八守時緒@鍋の国様からのご依頼品
[タイトル:それは恋の病、愛の想]
この世界に乙女達がかかる病気がある。
#いや、乙女だけじゃないが。
それは乙女達の思考能力を低下させ、仕事の手を止めさせてしまうことがある。
著しく低下してしまう活動能力は、ある意味この世界の活動低下にも拍車をかけてしまう。
それくらい重大で重症な病。
その病の名を『逢いたい病』と言う。
愛するパートナーに逢いたくて逢いたくて、でも逢えなくて。
それが続くと患う、それは恋の病。
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八守時緒は、そんな逢いたい病を患い、もう逢いたくて逢いたくて。
そして、彼の体温を感じれるくらい、傍にいたい。寄り添いたい。
今、彼女の想いは、ただそれだけだった。
僅かに震える指。静かにインターホンのボタンを押すと、すぐ時緒が逢いたかった彼‐八守創一朗がドアを開けて出てきた。
‐私はきっと大丈夫‐
そう思えたのは最初の一ヶ月だけだった。
そして逢いたかった創一朗の顔を見た瞬間。
時緒は創一朗に抱き着き、思うさま抱きしめていた。
夢に見そうなほど、恋い焦がれた大好きな人の体温。
それは温かくて心地良い、彼女に安心をもたらす温もり。
抱き着かれた創一朗は、というと時緒の行動に驚きはしたものの、彼女が抱き着いてきたことは素直に嬉しかった。
正直に言えば創一朗もまた、逢いたい病だったのだ。
「どうした?」
「会いたかったから」
時緒の素直な告白に柔らかく微笑んだ創一朗の顔を、抱き着きその胸に顔を埋めている時緒の目には映らない。
いや、例え見れたとしても、恥ずかしくて目を逸らしてしまっただろう。
玄関口で抱き合っていることに気付いた創一朗は、自然に時緒から離れると彼女を部屋へと招き入れた。
時緒が部屋に入ると「にゃぁー」と鳴きながら、時緒に近寄る美しい猫がいた。
この美描、名前をくーにゃんと言う。品種はアメリカンショートヘアー。顔立ちも銀の毛並みも美しい、創一朗の同居人だ。
猫に触れるのに不慣れな時緒は、近寄ってきたくーにゃんに戸惑うも、あまりのかわいらしさに少し気張っていた心を溶かされる。
しゃがんでくーにゃんの機嫌を伺ってみる。
「くーにゃんも久しぶり」
「なぁ」
目を細め、尻尾を振るくーにゃん。
機嫌の良さを振り撒くくーにゃんのかわいらしさに、恐々手を伸ばし、触れてみようと試みる時緒。
顎の下を撫でられ、くーにゃんはさらに目を細めた。
猫の扱いが不慣れな時緒のことを気遣ってか、座り込んでいる時緒の膝の上へとくーにゃんが上がってくる。
はわぁー、となって喜ぶ時緒。
そんな時緒とくーにゃんに癒される創一朗の心。
寂しかった心に、温かいものが染みて広がる。
くーにゃんの後押し(?)もあり、それまで向けていた関心を創一朗へ表す時緒。
この時、時緒は逢えた嬉しさと、いきなり抱き着いてしまった自分の行動が恥ずかしくて、その恥ずかしさをくーにゃんではぐらかしていたのだ。
「創一朗は元気だった?」
「元気だったが、逢いたかった」
「私も。1ヶ月過ぎくらいの時、会いたくてほんとうに死にそうだった」
小首を傾げ、愛らしい仕種で創一朗に聞いたその返事はストレートで。
そして彼女の素直さも引き出させる。
素直に言ってしまい、照れてくーにゃんを熱心に撫でる時緒を創一朗は背中から抱きしめた。
突然のことに、ピクリ、と僅かに身じろぎする時緒。
そんな時緒を優しく抱きしめ、そして囁いた。
「少しだけ、こうさせてくれ」
「うん」
二人に流れる幸せな時間。
離れるのが惜しい。
だから、コーヒーを入れようと立ち上がろうとした創一朗を、引き止めてしまう時緒。
「危ないところじゃない」
いきなり消えたりしないから、と言わんばかりに時緒を安心させようとする創一朗の言葉に、寂しげな瞳を見せる時緒は言った。
「あの…もっとぎゅーして欲しかっただけ」
創一朗の目を見て言ったつもりだったが、気付けばちょっとずつ視線が下がっていた。
言ってみて、すごく恥ずかしがった時緒は、すぐに戻ってきた創一朗に抱き締められていた。
力を込める創一朗。
「今日はいいのか?」
「いいっていうか、どうしたら一番くっつけれるのか考えてしまったくらいには…ううー」
大好きと言葉にさす前に、時緒も力を込めて創一朗に抱き締め返していた。
そんな二人をふぁー、と眺めるくーにゃん。
