くっきりとした入道雲だった。
お昼の小笠原。
青森とりんくが歩いていた。
手をつないでいて、時々腕があたっていた。

「えっと、暑くても、これは嬉しいです…」
りんくの白いワンピースのスカートが風にそよいだ。
今日は2回目のデートだった。

青森は笑ったというよりも、苦笑した。
「まさかお前さんとこうなるとはねえ」
りんくは抗議しつつもその顔は笑っていて、今が幸せで仕方がないといった風だった。
「知ってるか? 俺はずっと、お前さんを子ども扱いしていた」
「それは、知ってましたけど…」
私は、ずっと本気だったのに。と続けた。少し苦笑しながら。
「今でも悪い気がする。神様だかなんだかに、な」
そういうと青森はりんくを引き寄せた。

青森の涼しそうな青い色の半袖のシャツにりんくのほっぺがあたった。
「だからどうしたという感じだが」
「全然悪くなんかありませんよ。私、嬉しいんですから」
そう言って青森にぎゅっと抱きついた。
汗臭いぞと耳元で言われた。
「平気です。今は、こうしてたいんです」
そう言って顔をうずめると、どこかタバコのにおいがした。

強い風が吹いてりんくの帽子が風にとんだ。
思わず見上げたりんくは空の眩しさに目を細める。
白い帽子は小さくなっていく。
鳥が一羽、とんでいるよう。
「とんでっちゃいましたね……」
「風にやるさ」
今日はどこに行く?と青森が尋ねた。
「えっと……あの、実は、ひとつお願いがあるんですけど……」
目で先を促す青森。二人の距離は近い。
「ちょっと前に、お祭りで言ってくれたこと、覚えていますか?」
おそるおそる、そう言った。大事なことだった。
「ああ。覚えている」
「指輪、ほしいなって……」
少し俯きながら言った。
「例えばどんな?」
「……おそろいの、いつでもつけていられるようなやつが」
青森は指輪の箱を出した。
いざそれが目の前に出て、嬉しさがでる一歩手前なりんく。
「約束は約束だ」
「わ、私にくれるんですか? あ、ありがとうございます!!」
すごくうれしそう。早速蓋をあけて中を見た。

2つ、指輪があった。ペアリング。
銅のように見えもするが、赤に近い金にも見える。
飾り気はすくないが、おかげでどこにでも、もっていけそう。
りんくは瞳をキラキラさせている。
「うわぁ…綺麗ですね。あの、さっそくつけてもいいですか?」
「たいした力はないが」
青森はそっと指輪を一つとるとりんくの指にはめた。
そしてその指にキス。
赤くなるりんく。固まらずに、そのまま抱きついた。
「あ、ありがとうございます。青森さん、大好きです!!」
「そういうところが子供なんだ」
「だって、恥ずかしいから顔見せたくないんですもん…」
青森は微笑んだ。そして、抱きしめた。
「子供っぽくてもいいなら、そばにいさせてくださいね…」

「はいはい。俺も引退だな」
「引退ですか?」
「あぶないところにつれていくほど、度胸がない」
なに、ずっと荒事は嫌いだった。いい機会だ。と続けた。
「私、そんなに弱くないつもりですよ。青森さん、絶対子供が危ないのを見過ごせないじゃないですか」
荒事は嫌いですけどと続けたりんくに青森は微笑んだ。
家族が人質にされたらそれで終わりの軍人では役に立たないんだよ。とつぶやいたが、りんくの顎をゆびで持ち上げて微笑んだ。
目をつぶるりんく。
「ま、あとのことはあとで考える。取りあえずは引退だ。この島でもいいから小さな農地でも……?」
目にゴミでもはいったか?と聞く青森。
「はずかしいですから。あんまり、顔にさわんないでー!」
後ずさる。顔は真っ赤になっている。
悪かったと言って青森も離れた。
頭をかく青森。
りんくは心臓に悪いと言いつつも嫌ではないんですよ?と言った。
「そうだな。まだはやい。ゆっくりでいいさ」
青森は微笑んで歩き出した。
りんくはしょんぼりして謝った。自分は子供だと思った。

しかしりんくはあきらめなかった。
腕をくんでもいいですか?と青森にお願いをした。
「もちろん」
また二人は近づいた。
「ありがとうございます。好きな人と、こうやって腕を組んで歩くのが、ちょっとした夢だったんです♪」
「どこか、行きたいところは?」
青森は少しほほ笑んだ。嬉しそう。
「んーと……海がいいです。一番最初に、いったところ」
「子供いたところだな」
青森とりんくはのんびりと歩いた。
ここは小さな島だった。30分でついた。

「最初は、遥ちゃんがいましたよね~。青森さんの愛情表現がわかりづらくて大変だったんですよ」
「悪かった。正直に言えば、今だって分かってない」
「別に、いいんですけどね。結果的に、誰かのためになってるなら、どんな形だって愛情ですよ」
「大人だな」
「いえ、まだまだです。私も人のためになる愛情を注げるようになりたいとはおもってるんですけどね」
りんくは少し苦笑した。
「なやみがあれば聞くよ」
そしていい風だなとつぶやいた。
「悩みですか。……好きな人といつも一緒にいられない、とか?」
りんくは少し笑った。
「ええ、いい風ですね。相変わらず海はきれいですし」
「それぐらいなら……綺麗だな。こうしていると、戦場が嘘のようだ」
「それぐらいなら……なんですか?」
りんくはまっすぐに見つめた。その言葉の先がきになった。
青森は少し笑ってなんでもないと言った。
ゆっくりと砂浜を歩きだした。
「もう。期待させないでくださいよ…」
くすくすと笑いながら青森の後を追いかける。
二人分の足跡が砂浜に残った。
戯れるように足跡は続いた。

「泳げばよかったな」
「今日のお天気なら、気持ちよさそうですもんね……。足だけ、入ってみようかな……」
「靴は、俺が持つ」
波打ち際で歩くりんくを見守って並行で歩く青森。
りんくを守るようだった。
「ありがとうございます。うわー、冷たくて気持ちいいですよ~」
「転ぶなよ」
りんくは上機嫌だった。
それを見て青森も上機嫌になった。
「転びませんよ~…たぶん。」
青森は子供でも見る目で優しく見守っている。
「あ。今笑ったでしょう! 失礼ですね~もう。」
「ははは。いや、すまん」
「そういうこと言うと、水かけちゃいますよ? 海の水だから、しょっぱいんですからね!」
りんくは無邪気な笑顔だった。
「服が濡れるぞ」
「はっ…! それは困りますね……じゃあやめます。青森さんには、あとでカキ氷を奢ってもらうことにします」
「なんなりと」
青森は、ふと青い空をみた。
つられて空を見るりんく。
「ふふ。……? なにか、ありましたか?」
「そろそろ夏も終わりだな」
「ですねぇ…空が、高くなってきました」

青森から、さよならという手紙が来たのは、この日からしばらくしてのことだった。


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最終更新:2007年09月26日 14:58