玄霧弦耶@玄霧藩国さんからのご依頼品


 ここは夏の園。コテージから少し離れた場所に、弦耶は立っていた。
 金持ち用のセキュリティが自慢の別荘だ。
 弦耶は自身の着用アイドレスが森国人+医師+名医+マッドサイエンティストであることを確認しつつ、辺りを見渡す。
 近くで火焔がコガと遊んでいるのを見つけた。
 どうやら(見た目では)無事のようで、一安心である。

「や、久しぶり」
 弦耶が近寄って声をかけた。
 火焔は首を傾げている。
「? え。久しぶりだっけ??
 先々週あわなかった? あれ?」
 どうやら二人の間で時間の感覚にずれがあるらしい。
「ん? あー…いや、最近きな臭いもんで。ちょっと」
 苦笑することで軽く流して、
「オルゴール、大事にしてるよ」
と付け足した。弦耶の言葉に、火焔は笑った。
「英吏は頭いいから、大丈夫」
 笑ったのはオルゴールの件ではなかったようだが。
「ははぁ、なるほど。確かに彼は凄いね。今度是非会いたいものだ」
「ま、嫌味豚だけどね」
「で、火焔。ごめんなさい。抱きついてもいいですか。もうねー心配で心配で俺気が気じゃなくてー!」
 急に態度が変わる弦耶。どうやらずっと我慢していたらしい。
「はぁ?」
 火焔は半分呆れてコガを見る。
「じゃ、どうぞ。使って?」
 コガが前足を広げた。
「いや、そーじゃなく。あぁ、いや、いいや。火焔無事だったし」
 コガには丁重にお断りをしつつ、なんだかがっかりしたような顔をしているのは気のせいだろうか。
 火焔は歯を見せていじわるな顔してる。確信犯だ。
「ぬぅ、しかしホントに怪我とかない?念のために治療できるようにしてきたんだけど」
 その顔が強がりではないのかと不安にもなる。
「ううん? 楽勝だったよ?」
 なんの淀みもなく火焔が答えるので。信頼に足る答えだと思った。
「そうか、良かった。…えーと、じゃ、遊ぶか」
 そう言ってから、苦笑する。
「実は今日は何も考えてなかったんだよ。ゴメン」
 火焔は笑った後、弦耶に抱きついた。
「心配したんだね。ありがと」
 弦耶はさりげなく涙を流しつつ抱き留める。ぎゅう。
「あぁ、生きてる。いいなぁ。こうやって抱き合って初めて認識できる俺も俺だけど…」
 それだけ身を案じているということでもあるのだ。
「好きよ?」
「勿論俺も」
 抱き締めて安心と幸せを心いっぱいに溜め込む。
「んー、幸せ。安いね、俺」
「安くなんかない。私を心配してたんでしょ?」
 火焔はにへへーと笑った。
「勿論。心の其処から」
 弦耶が笑い返すと、「うん。合格」と満足そうな声で返し、んー、と、頬にキスした。
 抱き締める力を少し強めて弦耶はそのまま言葉を紡ぐ。
「あぁ、そういえば思い出した。心配しすぎて色々取り寄せたんだよ」
 安心して平常心を取り戻してきたのか、話したいことを思い出した弦耶 。
「といっても護身用なんで全然訳に立ちそうもないんだけど」と苦笑。
「? 何を?」
「ん、煙幕とかそういうの。もってけーってヤツがいてね」
 すると火焔は笑ってポケットから煙幕手榴弾をだした。
「こういうの?」
「あぁ、それそれ。コッチのは発炎筒みたいな感じだけど」
 弦耶も腰のベルトに着けてる筒を手に持って見せる。
「なるほど。でもまあ、私よりあんたの方を普通は狙うかもね」
「ははは、違いない。今の俺弱いからねぇ。
 ここはセキュリティ高いって聞いたけど。どうなんだろうね、実際」
 こんなにのんびりしていて襲われてないくらいだから安全なことは間違いないだろうが。
「ここは大丈夫よ? ハイマイル区画の次くらいには」
「ハイマイル区画か……最低100マイルはまだまだ厳しいねぇ」
 弦耶は宙を仰ぐ。いくら王様でも預金が厳しいのである。
「あそこは客こないと商売ならないから、凄い護衛ついてる。バイト代いいのよ?」
「ぬ……なんかこわいところもあるとうかがっておりますが……」
 冷や汗を垂らしながらまた心配事が増えたとおもう弦耶。
「そうね。怖くて最低の奴らがうようよしてる。だから安全にも気を使ってるわ」
