※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

黒崎克耶@海法よけ藩国様からのご依頼品


/*/

「あら、いい花ですね」

 一人の患者が、窓辺に差された真紅の花束を指して聞く。

「ああ。ウチのから貰った」

 陽光を帯びてほんのりと赤みを増した花束を傍目に、ソウイチローが答えた。
 アマリリス、カトレアそして薔薇。愛を示す花に囲まれた誇りと高貴の花は、彼の見立てた花瓶に差されているのだが、その誇るように咲く無数の美しい花弁に隠れ、まるで窓辺から生えているかのようだった。

「あら? でも誕生日にはセーターを貰った、って言ってませんでした?」

 患者が目ざとく、その花の根元に結わえ付けられた”ハッピーバースデー”と刻まれたリボンを見ながら問いかける。

「ああ。そうだな」

 それをつけたのはソウイチロー本人だ。アイツはいつ気づくだろう、と彼は声を殺し、患者から見えないように背を向けてて笑う。
 その背中はどう見えるのだろうか。
 少なくとも、患者にはとても幸せそうに見えた。

/*/

「いつもありがとう。愛してますよー、ソウイチローさん」

 黒崎……いや、ソウイチロー自身も黒崎ならこの呼び方は正しくないだろう。
 克耶は両手で包装された何かをソウイチローへ渡す。平静こそ装っているが、その緊張は全身からこっそりと漏れ出していた。
 その度合いは、ソウイチローが受け取ったプレゼントから見て取れるだろう。気を使って花でも渡してくるのかと思って受け取ったそれは、拍子抜けするほどに柔らかい。

「ありがとう」

 しかし、あえてそれを口に出すというのも無粋なものだ。プレゼントされたものは喜んで受け取るべきだろう。
 ソウイチローは感謝の言葉を述べながら包みを器用に開けていく。慣れた手つきだ。実際慣れているのだが。
 包装紙の中から、天女が生まれるように現れたのは暖かそうな黄色のセーターと、同じ色に黒のストライプが入ったニット帽だった。イエロージャンパーにでも合わせてくれたのあろう。嫌いな色ではない。
 ニット帽を頭の上に乗せ、セーターを自分の丈に合わせて見せると、周囲から一斉に拍手が起こった。

「えへっ」

 それを受け、いまさら恥ずかしそうに克耶は笑みを浮かべた。尻尾が上下左右にぶんぶんと揺れている。お前は犬か。

「おめでとうー」
「ありがとう。まあ、うれしくはあるな」

 ニット帽とセーターを畳み、袋に入れながらソウイチローは答える。
 ツリーこそないが、外国人居住区で暮らす人々の生活の灯りや、手を伸ばせば届きそうに輝く無数の星々が、発光ダイオードのように。見守るように空にその姿を浮かべる黄金色の月が、ツリーを彩る飾りのように淡く輝く。
 いろいろ面倒な場所であるが、クリスマスには十全だった。

「うんー。あ、誕生日おめでとうー! だった」
「そっちは微妙だな。そろそろ俺もおじさんだ」
「それを言ったら自分もおばさんに……」

 ソウイチローが苦笑してみせと、克耶も一緒に苦笑して見せた。
 今年でこの誕生日も三十回目だ。同じことなのだが、クリスマスが三十回目なら何か救われた気がしている。

「ソウイチローさんが年取っても好きなのには変わりありませんから」
「30だぞ……」

「うふふ、自分はソウイチローさんのいっこ下ですから」:
「30でもいいのよー」(だきつけたらだきつきます)

 お前はな、とソウイチローは嘆息を漏らす。
 不意に周囲を見渡すと、全員がわざとらしく舌を出し、火傷したように振舞いながらブラックのコーヒーを口に運ぶ。別に砂糖がないわけではないのだが、嫌がらせの類だろう。 
 ソウイチローは周囲を見た後、見なければよかったと再びため息をついて彼女を抱き寄せた。
 抱きしめられた彼女の手がソウイチローの背中に回ると、さっきよりも一層に大きな拍手が鳴らされた。

「来年も、またその次もいっしょにお祝いしましょうね。どこまででもついていきますから」
「ああ」

 上目遣いに見上げながら言う克耶に、ソウイチローは囁くように答える。

「ふたりで一緒にがんばりましょうー」

 言うと、彼女は背中に回した腕に力を込めた。コートの生地が引っ張られて歪み、その感触を身体に焼き付けるように強く抱き寄せる。
 ソウイチローは横目で周囲を見渡し、彼女に困ったような笑顔を向けた。

「もう少し周囲に気を使え」
「はっ」

 言われて克耶の顔が、耳の先まで真っ赤に茹で上がる。尻尾もピンと真っ直ぐに立った。
 その顔を隠してやるように、ソウイチローは自分の胸に彼女の頭を押し付ける。
 と、様子をみてニヤニヤと微笑んでいた周りの人々が、大きな笑い声を、賛美歌のように空へ響かせた。

/*/

 そのすぐ後に宅配便が届く。

 運ばれてきた荷物は様々あったが、その中に

 赤々と咲き乱れる愛の花に囲まれ、同じ色ゆえにやや目立たずとも、優雅に咲き誇るアマリリスとカトレアの姿がある。

 まるでそれは

 克哉と、彼女に抱きしめられて困った顔をしているソウイチローのようだった。


作品への一言コメント

感想などをお寄せ下さい。(名前の入力は無しでも可能です)

名前:
コメント:




引渡し日:2009/03/01


counter: -
yesterday: -