518アポロ・Ｍ・シバムラSS

アポロ・Ｍ・シバムラ＠玄霧藩国さんからのご依頼品

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「英吏さんさえよければずっと作りたいな」

　視線を軽く泳がせた後、アポロは頬を僅かに染めて言った。
　思わず口に含んでいたまだ暖かい白米と麻婆茄子を噴出しそうになるのを英吏は飲み込みながら、言葉の意味を落ち着いて思考する。口の中にあるものを水で飲み込みながら、英吏はゆっくりと口を開いた。

「……いろいろな意味にとれるが、ああ」

　水を飲んだばかりというのに乾いた喉を、唾液を飲み込んで潤して一拍の間を置いて続ける。

「イエスだ」

　答えが意外だったのか、アポロは数秒ほど焦点のあっていない目で英吏を見つめた後、白い煙を頭から噴出しながら顔中を赤く染めてわたわたと両手を頭の横で上下左右にぶんぶんと振り回す。英吏はそれでテーブルの上から食器が落ちないよう、こっそりとテーブルの端を押さえながらその様子を見守る。

「え、ええと、どんな意味かっていうとその。一緒に暮らしたいとかそういう意味なんだけど、それでもイエス……？」

　散々動いて落ち着いたのか、アポロは今まさに首を吊りますというような切羽詰った表情を、おどおどとしたものに変えながら縮こまる。
　こうされては断れないのが普通というものだが、その必要もない。英吏は既に決めていた言葉を口にした。

「あらゆる意味で」
「あらゆる……」

　何かが胸に突き刺さったように、アポロはびくんと身体を大きく震わせる。流石の英吏も、この状況で箸を動かせるほどの馬鹿ではない。以前より一回り細くなった身体を僅かに萎縮させながらその様子を見守る。緊張している様子は、一人の男としてあまり気取られたいものではない。

「お、お嫁さんにもらってって言ってもイエスなんですかっ」

　テーブルを叩こうとした掌を寸前のところで止めながら血走った、いや、泣きそうな眼をしながらアポロが吼える。

「まあ、さすがに内縁の妻とかにはしたくないな。俺でよければ」

　わかってはいながら熱を帯びる顔を背け、眼鏡の位置を直しながら微かに尻すぼみに英吏は答える。あまり面白くない皮肉は、彼なりの照れ隠しだった。

「あ、ありがとうございます。……お嫁さんにしてください」

　茹でたタコのように赤くなり、真っ直ぐに英吏に向き直ってからアポロは言って頭を下げる。ごつんと、額がテーブルと衝突し、上に乗っている食器を揺らした。痛みゆえか、恥ずかしさからか、そのまま頭を上げずに英吏の返事を待っている。英吏は精一杯なんでもないことを装いながら口を開いた。

「俺からも頼む」

　英吏は言ってすぐに盛大に照れながら、紛らわせるようにユーリンチーへ箸を伸ばす。口元まで運んだところで、アポロが傍らに椅子ごと移動してきて、彼に抱きついた。

「食事中だぞ」

　思わず落としそうになったユーリンチーを皿に戻し、胸に顔をうずめる彼女の髪を撫でながら抱き寄せて囁くように呟いた。それを聞いて、思い出したようにアポロが顔を上げる。

「そ、そう！　冷めないうちにどうぞ！」

　アポロは微かに赤くした目をぐるぐると回しながら英吏から離れる。それを微笑みながら見ていた英吏は、手近なところにある卵スープの入った小さな御椀を手に取って口へ運ぶ。
　瞬間、視界が白に染まった。

「あ、英吏さん……」

　小さく笑いながらアポロはハンカチを取り出し、英吏の顔に自分の顔を寄せて眼鏡を拭う。
　半透明の姿を取り戻したレンズに隔てられた、近くて遠い距離で二人は見詰め合う。

　………………。
　…………。
　……。

「えっと、さ、冷めないうちにどうぞ！」
「……ああ、そうしよう」

　英吏葉手に取ったままの卵スープを飲み干す。少し冷めてしまっていたが、これまで食して来たものと比べれば格別の味だ。他人との、いや、彼女との会話が”隠し味”として効いているのだろうか。
　ふむ、と空になった御椀を置きながらテーブルを見渡す。
　ユーリンチーに中華風の炒め物。れんこんのきんぴらに温野菜サラダ、それと麻婆茄子。まだまだたくさんの料理が目の前には並んでいる。
　その全てに、この”隠し味”が効いていると思うと、英吏にはこれがどんな高級料理よりも食欲をそそるものに見えた。

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作品への一言コメント

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このログは影さんにお願いしようと心にきめていたのでお願い出来て良かった…！こう、私が＠＠すると同じセリフを繰り返すあたりとか、よく再現されていてさすがです。甘く幸せに書いてくださって本当にありがとうございました～ -- アポロ (2008-10-27 21:40:46)
コメント頂きありがとうございますっ　そして誤字すいません！（土下座 -- 影法師 (2008-10-28 10:40:35)