古島三つ実@羅幻王国様からのご依頼品


 色々あってバタバタとしていたが、とりあえず一段楽したようで夜國涼華と夜國晋太郎は腕によりをかけて料理を仕上げている。そこから少し離れたところで小島航とぽちの手当てをするサーラと不安そうに見ている三つ実の姿があった。それ以外の面々は雑談をしており、途中で出会ったエイジャ兄弟はごそごそとなにやら仕度をしている様でもあった。

「ヤガミだー」

 先ほど共にいたシコウとシコウのヤガミと入れ替わるように現れた霰矢惣一郎を見るなり茨城雷蔵は惣一郎に抱きついた。そして挨拶しようとした面々はその光景を見てなんと言っていいのやらという感じだった。

「あー…好きな相手がおるやつに抱きついちゃあかんと思うよ」

 そう注意したのはこんこである。しかし、雷蔵は「ヤガミ好きだから」とだけいって笑いながら離さない。それを無視して惣一郎はそのまま蝶子に近づき、気がついたときには抱きしめられていた。というより抱きついているとでも言うべきだろうか。

「そ、惣一郎。あの、皆さん見てますので嬉しいですが…あの…その…」

 そういいながら蝶子はどんどん声が総一郎に届いているのかもわからないほど小さくなり、それに比例するように顔が真っ赤になる。そしてその蝶子につられる様に総一郎の顔も赤くなる。自分でやっておきながら相変わらずである。

「おおう、ラブラブだなぁ…」
「いいなあ」

 それを見てそう発言したのは那限逢真と作業を終えた夜國晋太郎である。それと同時に料理が出来上がった涼華が声をかけると同時にその光景を見て心の中でうらやましく思った。そして晋太郎と逢真の話を聞いて真っ赤になった。

「なら、抱きついてみたらどうでしょう?涼華さん喜ぶと思いますけど」

 晋太郎は少し考えるような感じで涼華を見る。目があった涼華は真っ赤にしながら子猫の鳴き声を真似したような情けない声を出した。

「そうかもね」
「ちなみに、Qに抱きつかれたら俺は嬉しいです」

 と、逢真が言うのと同時にQは抱きついた。妖精だから当然大きさは違うが、逢真のほほに抱きついている。ありがとう、とお礼を言っていい笑顔を浮かべながらQの頭をなでた。

「なんかいいですね、そういうの」

 瑠璃が微笑ましい二人を見ながらつぶやくと同時に涼華はそっと晋太郎に近づき抱きつき、こんこは惣一郎に抱きついたままの雷蔵を引っぺがして抱きしめた。

「ぎゅー…してみたかったけど…が、がまん、してたから…」

 そういいながら涼華は顔を真っ赤にして少し抱きしめる手に力がこもる。この行為に晋太郎はいつものように微笑み、顔真っ赤になった涼華の頭をなで、雷蔵はえー、という露骨な顔をしていた。

「む~…ええやんか、したかったんやもん」

 相変わらず惣一郎に抱きつこうとする雷蔵を制止するようにこんこはぎゅーと抱きしめている。そしていつの間にか料理は出来ているのに食事会のはずが抱きつき大会になっている。ちなみに森は恥ずかしそうに顔を手で隠しているものの、ばっちりその様子を見ている。

「なんか、照れますね。こっちが…」

 その光景から目をそむけるように瑠璃は料理のほうに目をやる。その言葉に無言でこくこくとうなずく森と徒理流そしてぽるぼーらであった。

「仕方ないな」
「ああ」

 聞こえたエイジャ兄弟の声に抱きつき大会を見ていた4人は振り向き、1秒ほどでまた目線を元に戻した。そこにいたファイ・エイジャとセイ・エイジャの兄弟はカフスと襟とネクタイ「だけ」の姿で堂々と立っていた。

「ああいう格好して恥ずかしくないと思えるところがすごいよな」

 ちらりとエイジャ兄弟を見た逢真がそうつぶやく。と同時に出会った時を思い出し、なんとなく嫌な予感がした徒理流はエイジャ兄弟と森の間になるようにすっと立つ。そしてその予感はある意味正しかった。次の瞬間徒理琉はファイに、意識を取り戻した小島航はセイに抱きしめ…というより明らかに聞こえてはならない音が聞こえている。

「その人、私のですー!!」
「セイさんストップー!!!」

 いきなりのことに、先程まで航に付き添っていた三つ実と異変に気がついたぽるぼーらが止めに入る。一方、何とか予感的中して森を守ることが出来た徒理流は半分意識が変な方向に行きかけている。何か危ないものを摂取したのとは違うが例えるならそんな感じである。

「冗談だ」

 航を開放させるべく涙をこらえ、しがみついた三つ実を見てセイはそう言って航を開放する。格好はどうあれ、彼はこれでもれっきとした騎士の一人。さすがに女性を泣かせるのは騎士として失格である。ちなみにこの食事会の後、「一応」サーラによる口頭注意は行われた。

