西條華音@満天星国さんからのご依頼品


どうしたいのかと問われて、彼女はこう言った。
「私は二人の友達でいたいですけど、二人に死なれるのは嫌です」
『ああ、もう!この人はー』
問うた二人の反応は同じだった。

70218002 満天星国某所の喫茶店にて



12月某日。都内某所、というか新大久保のとある一角。
そこにハーラーサーセーと無駄に威勢のよいタイ人が接客をしている喫茶店があった。
実際にあるかどうかは筆者は知らないが、あるとしていただきたい。
その店の一角に、やたらと日本ナイズされた少女たちがいた。
方や巫女姿、方や胴着姿。
少し離れた席でインド人がOH!ジャパニーズMOE!とか言ってるが、気づいていないようだ。
なぜ気づかないかと言えば、そんなこと知ったこっちゃないというくらい白熱しているからである。
何がと言えば、会議というのが正しいのだろうか。
今は胴着姿の少女のターンのようで、振る舞いは静かに、しかししっかりとした感情をもって熱弁を振るっている。
どうやら彼女たちの友人に関することのようだ。
途中からではあるが、聞いてみることにしよう。

「だから、華音さんはいつもいつも人を立てすぎだと思うんです」
「いっつもいつっも私や小夜さんのことばかりで、自分のことは何もしないで」
「前に会った時ようやく好きな人は聞き出せたけど、それでようやくですし」
「物もたくさん貰い通しだし、なにか一つくらい返さなくてはいけないと思うんです」
「前はそんなことも思わなかったのに、何かここ最近思うようになって」
「そう9月に華音さんに会う前に倒れてからそんなことを思うようになってきたんですよね」
「何か、重大なことがあって、それで華音さんに世話になった気がするんです」
「ここで恩返しができなければ、友達でいる資格がない!というくらいのそんな」
「だから、一つくらい恩返しがしなくてはと、そう思うんです」

怒涛の連続攻撃に巫女姿の少女は一言も返せずたじろ……いでいるわけではないようだ。
どちらかと言えば驚きを隠せないような、やっぱりかというような、仲間がいたというような表情である。
というかその3つが彼女の感じたすべてであった。
やがて、ぽつりと確認するように、彼女は口を開いた。
「未央さんも……ですか?」
「というと、小夜さんも?」
胴着姿の少女、壬生屋未央と巫女姿の少女の、結城小夜は顔を見合わせた。
次いで、無言で頷きあう。
その瞬間、今まで其処にあった友情はその進度を深め、二人の間に固い結束を産んだ。
二人の瞳に火が灯る。
その火は二つ重なることで炎となり、熱く熱く燃え上がった。
これが、『西條華音さんをびっくりさせる会』誕生の瞬間であった。


~一方その頃、満天星国~

「っくしゅん!」
「あれ、西條さん風邪?」
「いえ、そういうわけでは……誰かに噂されてるのかなぁ」
「案外お友達の二人が話してたりして」
「まっさかー(笑)」
冗談で言った藩王都築の一言が事実であることを彼女が知るのは、数日後の話である。


所戻って新大久保。
そもそも、この二人が何故一緒にいるかというと、次の旅行の打ち合わせである。
旅行とは言ったが、キノウツン旅行社から通知がきてるので旅行と言っているだけである。
言ってしまえば、12日に予定されている西條と遊ぶ機会をどう過ごすかという話に尽きる。
それで、こうだといいですねああだといいですねと話しているうちに冒頭の様に白熱し、そして今に至る。
二人の会議は次の段階、具体策の捻出に移っていた。
しかし、彼女たちは気づいていなかった。それが最も困難な闘いであることに……!

