ミーア@愛鳴之藩国さんからのご依頼品
/*一休みの後に*/
「あ、まだある」
「何の話?」
夕方。愛鳴之藩国の一角にあるどうみても普通の家を見て、下校中の中学生が立ち止まった。
長い影に引っ張られるようにして道を歩いていた少年達は、立ち止まり、そちらを見る。
「えーとさ。今日俺、遅れてきただろ? その時、あそこに家が生えてきてさ」
「…………」
「うわ、なにその目」
「半眼?」
「いや説明されても……」
「何って聞かれたから…………」
「ごめんなさい」
「いえいえ。あれ?」
「あれ?」
なんで謝ってるんだろう。なんで謝られているんだろう。そんな風に思って二人は首をかしげる。
そうこうしているうちに、家から人が出てきた。若い夫婦だろうか。どことなく、理科準備室にこもっている先生を思わせる黒い男と、若い女性の組み合わせ。二人は外に出てくると振り返った。
男が手をたたく。
夕暮れの下。軽やかな音は鈴音のごとくよく響いた。
――そして、二人は何も無い空き地から出ていった。
「……なくなったな」
「なくなったね」
「どうよ」
「どうよって、どうよ」
「さあ……」
まあ、どうしようもないというべきか。
二人は二分ほど空き地を見つめていたが、結局、まあそんなこともあるさとばかりに帰宅の途に再びついた。
長い影を追いかけるように、二人の学生は歩いて行く。
/*/
それはともかくとして。注目の的ことミーアとバルクの二人組は、夕暮れから徐々に青く青く染まっていく空を正面に向かえて長い道を進んでいた。
ミーアは機嫌が良さそうな表情。
気をつけないと無意識のうちに軽くステップを踏みそうなくらい。
なんとなく体は温かく、それとなくつないだ右手は意外としっかりした感触。
手の甲をなでてみたい衝動に駆られる。
ああ、浮かれてるなぁとと思った。
「どうしました?」
ミーアはバルクを見上げた。日差しのせいで、いつもより表情の影が深い。
普通であれば、不機嫌なのかな、と思っただろう。
ただ。彼女は彼女にしかわからない何かで、バルクもまた機嫌が良さそうだと思った。
「なんとなくです」
「深いですね」
しごくまじめな顔でうなずく。ミーアはくすくす笑った。
「まじめですね?」
「そうですね。ええ。それが理由でからかわれることも多いです」
「からかわれる?」
この人物がからかわれるところと言うのはあんまり想像がつかない。と思いかけて、すぐに考え直した。
ああ、例外がいた。
「バロには時々空気を読め、頭が固い、と言わるのです。そのたびにそれはあなたの方だと言い返すのですが。まあ、どうにも平行線ですね。周りに言わせるとどっちもどっちということらしいですが」
うわぁ-。
ミーアは内心で爆笑しながら、むぅ、と不満そうにうなるバルクに少しだけ身を寄せた。
「どこにいきましょうか」
ミーアは笑いながら話題を変えることにした。すぐさま思考を繰り替えるバルク。ちなみにその頭の中では今後のスケジュールがいくつか浮かんでいる。
どういう手順で進めるのが一番いいだろうか。などと考えるのは、まあ、空気を読めと言われる所以であろう。
しかし、特に緊急の用事という物は無い。ならばこの時間はプライベートだ。そしてプライベートな時間を過ごすのなら、
「そうですね。もう少し散歩をしましょうか」
もうしばらく一緒にいたいと思ってしまうのは、もしかして、案外自分は甘えているのだろうか。
ミーアはバルクの顔を見た。相変わらず難しい表情。きっと何かいろいろ考えてるんだろうなぁ、と思う。
「それから夜になったら食事をして、それから……」
どうしようか。どうしていればもっと長くいられるだろう。ついつい、長く引き留めよう、長く一緒にいようと考えてしまう。ミーアは眉根にしわを寄せて、むむっと考え込む。
「いいですね。では夜になったら星を見ましょうか」
すると。バルクは思わぬ事を言ってきた。
目を丸くするミーア。
「ああ。いいですねぇ」
「ええ。ただ、…………あー」
「……? なんですか?」
「いえ」
バルクは顔を赤くする。照れて頭をかいた。
首をかしげるミーア。
「いえ。なんですか。こう言うときは、もっとあなたを見ているべきなのかと考えて、いえすみません。忘れてください」
忘れてください、といわれても。
……不意打ちでそんなことを言われて、忘れられるはずがない。
ああ。こっちの顔まで赤くなってる。
「……私も」
だからきっと、こんな事を言ってしまうのも仕方がなくて。
恥ずかしさを誤魔化したくて、
それ以上にうれしくて。
「バルク様を見ているのが一番いいです」
そう言って、彼女はぎゅっと抱きついた。
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ある夕暮れの帰り道。
――さようなら、また明日。
そんな言葉が響く中、
この二人の時間は、もうしばらくの間続いていく。
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引渡し日:2009/02/14
最終更新:2009年02月14日 23:44