むつき・萩野・ドラケン@レンジャー連邦さんからのご依頼品


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 青く澄み切った空を、赤い紅葉が火の粉のように舞う。

「日本的だな」

 紅葉の舞の只中で立つむつきを眺めながらカールは呟いた。
 まるでフレアーだという考えが先に過ぎった自分が恨めしい。今は戦闘機のこと、それも空戦のことを考えているような時間ではないではないか。

「うん、秋の紅葉の園なんだねー」

 むつきは言いながらそそっとカールへ近づき、何も言わずにその傍らにくっついた。彼女の上着と、自分の羽織るジャンパー越しに女性特有の柔らかな肌の暖かさが感じられる。
 この分ならばジャンパーを羽織ってくる必要もなかったかもしれないな、とカールは彼女に笑いかけた。

「山のようだな。昇るか?」
「のぼるー!」

 むつきは元気に返事をすると、一足先に登りはじめた。まるで子供のように足取りは弾んでいる。
 カールはその様子に微笑を浮かべてから後に続いた。
 2人の不規則な石を蹴る快音に紛れ、柔らかい川のせせらぎが遠くに聴こえてきた。

「見に行く?」

 ふとその音に足を止めて耳を傾けていると、その様子を見ていたむつきが上のほうの岩場から問いかけてくる。

「いいとも。靴は大丈夫か?」
「あー、そういえば!」

 カールは苦笑しながら指摘する。言われてむつきは自分の足元に視線を落とした。ヒールではないが、登山にはお世辞にも適さない靴は履きはじめも明らかに汚れが目立っていた。これで登山の続行はもちろんながら、水辺に行くのは余りお勧めできるものではないだろう。

「でも川みたいなあ。だってこの川、龍星川っていうんだよ」

 カールに倣ってせせらぎに耳を澄ませながらむつきは言うと、わざわざカールの隣まで降りてきて彼を上目遣いに見上げた。
 子供のようだな。カールは笑うと、軽く膝を折ってからむつきの膝裏へ自分の二の腕を回し、勢いよく持ち上げた。肩と二の腕を椅子に見立ててむつきを座らせる。

「わ、わ、ありがとうー」

 むつきが片手に脱いだ靴を持ちながら、空いた手を反対側の方に回して微笑んだ。答えるように、カールもまた笑顔で彼女を見上げる。
 肩に乗せられ、身長が倍ほどまで伸びたむつきの視界で紅葉が、紅蓮の炎のようになって山を包み込んでいた。
 暴力的な風景なのに、何故か美しく見える。秋の神秘とでも称するべきだろうか。むつきは子供のようにカールの肩の上で歓声をあげる。

「……カールとこうやってのんびりできるの嬉しいな」

 ふと、むつきがしみじみと呟いた。
 大きな岩がごろごろした、お世辞にも安定しているとは言えない道の上を身長に進みながらカールはその言葉を受け止める。

「次の戦争まではずっとこうさ」

 そう、次の戦争までの間だけというのはわかっている。自分は所帯を持つ男であり、軍人だ。
 カールは微笑を崩さず、前を見たまま答えた。見上げることは出来なかったが、恐らくむつきも似たような笑顔を浮かべていたことだろう。
 無意識にそれを見ようと身体が動いたのか、カールが一瞬足場の上で体勢を崩す。

「わわわ、ちょっと肩の上怖い!」

 肩の上という不安定な場所に座っているむつきが、反対側の肩に添えていた手に力を入れる。ジャンパーに小さな皺が出来た。
 まったく、ゆっくりさせてくれないお姫様だ。カールは苦笑しながら、やや前屈みになってむつきを前のめりに落とすと、胸の前で彼女を受け止める。不安定な足場の上で彼は肩椅子からお姫様抱っこに切り替えると、笑顔で胸の中の彼女を見下ろしながら何事もなかったようにゆっくりと歩き出した。

「ありがと」

 顔が近い。むつきは蚊が鳴くような声で呟くと、真っ赤になって顔を伏せた。
 しばらくそのまま秋風に熱を冷ます。
 こういうのも情緒があっていいが、久方ぶりに2人でいるのだからもう少し会話を楽しみたいというのがカールの本音でもある。あまり口が上手いほうではないので心配ではあるが。
 そんなことを思っていると、思い出したように顔を上げてむつきは口を開いた。

「えとね、今までお仕事お疲れ様」ゆっくりとむつきが続ける。「これ、言えなくて、遅れた。帰って来た時言いたかったんだ」

 ほんとは、と最後に付け加えて、何故かむつきは小さくしゅんとなった。

「言える空気ではなかったからな」一瞬苦笑を浮かべるカールだったが、すぐにまた笑顔を見せる。「ありがとう。帰ってこれてよかった」
「まあね。でも今言えた、改めてお帰りなさい」

 2人の笑顔が、互いの呼吸が肌で感じられるほどの至近距離で交差し、一瞬の静寂の後に唇同士で繋がった。
 抱きながら歩くカールの足が岩の上で止まる。駆け抜けていった旋風が、紅葉をライスシャワーのように舞い上がらせた。

「顔が熱いと思う」

 熱でもあるんじゃないか? とカールは顔を離して問いかける。目に見えてわかるほどに視線が泳いでいた。

「こんな場所でごめん。……でも、したかったんだ」
「いや……。嬉しい」

 2人揃って照れながら微笑む。見えずとも、遠くでベンチに座った老人たちが微笑んでいるのがわかった。

「河渡ったら、どこか座ろう、景色みたいな」
「つかまっていろよ」

 カールは了解の意味をこめてむつきの額へ一度だけキスをすると、膝を折って大きく跳躍した。
 秋の肌寒い風が頬を打つ。秋空の、刃物のような冷たい風が露出された頬を鞭のように低く唸りながら打った。
 水で丸く角を落とされた岩の上へ見事着地すると、むつきが子供のように楽しそうな声を上げ、しがみ付く力を控えめに強めた。カールは胸の中から自分を見上げるむつきに、柔らかな笑顔を向けて応える。
 やや軽めの、心地よい重みを身体全体で感じられた。

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作品への一言コメント

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  • コメントが遅くなりすみません。  糖分!  =□○_(致死量だったらしい)    秋の園の風景が思わず浮かぶ様な、そんなSSをありがとうございます! -- むつき・萩野・ドラケン@レンジャー連邦 (2008-12-14 20:06:32)
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ご発注元:むつき・萩野・ドラケン@レンジャー連邦様
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最終更新:2008年12月14日 20:06