<CASE1 プレゼント>
「そうだ!もうすぐくりすますですし、プレゼントなんてどうでしょう?」
去年西條にもらったプレゼントを思い出して小夜が言う。
ただクリスマスプレゼントって言うだけなのにおっかなびっくりである。
いまいちクリスマスというものを理解しきってはいない様子がバレバレだ。
まぁ、その分思い出したのだから褒めて上げてほしい。
壬生屋もそこは分かっているようで、微笑で同意であることを示す。
「それはいいアイディアですね!」
その微笑を見て小夜も不安が無くなったようで、一気に明るくなる。
「そうですよね!で、なにを贈りましょうか」

時が止まった。

二人とも石化する当たり微笑ましいことは微笑ましいのだが……
なんとなく嫌な感じを察したマスターが二人の方を見てそう思った。
マスターには悪いが、その予感は大当たりだったりする。

「…………お、御守りなんかどうでしょう!」
小夜の一言で時は動き出した。
石化がとけて、あーと同意しかけて、はたと何かに気付く壬生屋。
「どちらかと言えば、それは新年に渡したほうがいいような……」
「あ」
再び止まる小夜。
まぁ、クリスマスを理解仕切れていないのだから仕方ない。
それを壬生屋も察したようで、何より自分もそんな有り様だからすぐに励ましにかかった。
「き、気を落とさずに色々考えて見ましょう!」
「え、ええ!」
壬生屋に励まされ、小夜ももう一度考える気力が沸いたらしい。
うーんと唸って、記憶の中から情報を引き出そうとする努力を始めた。
「それじゃあ……」
それが、無駄な努力に終わることを、彼女たちはまだ知らない。

「未央さんの持っているその竹刀なんかどうでしょうか?」
「カーボン竹刀、ですか?」
「ええ。なにかと物騒ですし備えはあってもいいかと思うんです」
「いいかもしれませんけど、これ意外と高くて私の給料ではちょっと……」
「わ、私のあるばいと代があります!おいくらなんですか?」
「13万円です」
「(お札を数える音)…………べ、別のものにしましょうか」

「そういえば、小夜さんのお宅にお人形があったって聞きましたけど、あれはどうでしょう?」
「あの動く人形ですか?」
「ええ、お下がりにはなりますけど、楽しくはなるかなと」
「それが……この前脱走して、今所長が探している所で……」
「あー……つ、次を考えましょう!」

「あ!そうだ、未央さんが以前私に見せてくれた書物なんかどうでしょう?」
「書物……?どれのことですか?」
「えっと、あの表紙がきらびやかな、薄い書物です。あれなら綺麗だし重くも無いからよいかと……」
「(激しくむせる音)」
「だ、大丈夫ですか?!」
「え、ええ……そ、その案は無しでお願いします……」
「え?でも……」
「お願いします!」
「は、はい」

以上、面白いところを抜粋してお送りしました。
他にもあることはあったが、カオス過ぎるので割愛。
ともかくもこのような不毛な話し合いが延々30分ほど続いいた。
本人たちは知る由も無いが、西條を知る人から見れば彼女が喜ぶものばかりではある。
#あ、一番下は例外であることは本人の名誉のために言っておく。
であるが、いかんせん悩んでいるのがあの二人である。

「…………」
「…………ほ、他のにしましょうか」
「で、ですね」

結局これでいいという答えに行き着くことはなかった。

<CASE2 記念撮影>
そんなわけで、プレゼントは以外のものが考えられ、壬生屋が次の発案者となった。
「あ、写真を一緒に撮るのはどうでしょう」
「写真……ですか」
「ええ、前に春の園というところに行った時に二人で撮ったんですよ」
そう言いながら胴着の袖の下から写真を取り出す壬生屋。
見事な桜の下で振り袖を着た二人がそこには写っていた。
それを見た小夜が思わずうわぁと声を上げた。
「お二人とも、綺麗……」
「わ、私はそんなことないですよ?綺麗なのは桜の花びらと華音さんであって……」
「ふふ、そんなことないですよ。未央さんもお綺麗ですよ?」
そう言われてさらに慌てる壬生屋を見て、小夜はにこやかに微笑んだ。
いつも西條が自分達を見て微笑んでいたのが分かるような気がした。
本当に綺麗と思いながら、小夜はもう一度写真を見た。
二人とも振り袖が良く似合っている。桜との相性もバッチリだ。
芸術のような、そんな一枚であると小夜は感じた。