「いやぁ、なんだかなぁ……」
「これ、もう一回医者呼ばないと拙いか?」

 こんこと逢真は相変わらずながらも少し冷静になって現状を把握する。しかし、それに気づいてぽちに付き添っていたサーラが航の様子を見ると、ただ血が足りない為に気を失っただけとのことなので三つ実も含め状況に気づいた全員胸をなでおろす。そんな中一人雷蔵だけは面白そうにエイジャ兄弟の動きを見ていた。

「ええ、と……せっかくの料理、冷め、ちゃいますよね…」

 相変わらず晋太郎にぎゅーしたままの涼華の声を聞いて、晋太郎はいつものように微笑みながらみんなで食べようと声をかけた。

「みんなー…って、なんかすごい惨劇ーっ!??」

 晋太郎に抱きついてそこからしばらく思考停止していた涼華は不安そうにふたたび航を見守っている三つ実とようやっと解放された徒理流を見て驚愕とし、エイジャ兄弟の格好を見て再び晋太郎に抱きついた。さすがの晋太郎も魔法を使おうかと思ったが、一応お客さまなので自分が涼華の壁となってエイジャ兄弟を視界に入れないようにゆっくりと歩いた。

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「はぅ、いい匂いですよぅ~」

 尻尾をぶんぶん振りながら瑠璃は幸せそうな顔になる。涼華達が作っていたのは焼き魚・おひたし・納豆など純和風である。涼華はみんなに取り皿とお箸を手渡してまわる。先ほどので再び気を失った航と付き添っている三つ実を除いて全員が食事会場に揃っている。そして各自取り分けたところでいただきますの合唱と共に料理を口にする。

「美味いなぁ……」
「おお…うめぇ~……」
「…おーいしいー」

 ほぼ晋太郎の作った料理に舌鼓を打ち、全員満足している。愛する人が作ったものでもある涼華は幸せいっぱいの笑顔で、エイジャ兄弟もこの美味しさに感動して涙を流している。こうなると当然のごとく、女性陣や気にいった人は晋太郎にレシピを教えてもらおうと一斉に頼み込んだ。

「うん。…じゃない、はい。いいですよ」

 普段の癖で答えかけた晋太郎はいつもの笑顔で丁寧にレシピを教えていく。その様子を見ながら涼華はお茶の用意し、そっとテーブルの上に置いていく。それに気がついた晋太郎が一つ手に取ると他の面々もつられてお茶をすする。ちなみに雷蔵は外に遊びに出ており、ついていったこんこは既に置いてきぼりとなっている。

「…お茶請けほしいなぁ」

 何か欲しそうに周りを見る森と何気なく言った逢真の一言に答えるかのように外から徒理流の悲鳴が聞こえた。その声で慌てて周りを見るとエイジャ兄弟の姿はない。

「ご兄弟はきっと徒理流さんを気に入られたのですね…!私も精進せねば…」

 ぐっ、と握り拳を作りながら瑠璃は何かを決意している。そんな光景を見て総一郎は静かに微笑んだ。

「平和そうでいいね。…まあ、そうでもなさそうだが」
「まあ、そうですよね。でもあの方々は何というか…間違ったことはされない方たちですから」

 そうやり取りする惣一郎と瑠璃。ちなみにこの場合は徒理流を連れ出したエイジャ兄弟のことである。その当人はどういうわけか火起こしやらなんやら色々させられている。どうやらエイジャ兄弟お手製のお茶請けの手伝いをさせられているようである。とりあえず命は無事だというのは分かり、徒理流の悲鳴にヒヤヒヤしながら雑談を続けていた。ある意味エイジャ兄弟の扱い方が分かってきたのかもしれない。

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「あのお兄さん、早く元気になられるといいですね」

 何気なく気を失った航と三つ実のいる部屋を見ながら、涼華はそうつぶやいた。少し前に二人分取り分けた料理を運んだが、どこか三つ実はがっくりしているように涼華は見えた。それに対して晋太郎は少し難しい顔をしてうーん、とうなっている。

「…何か、気になることでも?」
「難しいな。あの子、多分死にたいんだと思うよ」
「え…」

 晋太郎の口から出た言葉に涼華の表情がこわばる。そしてそれをたまたま耳にした逢真が話に加わる。

「悲しいなあ……Qはそういうのはどうすればいいと思う?」

 逢真の肩にちょこんと座ったまま砂糖水を飲んでいたQは首をかしげる。そして目線を宙にあわせて考えるがわかんないと答えた。

「多分、これは僕たちが触れていいものじゃないね。それを止めれるかどうかはあの子次第だよ」
「それって…」
「君が僕を捕まえようとしたようにね」

 そう晋太郎が涼華に話すと同時に勢いよく扉が開き、さわやかな笑顔のエイジャ兄弟とグッタリしている徒理流の姿があった。エイジャ兄弟の手に持った皿には出来たての煎餅がずらりとある。煎餅の真ん中に堂々と「漢」という焼印がある。それの煎餅を何人か口にする。なお、この翌日煎餅を食べたものだけちょっとした騒ぎがあったとかないとか。とにもかくにも攻して途中で知り合った客人のちょっとした出来事からドタバタが始まった慰労会はお開きの時間まで楽しい雑談で時間が過ぎていった。



