VZA@キノウツン藩国さんからのご依頼品


 食肉少女の名をシリカと言い、その名前には魔法がかけられていた。

「シリカゲルって名前はどうだろう」
「シリカゲルwww」
「――ってあの饅頭の箱とかについてる乾燥剤だろ?」
「ああ、“食べられません”って書いてる奴な」
「なるほど...ゲルはともかく、シリカか...」


 シリカの墓の前で、神妙に手を合わせているVZA。
 手桶とまごころのこもった花を一輪。
 身にこそ着けていないが、腰に黒いスカーフを下げていた。

 また、墓場で弾き語りの練習をしていた着流し姿のはるは、2時間前からそれに気づいていたが結局なにも言わずにギターをいじり続けていた。

 シリカと言う名前には魔法が込められていた。
 今度こそ食べられないように、そう言う些細な願いである。
 結局士季号に根源力吸われて死ぬわけで、魔法なんてのは所詮その程度のものでしかなかった。

「景気のいい歌をたのむよ」
「1マイル」

 喪服のVZAは、苦笑してポケットを探ったが、手持ちがないのか黙り込んだ。
 しばらくして手桶に挿した花を一輪よこした。

「腹の足しにもならないな」

 穏やかでしんみりする曲調だが、歌詞がひどかった。

 昼ドラのような恋がしたい。
 お願いあなたわたしを生かして。
 教えて誰を殺せば抱いてくれる。
 あなたの傍でなら息ができる。
 昼ドラのような恋がしたい
 目の前の全てを絶望に染めるような、
 幸せなんていらない。あなたと、
 5秒だけでも、生きていたい。

 VZAと真央が裸にテーブルクロス一枚をまとった少女を連れ帰ったときから、その予感はあった。
 どうせ、この少女は長生きしない。

 一度蘇ったものには――

「一度蘇ったものには死に癖が付く」
 どういうことと訪ね返すVZAの膝の上では、シリカと名づけられたばかりの少女がチキンを骨や銀紙ごと貪り食べていた。
 なにかを予感させる光景だったが、VZAは食欲旺盛だなあとのんびりしたことを言っていた。
「脱臼みたいなもんだよ。どうせまたすぐ死んでしまうのさ。
 たまさか蘇ったとしても、そいつの運命までがチャラになったわけじゃないからな」
「...よくわかんないよ」
「ろくな死に方はしないってことさ」

 だから死者の蘇生というものは本来なんの意味もない。
 僅かに死ぬまでの時間を、一呼吸分延長させる程度でしかない。

「なら、その一呼吸分だけでも、いいよ。」
 VZAは朗らかに言って、シリカの髪を撫でた。
「今度こそ生きることができたら。ろくな生き方じゃなかったとしても、残された時間で一生懸命に生きることが出来たら。 
 たとえ、ろくでもない人生だったとしても、生き返ってよかったって思えるはずだよ」

 この親にして――ってところだな。
 はるは独りごちて、最後のフレーズを弾き終えた。

「いい歌だね」苦笑するVZA。
「そうだな」
「シリカは、幸せになれたのかな」
 はるは髭をなぞって謦咳した。
「――百年の齢いは目出度も難有い。然しちと退屈じゃ。楽も多かろうが憂も長かろう。水臭い麦酒を日毎に浴びるより、舌を焼く酒精を半滴味わう方が手間がかからぬ。百年を十で割り、十年を百で割って、剰(あま)すところの半時に百年の苦楽を乗じたらやはり百年の生を享けたと同じ事じゃ。」
「シェイクスピア?」
「いや、夏目漱石だよ。他人から見れば点のようでさえある時間だったとしても、そこに百年分の酸いも甘いも凝縮できるなら――」
 たった数日、数ヶ月だろうと、誰かを愛し、愛され、略奪の闘争劇に興じ、そして

――死んだ。

 シリカは、彼女にとってロスタイムのような時の中で、VZAの想像を遙かに超えた濃密な人生を歩んだ。
 彼女なりに。欲望と本能の従うままに。

 だからVZAは彼女を不憫には思わなかったのだ。
 墓に語りかけるVZAの表情は誇らしげだった。

 それを幸せと言わずに、なんというのだろうか、と。


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引渡し日:2009/03/08


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最終更新:2009年01月01日 20:26