「でも、こんなに綺麗なお二人の間に私が入っていいのでしょうか」

小夜がポツリとそんなことを言った。
壬生屋が何を言ううんだか、といった表情で手をパタパタと振る。
それがただの始まりとも知らずに……

「一番お綺麗なのは小夜さんじゃないですか!大丈夫ですよ」
「でも、私……写真に写るのがどうしても苦手で」
「ああ、そういう方もいらっしゃいますけど、友達と一緒なら大丈夫ですよ」
「ニーギさんと取ったときも、上手く笑えなかったですし」
「あー……ほら!回数!回数の問題ですよ!小夜さんまだ写真を撮った回数が少ないんですよ」
「でも、でも、もう何度も撮っていたりするのに、いまだに苦手で」
「それでも、御綺麗なのは変わらないですよ?」
「写真を撮るたびにふみこさんに笑われてますし」
「さ、小夜さん?」
「こ……玖珂さんも苦笑いしてて……」
「さ、小夜さーん?」

呼びかけつつも、壬生屋はいやな予感がしていた。
小夜の姿が青に似ていたのである。
舞にやかましいから近づくなとか言われた時の青がまさにこんな感じであった。
その時の青はもうこれでもかというくらい落ち込んでいて、ののみですら手に負えなかったほどであった。
ののみが見限ったという説もあるが、まぁ余談である。
ともかく、地雷をいつの間にか踏んだことは理解できた。
今できることはこれ以上被害が大きくならないうちに話題を切り替えることだけである。

「あー……でも、一緒に写ることが記念ですから!」
「こんな私なんかが一緒の写真に写ったら、記念にもならないんです、きっと」

大・失・敗。

普段しないフォローだからか、誘導方向を間違えて地雷原に突入してしまった。
ちゅどーんと言う音が聞こえたのは幻聴ではないはずだ。
その瞬間、壬生屋は自分のミスを痛感するとともに、長い戦いが始まったことに気づいた。
「どうせ……どうせわたしなんて」
「ダメー!そっちにいってはダメー!」

その後、ダメ青モードに入った小夜を話ができる状態に戻すのに1時間半かかったという。


<CASE3 憧れのあの人と>
ということで、会議開始より時間は2時間ほど過ぎたが、まだ何も決まってはいない。。
ちなみにテーブルの上にあるのはティーカップが二つだけ。中身が既に空なのは言うまでもない。
店主がちょっと嫌な顔をしているのも気づかないくらい二人が集中している証左であったが、同時に何も進んでいない証左でもあった。
その頃、ようやく小夜がこちらの世界に戻ってきた。
普段し慣れないフォローの嵐にぐったりとなりながらも、その成果に壬生屋は満足していた。
小夜はといえばその様子を見てかなり小さくなってしまっている。
「すみません、未央さん……私なんかのせいでこんなに時間を取らせてしまって」
「それはいいっこなしってさっき言ったでしょう?だからもう禁止です。ね?」
「……はい!」
だが、壬生屋の言葉で小夜も元気を出した。
それを見て笑顔になる壬生屋。
ここから仕切り直しである。

「……でも、まだ決まっていないのは問題ですよね……」
「ええ……」
仕切り直したことでようやく自分たちでそこに気付いた。
でもマスターの痛い視線には気付かない。
ついでに言えばもう水だけで粘るのは止めて欲しいなぁという囁きは、二人の耳には届かない。
頑張れマスター。そういう客もいるさ。

そういえばと、小夜がもう一つの事に気付いた。
実は最初から気になってはいてなかなか切り出せずにいたことだったが、このタイミングなら良いだろう
「華音さんの好きな人って誰なんですか?」

その瞬間ピシッと音を立てて壬生屋が石化した。

飲んでいた水を噴出しそうになる小夜。慌てて壬生屋の目の前で手をパタパタと振る。
「み、未央さん?」
「……はっ!だ、大丈夫です。あー、言ってませんせんでしたね」
そう口では言ったものの、壬生屋はそれを巧みに、そこだけ巧みに避けていただけである。
言いたくない、言いたくはないが……華音さんとの約束もある。
……言うしかないのかぁ。
「……ええと、同じ道場の、後輩みたいなものですね」
「武道をたしなまれているんですね。人となりはどんな方なんでしょう?」

