戦え、巨大フナムシ!? (小笠原ゲーム『レムーリア遠く』より) ―豊国ミルメークさんに捧ぐ―
南の海は、でかかった。
いや、正確には、南の海にいるフナムシはでかかった。
空は青く、水は澄んで、泳ぐには最高の気温というおまけつき。
ここにきた理由が赤鮭の勘じゃなければ、絶対にはしゃぎまくっていただろう。
いや、十分はしゃいでいたという事実は見ないふりで。
ともかく、赤鮭に言われたとおりミルメークとさるきと熊本は、海に足だけ入ってフナムシを捕まえようとしたのだ。
そしたら。
いずこともなく突然に。
奴はきた。
「でか!?」
そいつを見た瞬間の三人の心の声は同じだったに違いない。
全長2mもあるフナムシだなんて、聞いたことがない。
ついでに、見たこともない。
熊本はあっさり逃げた。
普段からはとても考えられないような超ダッシュ。
まあ、妥当な判断である。
「熊本くん置いていかないでー!気持ちはもうひとつだけど!」
ミルメークも、半泣き。
「どうやって捕まえたものか?」
さるきは冷静だが、ちょっとずれている。
というか、これでまだ捕まえる気があるあたりすごい人物だ。
「ああ。いや、もういい」
赤鮭は、阿鼻叫喚な3人?を見て軽く手を振った。
「さわるな。下手すると歴史が変わるかもしれん」
「あんなのつり餌にもできないよ…!わ、わかった。心から触りたくない」
「確かに歴史が変わるのは良くないっすね」
思わずフナムシを凝視してしまうミルメーク。
怖いもの見たさというかなんと言うかだが、あまり気分のいいものではない。
さるきはやや呆然としながらも物珍しげにフナムシを観察している。
「赤鮭先生が探せといったフナムシは、これとは違うのですか?」
さるきの質問に、赤鮭はこう答えた。
「それだ。違うけどな」
なんだかよくわからない答えである。
まあ、確かに、フナムシ探せと言ったって誰も2mもあるフナムシを探せと言われたとは思わないだろう。
赤鮭だってそんなでかいフナムシがいるとは思っていたわけもない。
「なんでこんなに大きくなったの…。く、熊本くんどこ~?一人じゃ危ないよ、かたまっとこうよ~」
ミルメークはもうあと一押しで涙が出る、というところまで顔をゆがめながら、一人どこかに逃げてしまった熊本を探していた。
こんなフナムシがいる海で、一人きりにしておくわけにはいかない。
「僕、熊本君呼んでくる。さるきさん、熊本君どっちにいった?」
先ほど、熊本が逃げる方向をちゃんと確認していたさるきに聞くと、あっさりした答えが返ってきた。
「えっと、あっちの方」
さるきが、指でその方角を指し示す。
ふい、っとつられてミルメークがそちらに顔を向けたその先に。
しっかり赤鮭にしがみついている熊本武士の姿が見えたのは、その場にいた面々だけの秘密である。
/ * /
なんだか色々あったが、事件というのは立て続けに起こるものだと相場は決まっている。
巨大フナムシが出た海で泳ぐ勇者な人たちにとっても、それは例外ではない。
褌はいいとか、熊本の兄は女好きで将来絶対浮気するとか、知らないほうが幸せなこともあるとか。
そんな話は時空の彼方に飛び去っていた。
赤鮭がミルメークやさるきから離れて、リズムをとるように手を叩く。
疑問符を浮かべるが、どうやらそれが赤鮭なりの水泳教室らしく、ミルメークと熊本は一気に泳ぎ方がうまくなった。
その、背後。
奴は、やっぱりやってきた。
「!!」
熊本が、まずそれに気づいて速度を上げる。
それに続いて、ミルメークが隣を追いかけているが、なぜ熊本が急いでいるのかその理由がわからない。
何か気配を感じて、ふとミルメークが後ろを振り返る。
その目に映りこんだのは、2mを超えるかという巨大な黒い彗星(嘘)だった。
「きたあああああああ」
ミルメークが絶叫。
それと同時に超高速で手足を動かし、熊本に遅れること1秒で赤鮭のもとへとたどり着く。
いつの間にかちゃっかり近くまで来ていたさるきは、フナムシを観察なんぞしている始末。
恐怖で固まる子供たちに抱きつかれて、赤鮭は笑ってフナムシを避けた。
どうでもいいが、この大人二人。
無駄に余裕すぎである。
「赤鮭先生、フナムシも付いてきましたよ?」
「レムーリアでもあいつは20万年前には絶滅しているな」
「絶滅したフナムシがなぜにここへ?」
そんな彼らの横を、フナムシはゆうゆうと泳ぎ去っていく。
そもそも別に捕食目的ではなかったのだから、進路妨害さえしていなければ人間などに興味はなかったのだろう。(たぶん)
「ううー、もう、フナムシきらい…!」
目にたくさんの涙をためて、ぜえぜえと肩で息をするミルメーク。
その日の夜、1匹どころか数十匹にもわたる巨大フナムシに追いかけられる夢を見るなど、
このときにはまだ全然、かけらも思っていなかったのであった……
END
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最終更新:2007年09月25日 21:27