黒霧@星鋼京様からのご依頼品


 終わる物語


 お話というものがある。
 嬉しいお話。悲しいお話。楽しいお話。
 どのお話も一つとして同じというものはなく、それぞれ違う輝きを放っている。
 何故お話はこうして光り輝いているのか。
 それは、お話は終わるからである。
 終わらないお話は悲しいお話。お話は、終わるからこそ美しい。
 そして、今日もまた物語を終わらせるべく歩く人がいた。


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 ガタンガタン

 馬車は不快にならない程度に音を立てながら走っていた。
 黒霧は膝の上にホワイトスノーを乗せ、外の景色を眺めていた。ホワイトスノーは大人しく黒霧の膝に座っていた。
 夏の園には何度か来た事があるが、今日も日差しは強く、馬車が走って吹く窓からの風が心地よく感じる。
 向かいにはラッシーが座っていた。黒霧とラッシーは流れるように変わる窓の景色を眺めていた。
「夏の園に住んでいるのかい?」
 ラッシーは窓から視線を外し、黒霧に視線を移してそう言った。
「いいえ。夏の園には月に一度ほど……来れるかどうかといったところでして」
 黒霧は苦笑しながらホワイトスノーを撫でた。ホワイトスノーはゴロゴロ言いながら気持ち良さそうに目を細めている。
「なかなか、帝国の中でも豊かなほうだと思うよ」
 ラッシーがのんびりとしながら言う。
「豊かか……」
 黒霧は少し前の話を思い出した。
 少し前、ホワイトスノーに導かれるように訪れた漁村の事を。
 黒霧は自然とその話を口に出した。
 それを黙って聞くラッシー。ホワイトスノーは相変わらず黒霧の膝の上でおとなしく座っている。
「……それでですね、そのときアリエスの写真を見たんですよ」
 そこまで話が進んで、ラッシーはきょとんとした顔をした。
「漁村の子だったのかい?」
 聞いた話ではアリエスは別荘で出会ったと聞いたけれど。
 ラッシーは少し考えた後、合点した。
「あ、そうか。それはまた、美しい話だね」
 今度は黒霧がきょとんとする番であった。
「ああいえ。ただ、ですねぇ。この話には続きがありまして。写真を見た家に住んでいるご老人の話では、ずいぶん前に死んだ、と」
「だろうね」
 ラッシーが頷いたのに黒霧は「???」と顔を乗り出した。膝の上のホワイトスノーが黒霧の方を見上げている。
「君が見たのは、その娘さんの娘さんだよ。きっと」
「……ああ」
 黒霧はぽろりと相槌を打った。
「それはちょっと、考えつかなかった……」
 お前それでも物書きの端くれかと内心で激しくへこみながらも、ラッシーの推理は続く。
 そんな黒霧を慰めるかのように、ホワイトスノーはしきりに黒霧にすりついた。
「それなら年齢もあうだろう? 貴族に召しとられたというと聞こえはわるいけど、例がないわけじゃない。きっと、あえて不利な結婚をしたんだろうね。お話としてはいい話だよ」
 ラッシーの皮肉めいた口調を聞きながら、黒霧は激しく沈んでいた。
「なるほど…………。…………あ、年齢のこと全然考えてなかった」
 ふと膝の上のホワイトスノーを見下ろすと、ホワイトスノーはまっすぐ黒霧を見上げ、身体をしきりに黒霧にすりつき続けていた。
 黒霧は少し自嘲気味に笑った後、素直にホワイトスノーに「ありがとう」と言って手を伸ばした。ホワイトスノーは黙って黒霧に撫でられていた。
 その様子を見ていたラッシーは少しだけ笑った後、また口を開いた。
「まあ、だとしたら君の恋は実らないだろうね」
「ふむ」
 黒霧はホワイトスノーの頭に手を置いたまま唸った。
「まあそれくらいは、面白いかどうかで考えましょう。僕は小説を書くのが下手です」
 そして、黒霧は次の言葉を少し考えた。
 ラッシーはそれを静かに見守っている。
 ホワイトスノーがまっすぐ黒霧を見上げた時には、黒霧の次の言葉は決まっていた。
「でもまあ、書くまいとしたことはありません。今更一つ二つ無理そうな問題に挑むのは、まあ、悪い気分じゃありません」
 そう。
 ラッシーは窓の外を見た。
 馬車は目的の地……ショッピングモールへと着いたらしい。
「複合施設でね。資金の出所があやしい」
 そう紹介するショッピングモールは、相当大きく見えた。
「……なんと。どんな店があるかはご存知ですか?」
「宝石に衣料、生活雑貨。なんでもあるようだね。子韻星という人物がオーナーだ」
 どこかで聞いた事あるような。
 そう思ったがとりあえず黒霧は黙っておいた。
「ま、いずれはしっぽをつかんでやるさ。おそらくはスパイだ」
 手伝いますから。
 その声に、ラッシーは頷いた。


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 お話というものがある。
 山もあれば谷もある。
 しかし、それとて美しいお話である。
 彼の紡ごうとしているお話は、果たしてどんな色のお話となるのか。
 それはまだ分からない。


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 びーえるってかくのむずかしいなあとおもいました。かけるひとはすごいなあとおもいました。


作品への一言コメント

感想などをお寄せ下さい。(名前の入力は無しでも可能です)

  • それなら無理にそうしなくとも(笑)。SSありがとうございましたー。 -- 黒霧@星鋼京 (2008-11-25 00:30:56)
  • 書かせていただきありがとうございました。ラッシーと仲良くしつつアリエスと再会できる事を楽しみに待っています。 -- 多岐川佑華@FEG (2008-11-25 20:05:19)
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最終更新:2008年11月25日 20:05