むつき・萩野・ドラケン@レンジャー連邦様からのご依頼品


貴方と雲より高い場所で

 思えば、あの人と出会ってから本当に色んな事があった。
 もうどうしようもない絶望に襲われた事も、悲しくて悔しくて仕方がない事もあった。
 でも、それ以上に温かく。優しく。楽しくって嬉しい思い出も。あの人と多く分かち合ってきた。
 これから、また色んな事が起こるかもしれない。世界の移り変わりは目まぐるしいから、きっとまた辛い事も。
 でも、きっと立ち向かっていける。
 これから行うのは、私達の絆を確かにする為の儀式・・・・・・・・・のようなもの。


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「でも、まさかこんな事になるとは思わなかったなぁ・・・・・・・・・」
 むつきは笑いながらペダルを踏みやすいようドレスの裾を僅かに上げる。苦笑ではないのは、純粋に状況を楽しんでいるからだ。

 これから彼女達は、それぞれ戦闘機に乗り宰相府に向かう段取りらしい。ちなみにサクとヤガミ夫妻は双子の赤ん坊連れだった為一足先にきゃりっじで飛び立っている。

「嫌でしたか? こういう演出」

 前方座席から蝶子が不安そうに尋ねた。先程までのがくがくは、愛すべき国民と一緒のうちに多少和らいだようだ。微妙にまだ震えているけど。

「いいえ? 大好きです」

 笑いながら、むつきは後ろから手を伸ばして「頑張りましょうねー、蝶子さーん」と愛しき藩王の背をさすった。機体はこの日の為か、調整が完璧でありパイロットが弄る箇所はほとんどなく。

 彼女達は、その瞬間を待ち。彼女達を乗せた戦闘機は、空へと上がった。


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 夜明け前が1番暗いと最初に言ったのは誰か。
 星が瞬く中、己のライトの灯りを頼りに。
ラスターチカが他の戦闘機と三角矢(デルタアロー)を描き飛翔していた。さながら、鳥の群れのように。下から仲間の飛翔を見守るようにゆっくりデルタアローは回り、仲間を群れに加えるように移動し、砂漠の海を抜けて行く。
暗闇の中広がる砂丘は、静かな水面のよう。
 しかし、むつきは以前姿が見当たらない夫の事が気にかかった。
念の為、共に飛ぶ他の機体の通信を拾ってみるが、自身が招待した貴賓含め、他の戦闘機のパイロット・コパイの返事は皆「I don‘t no」だった。一部、笑いをこらえるような声を上げていたけど。

「蝶子さん。そういえば蝶子さん最初からパイロットスーツを着てたって事は予めこの結婚式はこういうものだって知ってたのですよね? だったら・・・・・・・・・」
「知ラナイデスヨ、キットソノウチ来テクレマスヨ」

 蝶子藩王、片言になっています。動揺で機体が揺れなかったのが幸いである。

 と、機体のスピードが上がるのを感じた。燃料が減ったから速度を上げられるようになったらしい。
 燕姫の愛称の白と青の機体は、同じく白と青の、猛禽と称された他国の機体と並んだ。
 むつきが設計に携わったラスターチカと、久珂夫妻の藩国戦闘機、Whirling leaf。個体名・東雲。
 戦闘機を愛する者にとっての夢のコラボだった。

 美しい2体の戦闘機が並ぶ姿に、むつきが息を飲むと。

 遠く、東の空が白くなっているのが見えた。

「きれいだ・・・」
「新しい朝だー」

 その光が、銀翼を照らし輝く姿にパイロット・コパイ達は皆、声を上げた。

「こちらFEG.夜明けはとても綺麗だ」

 あゆみの夫からの通信に頷いていると、一足先に飛び立ったきゃりっじの姿が確認できた。
 むつきと蝶子の乗る機体は、何故かきゃりっじの下に並んで。
そして、むつきは「わはははは・・・・・・」と乾いた笑いを上げた。

