NO.55 双海環さんからの依頼


羅幻王国の砂漠に急遽作り上げられた巨大な施設。
その入り口にはでかでかと『お見合い会場』と書かれた看板が下げられている。
そう、ここはお見合い会場。
大好きなあの人に会いたい、お見合いなんてどうしましょうと言う至極まともな話から、何であの人が見合いなんて、破談じゃ破談させてやるなどのどす黒い感情まで揃ったある意味欲望のデパートメント。

会場内に東国人国家の全面的設計協力を得て作成された日本家屋。そこがお見合いの会場であった。
その裏手にあるお見合い参加者の控え室-の更に外では、二人の男がそれぞれ得物を構えて対峙している。
振り下ろされる剣が全てを打ち据える剛の一撃ならば、それを受け流す刀の方はまさに静の動き。
常人には見えない速度で幾度も切り結ぶ両者。キィンキィンと何かの鳴き声のように、剣と刀がぶつかり合う金属音が、周りに響き渡る。
普通の人間にはおそらく何が起こっているのかすらも認識できない世界での剣戟。
と、どちらともなくぴたりと手を止めると双方剣を納めた。
「バロ、そろそろ時間じゃなかった」
「む、そうだったか」
会場に備え付けられていた手ぬぐいで軽く汗を拭っていたバロ-黒にして黒、ファウ・オーマの頭領-は客分であるオーキ・マイトの言葉にはたと気付かされた。
外に立てられた時計を見ると、あと10分と言ったところである。流石に汗を洗い流して着替えている時間は無い
「ふむ、仕方が無いか」そう呟くとバロはマイトと連れ立って控え室へと戻った。
汗を流す時間は無さそうだったので、簡単に汗を拭うと(こちらも何故か会場に用意されていた)新しい鎧下に着替える。
「マイト、一つ聞いてもいいだろうか」
「何だい?」
「見合いというものは一体どういうものなのだろうか」
真顔のバロに、マイトは少し困惑した表情をした。
「いや、我等にはそのような習慣がなくてな」
「うん、それは前に聞いた」
「説明を聞いてもあまり腑に落ちないというか」
「だろうね」
何となく返答が生返事なのは書いてる人間が人物像をあまり知らないせいである。許せマイト。
「うーん、僕も経験はないからなあ。同じ様なものだよ」
正確には見合いとか何だという段階をすっ飛ばして女性に惚れられるので、自覚が無いだけである。
「ふむ、つまりはあれか。やってみればわかると言う事だろうか」
「そうだね」
そうか、と呟いて一つ頷くと、バロは見合いの席へと向かうことにした。
マイトに答えてもらう事で自らの悩みを解決してもらえることは、特に期待していたわけではない。
おそらく彼を通して己の心に問いかけたのであろう。
むん、と一つ気合を入れると見合い相手が待っているであろう日本家屋へと足を向ける。
その後ろを、一陣の風が吹いた。まるでその背中を見送るように。

見合いの会場になる一室では、護民官の制服に身を包んだ女性が所在無く立っていた。名を双海環という
他の者のように華麗な装束ではなく、自らの職業である護民官の制服に身を包んだ双海はいよいよだ、いよいよだ、と随分前から呟いている。
要するにそうでもしないと心が落ち着かないのだった。部屋には真新しい畳から匂う草の香りがしている。
双海が物思いに耽る中、外ではトレンチコーツから派遣された5つの部隊が警護に余念がない。
だが双海の耳にはそれらの音すら届いていない。それだけぐるぐるしてるのである。
(ああこれでよかったのだろうか。やはり蒼天号をそのまま見合いの席まで持ってくるべきではなかったのだろうか)
そんな事を思いながらじりじりと時間が過ぎていく。
ちなみに蒼天号は流石に会場内に入らなかったために駐機場に繋がれている。
そもそもどうやって乗った状態で見合いをするつもりだったのかなど、ここでは問題になっていない。

外から差す光が少しずつ傾いていく。どういう造りになっているのかはわからないが、この施設の中では外と同じように日が沈んでいくのである。
かぽん、と庭の獅子落としが部屋に入ってから何度目かの音を立てたとき、す、と襖を開けて一人の男が入ってきた。
慌てて双海は正座をして、挨拶をした。
「はじめまして、双海環と申します」
「バロ、と申しあげる」

さて、どう戦い抜くか。

作品への一言コメント

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  • コメント遅くなってしまって、すみませんー^^; 無茶な指定にも関わらず、素敵なSSありがとうございました。本当に私は蒼天に乗ったままどうやって、お見合いするつもりだったのでしょうw -- 双海環@芥辺境藩国 (2007-10-04 01:12:12)
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最終更新:2007年10月04日 01:12