芹沢琴@FEGさんからのご依頼品


 友チョコデイ


 その日、広島明乃が出かけて帰ってきたのは、夕方であった。
「た、ただいま、戻りました」
 彼女はおどおどと寮の裏口から入って来た。
 別に小さい体を余計小さくして帰ってくる必要は全くないのだが、彼女の性格がそうさせていたのであった。
「お帰り」
 彼女の勤め先――ノライディン・シンタロ校はシンタロ寮で待っていてくれたのは、彼女の勤め先での数少ない友人の一人、大阪万博であった。
「えっと、ただいま、です」
 明乃はドキドキしていた。
 明乃、ここには紹介してもらって働かせてもらっているので、例え有休とは言えど休ませてもらうのには気が引けた。
 大阪は、明乃の事情を知っている数少ない人物であった。
(別に友人がいない訳ではないのだが。ただ、親しくさせてもらっているうちの一人の佐賀栄介は、彼女の友人の手紙を読めなかったし、彼女の友人の手紙が読めた残り一人の千葉昇は、この所よく一人でどこかに出かけてしまうので、事情を説明したりする事ができないのであった)

「で、友達には会えた?」
「はっ、はいっ!!」
 明乃は嬉しそうに、包みと手紙を取り出した。
「これは?」
「えっと、友達の琴さんが、大阪さんにどうぞ、と」
 大阪が明乃から受け取った包みを開けてみた。
 よく分からない。
「これ何?」
「ヤキチョコだそうです」
「ヤキチョコ?」
「ばれんたいんで仲のいい人に贈り物をする行事だそうです」
「なるほど」

ヤキチョコ→焼きチョコ

 バレンタイン。
 そう言えば第7世界ではそんな季節だった。
 レムーリアとは季節の変わり方が違うのですっかり忘れていた。
 現に、今のレムーリアは夏真っ盛りである。
 何だろうと思ったものは、チョコを焼いたものらしい。
 試しに食べてみる。
 なるほど。確かにチョコレートだ。口の中に入れるとほろりと崩れる。

「ふうん……」
 明乃は心なしか嬉しそうである。
「楽しかった?」
 大阪の答えに、明乃はにっこりと笑う。
「はいっ!!」
 明乃は「すぐ皆さんの食事の用意をしてきますので」と言っていそいそと準備に出かけてしまった。
 大阪はもらった手紙を読んだ。
 そこには、明乃が手紙が読めないのを代わりに読んだお礼と冗談が書かれていた(明乃は勉強してこちらの共通語はある程度読めるようにはなったのだが、さすがに第7世界の言葉まで読む勉強はしていなかった)。
 そう言えば。
 彼女には同性の友達はあまりいない。
 まあ、たまに出かけるのだったらいいか。
 大阪はとりあえず残った焼きチョコをどうするか考えた。
 佐賀は多分「これ何?」と言いつつも食べるだろうが、千葉は……(また行方不明になっている)。
「ま、いいか」

 彼女が、幸せになるように。
 そう祈って。


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最終更新:2009年03月20日 22:45