/*おまけ*/

 会場に到達してからずっと三つ実は不安そうに航の表情を伺いながらサーラの邪魔にならないようにしていた。そしてサーラが少ししたら目を覚ますといわれてほっと胸をなでおろした。

「ありがとうございました…!」

 深々とお辞儀する三つ実を見て小さく微笑んだサーラはそのままぽちの様子を見に伺う。少ししてからそっと航の近くに座り、顔を覗き込む。程なく抱きつき大会となった頃、航は目を覚ました。ほっとすると同時に目の前が涙で滲んでいくのが分かる。

「…小島くん、あんまり無理しないで」
「大丈夫…」
「怪我治ってないのに、ごめんね…」

 不安そうな顔で三つ実はそっと航の手を握った。それを見て航の口が開きかけたとき、一瞬車が急発進したような体の重さと同時に背骨にものすごい圧迫感がかかり、意識が何度も飛びかける。すぐ横で三つ実が何か言っているのは分かるが、ものすごい力がかかっている関係でよく聞き取れなかった。そして急にその圧迫感が消えると同時に華奢な三つ実の腕の中に航はいた。薄れゆく意識の中で、傷に触らないように彼女が抱きしめているのが分かった。

「小島くん、大丈夫?ねえ?」

 三つ実のその言葉を最後に航は完全に意識を手放した。

「小島くんーーー!!」

 このときの航は分からないでもないが、怪我のせいで血が足りないのもあった。しかし、その時首ががくりと落ちたように気を失った為、三つ実は軽いパニックになっていた。騒ぎに気づいたサーラが駆けつけ、彼女の指示に従ううちに三つ実はだんだん冷静になっていった。すぐさまぽちがいる部屋とは違う、会場の隣の部屋で航を横にさせ、サーラから危険はないと言われてからずっと航に付きっきりになっている。苦しそうにしていないか顔を覗き込み、時々航の頭をなでる。そうしているうちに怪我した人を無理に連れてくるんじゃなかったとどんどん後悔の方向に思考が持っていかれ、軽い自己嫌悪になる。

「どうしたの、先生?」

 そう呼ばれて三つ実は我に返る。なぜか航は三つ実のことを「先生」と呼ぶ。本人も何度も否定はしているが、これにはある程度割り切ることにしたので今は気にしていない。

「…気がついたの?小島くん」

 航の顔を見ると、まだ顔色は悪いものの、どこか小さい子をあやすような優しい顔をしていた。

「よかった…」
「キスでもしたくなった?」

 思わぬ航の一言に三つ実の顔が真っ赤になる。自分自身でも軽いパニックになっているのがよく分かる。

「…ええと、その…返事に困る…」

 必死に言葉をつむごうとするが、どんどん声が小さくなる。それを見て航は微笑むと再び目を閉じた。

「小島くん?」

 三つ実が呼び返すも、航の静かな寝息だけが聞こえる。

「あ…」

 結局言葉を紡げなかった自分に対して軽い自己嫌悪になる。それでも時折、思い出したかのようにそっと航の頭をなでる。そしてまた自己嫌悪になるというのを繰り返していた。それからしばらくして、三つ実はふと自己嫌悪からあることを考えた。今の自分は航にとってどういう存在なのだろう。航にとって自分は必要とされているのか、ただのおせっかいな人なのか。それがいつの間にか航をより危険な目に合わせるのではないか。それと共になでていた手も止まる。そしていつの間にか航の顔を見ることをやめた。その時、涼華が持ってきた二人分の料理が目に入った。それを見て三つ実は少しだけ勇気をもらえたような気がした。いつになるかは分からないけど、今度は一緒にみんなで楽し
みながらご飯食べ、話をしたいと思うようになってきた。そのために自分が何をするべきなのか。

「…」

 少しだけの勇気で自分に出来ること。それは―

「…死んだら嫌だよ…小島くん」

 そっと耳元でそうつぶやくこと。覚えていなくても、いつかそれが叶うことを信じて。


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感想
ごめんなさいごめんなさい。話に整形したら台詞カットよりフォローが足りないからと言ってでしゃばってしまいました。ごめんなさいごめんなさいごめんな(以下延々と




作品への一言コメント

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  • お礼が遅くなってすみません。沢山の人が描かれていて楽しそうな優しい雰囲気で良かったです。おまけには驚きました。わ、わーん。超サービスですよね。恥ずかしいのですが嬉しかったです。この頃を思い出して懐かしくそしてちょっと元気が出ました。どうもありがとうございました。 -- 古島三つ実 (2009-12-31 00:37:35)
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最終更新:2009年12月31日 00:37