「なるほど…ハイマイル区画のお世話になることはなさそうだなぁ」
 王様でも家を買うのが精一杯でござる。と火焔は「ばっかね」と笑った。
「冷やかしで歩くだけもいいのよ。買い物するだけならお金いらないし」
「おー、火焔天才!んじゃ、其のうちかな。
 まぁ、でも。俺はこういう自然のあるところで火焔と会いたいかな」
「自然ねえ」
 火焔は少し、寂しそうに笑った。
「や、なんというか。んー…俺どっちかというと嫌いなんだよ。都会の喧騒とか」
「ここは違うわよ。ここは偽者だもの」
「うん、知ってるけどね。でも静かなところのほうが好きなんだよ。この辺は俺のわがままなんだけど」
「なるほど」
「でも、火焔がいればどこでもOKよ?」
「本物は、蚊もいるし、熱すぎるし、トイレもないから」
 それもそうかと思う弦耶。
「俺の田舎もそんなだったなぁ。いや、流石にトイレはあったか。
 今でも蚊には苦労してるんだこれが。夏は酷い酷い」
 苦笑しながら一言二言付け足してしまうのが弦耶の癖だ。
「ま、いいんじゃない?アンタの好きなところで?」
 火焔はにしししと笑った。満足している笑いだ。
「ん、そういっていただけると助かりますお嬢様。
 でも、俺の好きな所は火焔の傍なんでダイジョウブダイジョウブ」
 何が大丈夫なのかかさっぱり判らないが、まぁ火焔が居ればそれでいいという愛の表れである。
「たまにはあってあげるわよ。暗殺の危機であんまりで歩けないだろうから、あたしが話してあげる。外のこと」
 火焔がそういうと、弦耶は神妙な顔になった。
「たまにはか……」
 んー、と少しだけ考えるが、まじめな顔で火焔を見つめなおした。
「火焔さん。一つご相談があるんですが」
「?」
「えーと、近々家を買おうと思ってるわけで」
「おめでとー?」
「まぁ、もうちょっと後になるけどね。其のときにはその、なんだ…あー」
 肝心なことを言うのに少しだけためらった。
「えーと、ちゃんと籍とか入れて一緒に住んでください」
 それを聞いて、火焔は満面の笑み。
「やだ」
「そ、そこをなんとかー!暫く会えないのがつらいんやー!」
「そう言うのは指輪でも買ってきていうものよ?」
 火焔はがにまたで、ふふーと意地悪な顔。
「ぐぅ、前に渡した指輪ではダメですか……」
 項垂れる弦耶。しっかりと火焔の尻に敷かれている。
「そうね。やっぱり王様だものね。
 ハイマイルで4番目くらいに高いのでないと」
 ちなみに800マイルです。
「4番目ってところに慈悲を感じつつ……ええいっ!
 俺は自分の国が好きなので国産の凄いヤツ用意します! それでどうだ!」
 火焔はいい笑顔。
「出直してきてね?」
「うう……どうしてもダメですか」
「まだはやいわよ」
 ごねる弦耶に、急に火焔は真面目な顔で言って笑った。
「…む、そうか。じゃ、準備だけしておくよ。うん、ゴメン。確かに早いか」
「うん」
 火焔はそういって笑うと、頬にキスした。
「がんばってね。ダーリン」
「がんばる。俺蝶がんばる」
 立ち直る弦耶。
「なんだろうなぁ、その言葉だけで満足できるってことは、やっぱりまだ早いんだろうなぁ」
 今日何度目かわからない苦笑をして、納得する弦耶。
「とりあえず、その牢屋みたいな王宮から私がだしてあげるわ?」
「それで火焔が危険になるんだったら俺は牢屋でも構わんけどね。たまにはこうして出れるし。……いや、会えないのは辛いが」
 とりあえず抱きしめなおす。暫く会えない、その間の分を。
 火焔は笑った。
「ま、半死くらいで」
「生きてさえいれば俺が全力で直すから。絶対に死なないでくれよ?」
 真面目にいうと、火焔はうれしそうに
「うんっ」
と笑ったのだった。

 そうして火焔は、特殊任務に就いた。


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引渡し日:2008/10/14


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最終更新:2008年10月14日 01:15