 彼女の愛する人・カール・瀧野・ドラケンはきゃりっじの後部ランディングデッキにいた。

 何で、と思っていたら蝶子はカタカタと機体のキーボードにに暗号を打ち込み。

「脱出!」
「了解」

 むつきは答えてから一瞬目を点にした。
 そして、コクピットからの衝撃に耐えながら慌てて後方から機体を持ち直させた。

 蝶子が前方から落ちて行ったのと同時に、カールはパラシュートも付けずにきゃりっじから飛び降りた。
 2人とも、笑っている。て事は・・・・・・・・・。

「おーい」

 むつきは落下していくカールに手を振ると、操縦桿を握り直した。
 もう、男の人って悪ふざけが好きなんだから。
 機体を彼の落下して行く方に寄せて、両手を広げた。蝶子が爆破させた方から強い風が入りドレスの裾が大きくなびく。ちょっとだけ呼吸しにくく、義体でよかったと後で常々思った。
 そしてカールは、見事彼女の広げた腕に飛び込み。自身より随分小柄な妻を抱き締めた。

 普通、女の子が落ちて来るのを男の人がキャッチするんじゃなかったかな。

 思いながらも、一瞬だけ彼の胸に頭をもたれさせ。すぐに座席に座り直した。前方は、生憎蝶子が脱出したせいで座席がなくなってしまったのでカールは中腰の姿勢で操縦桿を握った。

「まずは機体を立て直そうか」
「了解」

 横を飛んでいた東雲がふわりとラスターチカに覆い被さると、キャノピーを落として行った。白い天幕上のものが前方の穴を綺麗に防いでくれた。

「いやあ、緊張した!」

 そしてそのままくるくると回りながら降下し、落下して行く蝶子を回収するのを確認し。夫婦は笑い合った。

「さて、カール、これからどうするの?」
「もちろん、結婚式だ」
「了解しました、行きましょうか」

 微笑むむつきに応じるように、カールもまた指輪を見せながら微笑んだ。
 外を見ると、他の戦闘機が夫婦を乗せた燕姫を追い越して集団らせんループに入った。
 既に空を覆っていた闇は晴れ、どこまでも澄んだ透明な青空に真っ白な輪が幾重にも連なっていた。

「パイロットの結婚式か・・・派手だ!」

 その光景にむつきが呟くと、カールは指輪をはめ、微笑んだ。
 一瞬、きょとんとしてから。察したむつきもカールに指輪をはめた。

 大きなごつごつした手。この手の持ち主である人と、私は・・・・・・・・。

 そして、2人は示し合わせるように顔を寄せ合い口付けた。

 顔を離すと、カールは笑い。

「儀式終了」

 通信で呼びかけると、瞬間通信越しに歓声が響いた。

「おめでとうー!」
 あゆみのすぐ側で蝶子も愛すべき国民に祝福を叫んだ。
「おめでとうございますー!」
 サクは、夫と2人の子供をあやしながら。
「おめでとう! お幸せに、ご両人!」
「おめでとうー!末永くお幸せにー!」
 城とミロは同じラスターチカから口々に。

 沢山の声援を通信越しに受けながら。
 ラスターチカ、アフターバーナーON。
 皆が作った輪をマッハでくぐり抜け、また歓声が響いた。


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 あの時に見た真っ暗な空も。その直後に見た朝焼けと蒼穹。
 そしてあの後広がって見えた蒼い海。
 そして、音速を楽しむあの人の楽しそうな顔も。
 全部が全部、忘れられない。
 ここまで来るのにも沢山の困難があったんだ。
 きっと、またいろんな事があるのだろうけど。
 その時は、この幸せな週間を思い出そう。
 大丈夫、何があっても私はあの人と共にあるのだから。




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まさか、人様の結婚式のSSを書く事になるとは思いませんでした。
改めて、むつきさん、カールさんご成婚おめでとうございます。末永く、お2人が共に歩み続けられますように。


作品への一言コメント

感想などをお寄せ下さい。(名前の入力は無しでも可能です)

  • 素敵なSSをありがとうございました。確かに空から落ちてくるのは逆だと思いマスw  今もこれからの色々ありますが、このときを忘れずに頑張っていきます。ありがとうございました。 -- むつき・萩野・ドラケン@レンジャー連邦 (2009-03-18 20:48:10)
  • こちらこそ、思い出を形にする大役をさせていただきありがとうございました。どうか、ごしあわせに。 -- 芹沢琴@FEG (2009-03-20 18:21:34)
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ご発注元:むつき・萩野・ドラケン@レンジャー連邦様
http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/cbbs_om/cbbs.cgi?mode=one&namber=1691&type=1623&space=15&no=


引渡し日:2009/03/18


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最終更新:2009年03月20日 18:21