東西 天狐@玄霧藩国様からのご依頼品


 久しぶりの逢瀬は蒼孝という店での食事だった。
「や、久しぶりですー」
 あいさつする天狐に対し、首を傾げる火焔。
「あ。うん・・・。久しぶりだね」
 天狐は自分の外見が以前会ったときと変わっているせいかとも考えたが、どうやらそれだけでなく他にも何かあるようだった。
 そんな二人には構い無く、料理が沢山出始めた。がらがらとワゴンで運ばれてくる料理達からは、いい匂いがする。
 火焔は傾げた頭を戻して、再び口を開いた。
「元気だった?」
「うん、いろいろあったけど元気でやってます。そっちは?」
「まあ、そだね。まあまあかな」
 そこで目の前の料理の支度が整った。
「お、料理が来たね」
「おいしそう」
 火焔は料理を食べ始めた。顔が心なしか悲しそうに見える。
「そっちも大変、だったのかな」
「ううん。別にね。ふつーよ。ふつー。」
 真剣に聞いたのだが、流されたのか料理に夢中なのか。そんな返答だった。
「うん、えーと、まずは食べよう。それから、いろいろお話を聞かせてください」
「そだね 食べよう」
 火焔はそう言って、やはり何かあるのか、悲しそうな印象が拭えない。
「あ、もしどこか気分が悪かったりしたら教えてね。少しはわかるかもしれない」
「医者でもやってるの?」
 火焔は少し微笑んだ。
「ん、最近転職したんだ」
「へえ」
 ざっと見たが、玄霧火焔の受けたエリスタンの呪いの影響では無いようだ。
「どうしたの?」
 じっと見てきている天狐を不審に思い訊ねる。
「ん、ちょっと元気ないかな、と思ったから。またなんかひどいことを言ってしまったかな、って。あはは、ごめんごめん」
 笑って誤魔化した。
「あんたがひどいことなんかしてたっけ」
「ん、長いこと会いに来られなかったから、心配させてたかもしれないと思ってたんだ。手紙も出せなかったし」
「ああ。いや。どっかで死んだのかなと思ってた。生きてたのなら、いいんじゃない?」
 あっけらかんと言う火焔。
「ひどいなー、そう簡単には死なないよー。うん、生きててまた会えて、本当にうれしい」
 天狐は笑って喜びを現したが、火焔は「そうね」と、また悲しみを帯びた顔をする。
 うーん、なにがそんなに悲しいんだ。
 天狐は少しでも笑顔になってもらいたくて、あることを思いつく。
「あ、そうだ、見てみて」
 みょーん、と自分の耳を伸ばしてみせる。
「森国?」
「うん。面白いよね。すっごい耳伸びるようになったんだよ」
 びろーーん、むにょーーん、と何度か耳を引っ張ってみせる。森国人が為せる業(?)だ。
「ふうん。よかったね」
 面白かったらしい、火焔は今度ばかりは憂いの無い顔で笑った。一安心する天狐。
「あ、触ってみる?」
 行儀は少々悪いが、料理を口に運んで耳をぴろぴろさせて誘う。
「ううん。いい」
 見てるだけで満足だとでもいう感じである。
「おいしいね」
 それから二口三口色をすすめ、また手を止めた。
「んぐ、どうかした?」
「ううん。ほんとにおいしいね。びっくりした」
「うん、おいしいよねえ。知り合いの人のお店なんだけど、こんなにおいしいとは思わなかったよ 」
 これで少しは明るい顔になってくれればいいが、と思ったが。
「でも、お店がなんか悲しい感じがする。なんだろ」
「お店が…?」
 天狐は言われて辺りを見回した。別に、店内の雰囲気が暗いとか、無い。
 火焔は野生の人だから、普通では感じられないものを感じてるのかもしれない?
 店員に聞こうと思っても、なんのことだと戸惑われる。
「…火焔、どこにありそう、とかわかる?」
「わかんない。いや、なんとなくだから、きにしないで」
 変なことを言って余計な迷惑を掛けたくない、というのがある。
「いや、火焔のなんとなくは信じられる」
 断言した天狐に、火焔は笑った。
 天狐は思案を巡らす。そうだ、店主夫妻の三つ子が見当たらない。
 どうやらあおひとは子供を探してあちこちにいき、憔悴しているようだ。
 天狐はその様子を見つけてあおひとに寄ると、なにか手伝えることはあるかと問う。が。無い、ありがとうと返される。
「火焔、ドンピシャだ!」
 火焔が悲しい理由を見つけられたことがうれしい天狐。
「?」
「ここの子供たちが行方不明になってるらしい」
「なるほどーってえー」
 なんじゃそりゃー。というリアクション。
「それで、俺の知り合いの人、お母さんたちが探し回ってて悲しい」
「私は超能力者か」
「個人的には幸運の女神のほうがいいなあ」
 火焔が呆れた顔をしているのに気付いていない。
 天狐は忠孝を探す。店の奥で料理作っていた。
 天狐は、忠孝にもう一度三つ子捜索の手伝いを申し出た。
「…店が終わったら、家族で探します。大丈夫ですよ」
 オーナーとしては、客に余計な心配や迷惑を掛けるのは本意ではないし、そも家族内の問題である。
「火焔が、みつごちゃんたちの手掛かりになってくれるかもしれません」
 食い下がる天狐。火焔に目で協力を願う。
「いいよ」
 なんだこの張り切り様は。火焔はため息をついて手伝うことにした。
 天狐は火焔の協力を得られたことで勢いづく。
「あー、えと、もしご迷惑だったら、そこははっきりとおっしゃってください」 忠孝に頭を下げ、それでも手伝いたい、と伝えた。
「わがまま言ってごめん。でもありがとう、ほんとに!」
 火焔の手を取り、そう言う天狐。
「ううん」
 それは別にいいんだけど。
「そのために私を呼んだの?」
 火焔はなんだかなぁという気持ちである。
「違う。俺が会いたいから呼んだ」
 手を肩に遣る。
「ずっと、ずっと会いたかったんだよ」
 そうしてまっすぐ目を見た。
「久しぶりの割に、なれなれしくない? どうかした? 前と違うけど」
「いや、特に変わったつもりはないんだけど…嫌だったらごめん」
 手を離す天狐。ちょっと気まずい感じがする…。
「・・・」
 火焔はふぅん、という目で天狐を一瞥したあと、三つ子捜索を開始した。
 三つ子は、すぐに見つかるだろう。


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引渡し日:2009/1/21


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最終更新:2009年01月21日 14:05