川原雅@FEG様からのご依頼品


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砂漠の国だったことを知る者は、いまどれだけいることだろう。
ここは摩天楼の都、FEG。
並び立つ高層ビルの群。
空を飛ぶ車たちが渋滞を起こすほど飛んでいる。
雅は、今日この日のために、大量の書類の束の詰まった部屋から、久しぶりに外に出た。
変わり果てた景色に驚き、茫然とする。
「ちょっと見ない間に」
夕日に照るFEGは綺麗だった。
これなら、夜景はもっと綺麗だろう。
これが、FEGに起きた大統領効果であった。
莫大な資金がFEGに集まり始め、国は光の名にふさわしく、変わりだしていた。
雅は、目の前にひろがる光景に、自分のいる世界の、バブル景気を思い出した。
そしてふと、今日執務室を出た訳を、思い出す。
想い人、千葉昇は来ているだろうかと、辺りを見回した。
昇は、動く歩道に乗って雅に近づいてきていた。
昇は、気づいた雅に向かって、手をあげた。
雅は笑って、手を振りかえす。
昇は、動く歩道を降り、雅の隣までやってきた。
「こんにちは」
雅は、夕日に照らされる昇を見て、絵になる人だなあ、と思いながら、
「こんにちは・・・こんばんは、かな? ね。夕日がすごいよ」
夕日に照らされた、昇の影が、長い。
昇も、この光景には、感心しているように、
「……すごいですね。高いビルのガラスにいっせいに照り返されて」
そこまで言って、一度言葉を区切った。
噛み締めるように、
「黄金の国のようだ。ここは」
昇はそういった後で、皮肉そうに微笑んだ。
雅は、理解している。
この急激な変化が、いいことばかりではないことを。
「あんまり急な変化は、いろんなところに無理が出るからちょっと心配はしてるんだけど・・・」
そう、かすかに不安をにじませて言い、そして再び周りを見渡した。
「ここだけ見ると違う国に来たみたい」
昇は、夕焼けに眼鏡越しの目を鋭くしたまま、
「無理は出ていますね。ええ。ここはもう、みんなの知っているFEGじゃない」
雅と同じように光の国を見つめた。
何を考えているか、計り知れない目で。
そしてその目には、心には見えていることを、昇は告げた。
「にゃんにゃん共和国の首都、FEGですよ」
雅は、困惑を隠さない。
「首都、かぁ・・・」
昇は、遠い目をして、誰ともなく言った。
「そろそろ、潮時かな……」
雅はそれを聞いて、目の前の景色から視線を昇へと移した。
「違うところに行く?」
昇も、雅を見た。
わかる人にだけわかる、雅を見るその瞳だけが、わずかに優しい。
「ええ。ここも、強くなったんで。」
そしてそのことを誤魔化すように、普段は鋭すぎる眼差しを隠すための眼鏡を手で押さえた。
雅は、それを見て、少しだけ微笑んだ。
優しく訊ねる。
「そっか。どこに行くか決めてるの?」
そう言われて、しばしの沈黙の後、昇は、
「……いえ」
雅は、嘘だと思った。
たぶんこの人は、もう決めている。
自分の生き方を。
だから、雅は笑った。
明るく、未来を見ている者の笑顔が、沈み行く日に、まぶしい。
「どこでもいいか。ねぇ。二人で行くにはどこでも面白いかもね」
雅もまた、決めていたのだ。
この人と生きるのだと。
そんな意志を知ってか知らずか、昇はまだ彼方を見ている。
「川原さんがいなくなったら、この国傾きますよ」
昇はそう笑った。
雅は、それでもと、笑う。
国の友人たちの顔が浮かんだが、それでもと。
「大丈夫大丈夫、いなくてもそれなりにまわるように教育はしてるから」
明るく、手を振った。
この国で、雅が果たしている役割は、大きい。
何よりその存在のかけがえなさを、昇は知っている。
「どんながんばっても人徳や人のつながりまでは教育できませんよ」
昇はそこまで話した後、黙った。
雅の声は、あくまで明るい。
