緋乃江戌人@るしにゃん王国さんからのご依頼品
/*/
赤緑黄色。
開かれた重箱からは食欲を誘う芳しい香りとともに、色取り取りの料理が躍り出た。
思わず呆然とするあやめ。言葉も忘れ、所狭しと敷き詰められた和食の数々をまじまじと観察する。
……。自分よりも女の子してるんじゃないだろうか、こいつ。
そう思えるとちょっとだけ、そう、ちょっとだけ、ムカつく、気がする。
「どうしたの? 座って?」
そんな自分の心を知りもせず、目の前の彼は重箱を並べて自分の隣をぽんぽんと叩いている。
じゃあ私はとことん男の子で居てみよう。見せつけるように微笑んでその隣へ腰を降ろして胡坐をかいた。その笑顔に何かを感じたのか、ライダーキャットはのそのそとその場を退散する。
煮物に始まり、おにぎり、卵焼きなどなど。若干作りすぎでは無いだろうかという量が見て取れる。
流れるように自然な動作で、上着が膝の上に被せられた。
「まだ、少し寒いからね。さ、食べよう?」
笑顔で箸を渡される。その笑顔を見ているとここは砂漠にある国なんだけど、という突っ込みをする気力もどこかへ飛んで言ってしまった。
渡された箸は一旦膝に掛けられた上着の上に預けて、あやめは両手でおにぎりをがっつき始める。
「うまい」
「よかった。君が喜んでくれるか、心配だった」
そんな可愛いことを言いながら、笑顔と一緒にお茶が差し出される。やっぱり何か、逆転してる気がする。あやめはどこか引っかかるものを感じながら、お茶を受け取った。
淡い浅葱色の水面を、茶の葉がゆらゆらと舞っている。その様子を上からじっと見ていると、不意に戌人の手が頬に触れる。少し驚いて顔を上げると、目と鼻の先に彼の顔があった。
数秒、いや、もっとだろうか。しばらくそのままで2人見詰め合っているうちに、もう片方の手もあやめの、反対側の頬に伸びる。
目的がよくわからず、思わずあやめは首をかしげる。といっても、両方の頬に触れられていては満足に動けなかったのだが。
察したのか、戌人は微笑みながら口を開いた。
「あやめ、僕と結婚してくれないか?」
「何言ってんだか」
思わずあやめは笑った。成程、顔を逸らされないためにか。
当座の目的を果たした故か、頬に触れていた両手は水のようにあやめの首を伝って背中へと回され、すっと抱き寄せられる。
「本気、だよ?」
頭の上から囁くような声が全身に響く。
上目遣いに見上げた戌人の表情は、切実そのものだった。
「やだ」
あやめは全力全開の笑顔で宣言し、するりと腕の中から抜け出す。
「やーだ」
くるくるとステップを踏みながら、彼との間合いを開く。
そう、こうじゃないといけない。どこか満足して回転を止め、両手を膝に乗せて中腰気味に彼を見上げる。
「ちゃんとデートしたりとしてからね?」
あやめは声のトーンをひとつ上げ、上機嫌にスキップを踏みながら離れていく。
その後ろ姿を戌人は微笑みながら見送る。追いかけようにも彼の周りに集まり始めた青い輝きが、時間を告げていた。
/*/
作品への一言コメント
感想などをお寄せ下さい。(名前の入力は無しでも可能です)
引渡し日:2008/10/09
最終更新:2008年10月09日 22:58