いつの間にか、時緒の膝から降りていたくーにゃんは空気の穏やかさに安心すると、居心地のいい場所を見つけ、丸まってお昼寝を始めたのだった。
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気付くと時緒はうとうとと居眠りをしていた。
横には小さくて暖かいぬくもりを感じる。
もそり、と寝返りを打とうとして、何やら壁を感じた時緒は「ふにゃ?」と目を覚ました。
「創…一朗…?」
「なんだ、起きたのか。もう少し寝ていていいんだぞ?」
「ほえ?」
寝ぼけ眼をこすり、ゆっくり身体を起こそうとする時緒。
気付くと、時緒はソファーで横になり寝てしまっていたようだ。
そんな時緒がソファーから落ちないように、そのソファーに背をもたれ座っていた創一朗は新聞を読んでいるようだった。
小さな温もりの正体はくーにゃん。
時緒の足元に丸まり、寄り添うように寝ていた。まだ寝息が聞こえる。
その状況に気付いた時緒は、思わずガバっと起き上がる。
「ご、ご、ごめん!創一朗@@」
ぱさり、と床に落ちる毛布。
風邪を引かないように掛けられたものだった。
ソファーへ座り直し、それを拾い上げた時緒は言った。
「これ、創一朗が掛けてくれたの?」
「ああ、風邪を引かせたくなくてな」
「あ、ありがとう」
嬉しさに素直にお礼を言う時緒は床に胡坐をかいて座っている創一朗の横に寄り添うと、微笑んでその唇のキスをした。
えへ、っと笑う時緒をいとおしく感じた創一朗はお返しのキスをする。
そして二人は見詰め合って笑いあった。
「本当は……いや、まぁいい」
「え、その続きは?聞きたい!」
「いや…別に聞いても得はないぞ?」
「損とか得とかじゃなくてー」
むー、と頬を膨らます時緒の仕種は可愛い。
降参した創一朗は白状した。
「いや…本当はソファーだと身体が痛くなるだろうと、ベッドへ運ぼうと思っていたんだが」
「うん」
「ベッドへ運んでしまうといたずらしてしまいそうだったから止めた」
「Σ い、いたずら、してもいいのに…」
その告白にもごもごと答える時緒の頬にキスを一つ落とすと、くすくす笑いながら創一朗は言った。
「寝顔を見れたから、それでいい」
「は!!見られた!悔しい!私も創一朗の寝顔見たい!」
「あはは、そう言うと思った」
朗らかに笑顔を見せた創一朗は今度は頬ではなく、唇にキスした。
そうして壊さないように優しく抱きしめる。
「俺も充電できたな。まだ足りないが…」
「私も、充電した。まだまだ足りないけど」
時緒は創一朗の背中に回した腕の力を強めた。
温もり、その存在、全てが自分の元気の充電器。
そう思うほど、抱きしめる力が強くなる。
恋とか愛とか、最初は判らなかった。
好きな人の温もりがこんなにも心地よくて大切で安心で来るものだと、それを教えてくれたのは創一朗だった。
寝てしまって、せっかくの時間が減ってしまったのが残念だった半面、自分を想ってくれる創一朗の小さな思いやりが見えたことが嬉しかった。
「どうしよう…」
「なにが?」
「創一朗、大好きっ!」
「ああ、俺も…好きだ、時緒」
ぎゅーぎゅーと創一朗を抱き締める。
どれだけ抱き締めても足りない。
自分の名前を呼ぶ、その声が嬉しくて幸せで、涙が出てしまう時緒。
胸に僅かに滲む涙に気付かないフリをする創一朗。
彼は時緒の涙の訳に気付いていた。だからこそ、野暮なことは聞かなかった。
それが嬉し涙だから。
焦らずいこうと、創一朗は思っていた。
愛を知るのに、時間を焦ってはいけないのだ。
特に時緒との時間は自分には至宝で、何モノにも替えがたい至福の時。
それを焦りで失いたくない。
二人で紡ぎ合う時。愛しい温もり。
それは、少しずつ時緒を育てていく、創一朗の想い。
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この世界には、逢いたい病とという病がある。
愛しい人を想えば想うほど、それは重症で、甘い病。
きっとまた、すぐ来てしまう病だろうけど、それだけ貴方を想う。
【おわり】
作品への一言コメント
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- 私重症…!可愛く書いて下さってありがとうございます><ノシ -- 八守時緒@なべ (2008-11-05 00:46:59)
引渡し日:2008/11/03
最終更新:2008年11月05日 00:46