「王様には怒られるかなー。あ、大統領か。ふふっ」
笑う雅の声だけを聞きながら、昇はかの人を思った。
「大統領はすごいと思いますよ。もう伝説の中の人物だ」
雅は、いつも誉め言葉の裏にある、デメリットさえ、見通す。
その気になるとなく、最悪を想定して最善を尽くせる女に、雅はなっていた。
「伝説になるって、つまり本物を見たことない人が増えるってことよねー。いいんだけど。ちょっと執務室の書類のたば思い出しちゃった」
その大統領に会うことが、執務室に戻ることが、なくなるとしても。
どこか、これまでの生き方を過去のものにしようとしている自分がいるのを、雅はどこかで感じていた。
彼女には、見えてしまっている。
千葉昇という未来が。
昇は大統領の話を続ける。
「そうですね。もう、実在を疑ってる人もたくさんいます」
わずかな沈黙。
「……そんな風になってみたい。伝説の中の誰かに」
そして、さらに口をつぐんだ後、雅に、
「……ちなみにほんとについてくる気ですか?」
と確かめた。
雅が昇にとってもかけがえのない存在であることを、見せないようにしながら。
昇の総てを見通したように、雅は言った。
「是空さんがどうして伝説の男になったか教えてあげましょうか? すごい奧さんがいたからよ」
それは、いまは思い出だけの女の、ただ想いからなる伝説だった。
みんなを護ってあげてね、そう言って旅立った、ただの是空とおるという男の生涯の伴侶。
「あの奧さんにはかないそうもないけど、ちょっとぐらい手助けはできると思う」
雅は、その女のことを、よく知っていた。
もしかしたら、是空さんが伝説なのではなく、その女が伝説なのではないかとさえ、思うほどに。
昇はけげんそうに、
「凄い奥さん…?」
そう言って、小さな声で、
「彼はずっと独身の……」
雅は、ふふ、と笑った。
「秘密よ、秘密」
昇は目を白黒させた。
「そうか。進行している縁組にも影響が」
雅は、大統領の縁組みがあると知って、独身なら仕方ないかと、笑った。
かの女が、いまどこにいるか、思いをはせながら。
「……」
昇は黙って、雅に手を出した。
「僕は冷たいが」
雅はその手をとった。
その意味を、理解しながら。
「使えないと思ったらいつでも置いてって」
真っ直ぐに、昇の目を見た。
夕日に、燃えるような瞳。
「でもきっと探して追いつくよ」
強い目で見つめ、雅は笑って言った。
昇は眼鏡を指で押した。
迷った後、眼鏡を外した。
眼鏡のないその目は、鋭い、目つきだった。
「貴方が恥ずかしくないようにする」
昇もまた、決めたのだ。
雅と伴にありながら、その未来を目指すことを。
「うん。私も頑張る」
雅は微笑んで、その鋭い目つきの昇を、見ていた。
この人についていく。
ずっと、ずっと。
昇は考えた後、眼鏡をかけて歩き出した。
手を握っている雅も必然的に、一緒に歩き出す。
隣に並んで。
昇は、つないでいる手とは反対の手で、眼鏡を押した。
「とりあえずは、動くための資金をつくりたい。その次は芥辺境藩へ。あそこの犯罪組織をつぶしたい」
雅からは、そう言った昇が、夕日に燃えているように見えた。
笑う。
「OK。芥ね」
昇の隣を楽しそうに歩きながら。
「資料集めるわ。資金は・・・ちょっと前なら自由になるお金があったんだけどな」
昇は、前だけを見ていた。
しかし、隣を歩く女の手を離すつもりはない。
「すぐに作れる。これだけお金は集まっているんだから」
雅は昇と同じ未来を見るだろう、これから始まる総てに、
「すっごいわくわくしてきた。・・・・ふふっ」
昇は高い城を見て、拳をあげた。
それはかつて政庁城と呼ばれた、いまは共和国大統領の城。
これはきっと、大きな出来事の始まり。
「いずれはあそこに」
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最終更新:2009年03月20日 11:45