うしゃしゃーうしゃしゃーうしゃうしゃでー

懐かしいメロディに合わせて佐久間が歌っている様が思い出された。
ああ、これも言わなければならないのか。
言う前から士気がガンガン下がる他人の紹介と言うのもなかなか無い。
その貴重すぎる役目を軽く(佐久間に対して)怨みつつ、壬生屋はぽつりぽつりとその説明を始めた。

~数分後~

そこには、揃ってげんなりした二人の姿があったそうな。
小夜は聞いているうちにうはー……となってげんなりした。
壬生屋は言っていて思い出してげんなりした。
ただの説明だけでダブルパンチを与える男、佐久間。恐るべし。


~一方その頃、小笠原~

「……ぃっくしゅい!」
「ヤダ!こっち向けてクシャミしないでよバカザル」
「うしゃしゃ、そんなにこの俺が美少女に噂されてるのが気にいらんのか」
「そんなわけないでしょバカザル」
「なにおう!このセリエAめ!」
「やるか?バカザル!」
「うきー!」
その後大乱闘が始まるのに10秒もかからなかったという。
なお、それが本当であったことを知って調子に乗り、佐久間が吹っ飛ばされるのは一週間後の話。


場所は再び新大久保に戻る。
げんなりしたままの二人ではあるが、まだ入りの印象が良かったせいか小夜の方が早く回復した。
まだげんなりしている壬生屋を確認すると、止まりかけていた頭をフルに動かして考え出した。
考えて、考えて、壬生屋が水を飲めるくらいまで回復するくらい考えた。
一生に何度も無いその思考の末に、彼女はようやく結論にたどり着いた。
もう、これしかないだろうという、たった一つの解。

「……ええと、じゃあ、その人を連れて行きましょう!」

途端にむせる壬生屋。
水を飲んでいるところだったので噴出さなかっただけましである。
生きていた中で一番咳き込んでるんじゃないかと思うほどむせた後、ようやく落ち着いた。
「ど、どこがじゃあなんですか?」
「いえ、それは……私もその人は大変な人だとは思いますけど」
「けど?」
「華音さんの驚く顔が一番見れると思うんです」

その言葉に壬生屋ははっとした。
盲点だった。
今まで自分は応援する応援するといっておいて、なんら行動を起こしていなかった。
それは、西條自身がいずれ会いに行くと言っているのを聞いていたからと言うのもある。
写真を見せて伝言を伝えたという達成感もある。
しかし、それで満足していいのだろうか?
否、断じて否である。
さぷらいずをいつも用意してくれている西條に報いるためにも、ここはこれくらいの衝撃があるものをやるべきなのだ。
……まぁ、その本人があれなのだが。

「……まぁ、初対面の、それも華音さんのような人を前にしたら、佐久間君もおとなしくしているでしょうし」
というかしていなかったら困るが、その辺はきつーく釘を刺せばよい。
嫌われますよという魔法の言葉があれば大丈夫だろう。
「佐久間君と会った華音さんがあわてる姿も見たいですし」
小夜が少しいたずらっぽく笑いながら言う。
「佐久間君の真面目な姿も、それを見る華音さんも面白そうですし」
同じ様に笑って壬生屋が付け足す。
自分も楽しむことになりそうだが、それくらいは役得でしょう
壬生屋はそう結論付けた。
「それでは……」
「ええ、佐久間君を、華音さんに会わせましょう!」
「はい!」
笑顔の二人は頷いた。
ようやく華音さんに一つ報いることができる。
その瞬間が見えたことが、二人にはただ嬉しかった。。




「でも、どうやって連れて行きましょうか」
「あ……」
佐久間を誘う文言を考えるたりするのにさらに1時間かかったのは、まぁ別の話である。


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最終更新:2009年01月01日 20:31