みんなで一緒は状況的に捨て。さらっとお土産さらっとお土産。
斉藤さんも重要だけど、ヤガミ、食べてくれるかな…そして味は気に入るかな…。
ああ、二人っきりだ。
しみじみ考える。
一緒に海を眺めつつ、ホーリーは言った。
「斉藤さんは海が好きなんだねー」
さて、ここからが問題だな。
ひとつ心の中で頷くと、ホーリーは気合を入れた。
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「気がありそうだったな」
ふむ、と頷くヤガミ。
横目に2人を見つつ、津軽は言う。
「ええ。やっぱりわかりますよね」
ジュースを一口。あ、美味しい。ちょっと笑う。
斉藤さん、ハイビスカス園気に入ってもらえたかしら。
嬉しそうにしてたから、多分成功だよ、ね…ファイト! あっちも!
心の中でそう思い、ふと自分の事を考える。
きがありそう…?
「…あまり、人のことは言えませんが…」
恥ずかしい。非常に恥ずかしいから小声になった。
心情的には(言ってやったー!!)なのだが。
「まあ、うまくやるといいな」
ホーリーを評して、そう言った。うんうん頷く津軽。
ちょっと悪戯っぽく表情を変えて、ヤガミ。
「おれもうまくやりたい」
「な、なにおでしょうか?」
「お宝だ」
びくびくしながらそう言うとヤガミは、そんな津軽を面白そうに見、舌を見せて笑った。
夏の園に、海賊に良く似合う笑いだった。
作品への一言コメント
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- 素敵なSSありがとうございます。非常にこっぱずかしいです(笑)。PCの心情描写が的確すぎます(汗)。なんたるプロファイラーぶり~。 -- ホーリー@満天星国 (2009-07-25 01:35:09)
引渡し日:
最終更新:2009年07月25日 01:35