古島三つ実@羅幻王国様からのご依頼品
秋の園のバス停で
はらりと紅葉が舞い落ち、水辺に小さな波紋を広げ。ゆっくりと水の流れに乗っていく。
辺り一面の木が赤く染まったすぐ側で。
夏の園から20kmも歩いて来てしまった一行が。色々とくたくたな状態でバスを待っていた。
その場に座り込む者、周りの人間と談笑する者、何故だかそわそわする者とそれぞれだった中。シコウも恋人のヤガミと共にバス停の椅子に座っていた。
ぐったりとした状態で座り込む彼女にヤガミは黙って肩を貸している。周りが気を利かせてくれたのか、寄ってくる人はいない。
彼女の目は自然と頭上の紅葉の木に向いていた。
目の前をはらはら落ちる紅葉がとっても綺麗。
それを追いかけて飛び回る羽妖精さんも、羽がきらきらと光を反射させて。まあ、彼女の相方さんが妖精さんが紅葉と激突しないかと心配してあわあわしてるけど。
ああ、さっき水に大分浸かってたからかな。涼しい風がめちゃめちゃ冷たいよ。
ふと、肩に僅かな重みを感じた。触れると合成繊維の独特の感触。
「ずっと肌をさすっていたからな」
ヤガミの黄色い上着が肩にかかっていた。
先程彼女の見た方向では遊び疲れたらしい羽妖精が青年の黒ジャケットの胸ポケットに納まっていた。
「ありがとう。やっぱ長時間水に浸かってるもんじゃないね。て、いうかヒドイよヤガミ。私気絶してるのほっとくだなんてさ」
「あれは・・・・・・・・・まあ」
よくする渋い顔になるヤガミ。彼女が倒れている間、色々と捕まっていて離れていたから・・・・・・・・・。
一旦青年の胸ポケットに飛び込んだ羽妖精が再び飛び出て青年の袖を強く引っ張る。青年はその引っ張られる方向に向かって行った。
「別に怒ってないよ。ヤガミが人気者だって事は分かってるもの」
ヤガミもその相方も含めれば野球チーム2つはできそうだし。
「ただ・・・・・・・・・。もうちょっと、こういう風にのんびりしたかった、て思っただけ」
ここに来るまでに大分ゴタゴタ騒がしくなってしまったから。まあ、今回はデートじゃなく集団旅行だから予定調和なんてなかなか無理なのだが。
「まあ、それはその内、な」
「うん、その内ね」
笑いながら肩にかかったジャンパーをぎゅっと握った。
寒さは大分和らいで来たけど、何か温かいものとか欲しいなぁとシコウがぼんやり思っていた時だった。
「あ、シコウさん。ヤガミもどうぞ」
那限逢真、青年が2人に差し出して来たのは
「・・・・・・・・・さっきは、じっくり味わう暇なかったんで。近くの店で容器もらえたんで、よかったら」
秋の園のおいしい水の入ったコップ。もちろん、素敵な兄弟が褌を洗った所とは別口で汲んだものだ。
シコウは考えてから、笑顔でヤガミの分も受け取った。
「ありがとうございます。あ、残りはコテージに持って帰って、これでお茶淹れてもらいましょうよ」
「ああ、そう思ってそっち用の容器も持ってますよ」
あー、でもあっちは夏の園だから暑いかなぁ。
でも、今ここにいない涼華さんや晋太郎さんにも飲ませたげたいしなぁ。
思いながらも、シコウはコップに口を付けた。
水の入った容器は鏡のように。色鮮やかな紅葉を映していた。
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引渡し日:
最終更新:2009年02月25日 17:42