コール・ポー@芥辺境藩国様からのご依頼品



/*どちらが可愛い?*/


 一目見て、心配を抱えているのがわかった。
 わかったから、安心させようと頭を撫でてみた。

 芥辺境藩国の海岸に二人は立っていた。人気は無く、ただ波音だけがざらついた音を立てている。シルヴァは青い海岸線を臨むことはせず、コール・ポーの横でのんびりと彼女の頭を撫でていた。
 それでも、彼女はうつむきがちだった。
「どうした?」
「……国で色々と問題が起こりまして、いろいろやってみてるんですが、胃が痛くて、偏頭痛、です」
 気にするな、と言っても気にするだろうな。そんなことを考えながら、何となく、彼女を抱き寄せる。肩手を背中に回し、片手を髪に触れさせて、ぽんぽんと叩く。
「解決してやるからなおれ」
 すると、彼女も力一杯抱きしめてきた。
 一瞬、国の事なんかどうでもいいか、と考えかける。
 いや、どうでもいいか。後でどうにかしよう。今はそれどころじゃない。可愛すぎる。シルヴァはコールの耳を指でいじって遊び始めた。
「み、みんな…。国のみんなでも頑張ります! だから、色々、言ってください」
「あー。たとえば?」
「政策、これじゃ駄目だからこうするといいかなーと、か…。う。うー、遊んじゃ駄目です! くすぐったいです!」
 こらえきれずに体を震わせているコール。シルヴァはますますいじりたくなってきた。
 が、そんなそぶりはおくびも見せず、
「政策か。ふむ。……・まあ、政治に強いACEを配置することだ。それだけでだいぶかわる」
「ふお、そうなのですか」
 とっさに抱きつくのをやめて手帳を取り出し、何かを書き込むコール。
 ――少しむっとする。
 これは何か、何かの試練なのか?
 シルヴァは何となく後ろから抱きついてみた。わ、とびっくりしたような声をこぼすコール。
「警察署と警察を建てて、ISSの管理下におけ」
 そして態度とはまったく関係のない事を言ってのけるシルヴァ。
「け、警察署と警察。国で買うこと決まってたので、すぐ対応できるとおもいます!」 
「うん。あとは、黒と良好な関係を作って巡回してもらえ。いい、イメージをもたれるように国民向けの広報もやる」
「は、はい! 双海おねーさんと相談してみます! 広報はみんなで、がんばる、です!」
 いいながら、髪に顔を寄せる。さらさらとした髪に埋めて、臭いを嗅いだ。いいにおいがする。
 が、さすがに恥ずかしいのか、肩身を狭くするコール。
 ――ますますやりたくなってくる。
「…く、くんくんされると、は、はずかしいです」
「いい匂いがしてる」
「ふ、ふお。く、くさくないようで…よ、よかったです」
「女の匂いがする」
「は、はひ。一応、身だしなみとかは気を使ってま、す」
 ちょっとだけ手帳をのぞき込む。文字がよれよれで、これは読めるのだろうか、と少しだけ心配した。
 あくまで少しだけ。満足感が大いに心の中を満たしている。シルヴァは少し笑うと、彼女の髪にキスをした。
「あう」
 途端、彼女が振り返ってまた抱きついてた。勝った、と内心で思うシルヴァ。
「わ、わらうところですか」
 おっと、笑っていたらしい。
「かわいいからな。だめか?」
「…だ、だ、だめくないです! ぜんぜん!」
 そうか。なら、
 シルヴァは顔を近づける。魅入られたように、じっと見つめ返してくるコール。
 さらに顔を近づけるシルヴァ。
 コールの顔が、さっと赤く染まった。きょろきょろと辺りを見回すと、小さく深呼吸。その時間が何ともじれったい。いっそのこと、奪ってやろうか、と考えてしまう。
 と思った頃に、彼女はゆっくり顔を近づけてきた。
 キスをする。
「よくできました」
「あ、ありがとうございますっ」
 ぱっと明るく笑うコール。
 あ、無理。我慢できない。
 シルヴァはコールにキスをした。
「唇が乾いてる。早く元気になれ」
「今度お会いするときは、元気になってるように、いろいろ、頑張ります」


/*/

 そして場所を移して、喫茶店。
 最近よく来るなぁという目で店員さんに迎えられつつ、そんなことにまったく気付いていない様子でコールとシルヴァは席に着いた。無論気付いていないのはコールである。シルヴァはとっくにそんなことを気にしなくなっている。有り体に言って、二人の世界にすっかり突入しているのであった。
 と、席について、しまったな、と思った。ここでは思う存分キスできない。
 まあいいか。させてやる。
 黒い尻尾が見えてきそうな事を内心で考えながら、シルヴァは注文をする。コールは何故か必死にメニューを見た後、紅茶とケーキのセットを注文した。ややあって、ケーキのセットと紅茶のポットが、ティーカップがテーブルを飾った。いささか緊張気味だったコールが、ケーキを見て少しリラックスする。
 さて。
「結婚はいつにする?」
「はひ!?」
 再びがっちがちになるコール。可愛いなぁ、と思いながら笑う。
「まあ。嫌ならいい」
「い、嫌じゃないです! 憧れてます、と、いうか前にもこういうことが!」
「そうだったな」
「か、か、からかわないでください」
「可愛い」
「う、うっ」
 真っ赤になってうつむくコール。誤魔化すように紅茶を飲んだ。ちなみに、近くの席の人がなんだなんだと目を向けてきている。これを教えるのはもう少し後だな、とシルヴァは思った。
「か、可愛いんじゃないです。シルヴァが格好いいんです」
「はいはい。なんか、お涼ーと呼びたくなるな」
「い、いいですよ! ちゃんと答えます」
「いや、答えるって。……まあいいか」
「え?」
「しかし、思ったよりも遠いな」
「え、ええ? 何が、ですか?」
「テーブルが」
 きょとん、というよりもぐるぐるとしたまま首を傾げるコール。シルヴァは低く囁いた。
「抱きしめたくなってもすぐに出来ない」
「は、はう……な、なら、隣に行きましょう、か……?」
「見せつけるのか?」
「え? あっ!」
 そして気付く。周りの視線釘付け。ゆでだこよりも真っ赤になったコールを見て、やりすぎたか、と一瞬心配する。
「そ、そうですね。そ、それがいいなら、それでも、い、いいです」
「……」
 意外と積極的だった。
 が、まあ、その、なんだ。
「まあ、それはそれとしてだ」
「え、ええっ!?」
「いやそんなに驚かなくても」
 ――誤魔化しつつも、思う。
 それはさすがに、こっちがちょっと、恥ずかしい気もするんだ、と。



作品への一言コメント

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  • SS製作ありがとうございました!楽しく拝見させていただきましたv いじめっこな雰囲気満点のシルヴァさんが素敵でした(笑) 喫茶店へ移ってからの会話は、本当にありそうで少し複雑な心境になりました…。ま、周りを良く見て行動しようとおもいます。笑 -- コール・ポー@芥辺境藩国 (2008-10-22 15:16:31)
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最終更新:2008年10月22日 15:16