経@詩歌藩国様からのご依頼品


 花屋の店先で花を選ぶ、灰色の髪の端正な顔立ちの少年―岩崎仲俊は、愛らしいピンク色のポピーの一輪を目に留めて、少し眩しそうに目を細めた。北国人らしい白い髪、白い肌、天真爛漫な彼女にはきっと似合うだろうと思う。ちょっと変わった髪型だけれど、あの髪を梳いて着飾ったらどんなに映えるだろう。

-うんうん、彼女にはピンクのポピーがいいね。それにオレンジ色のも。
ヒマワリもイメージだけど、髪に飾るには小さいものにしたって大きすぎるし、白い肌にはピンク色やオレンジ色が映えると思うんだ。
スイートピーも香りが良いし、髪にも編みこめるなあ。

「プレゼントですか?」

 岩崎がそんな風に考えながらガーベラを見つめていると、若い女性の店員が声を掛けてきた。少し頬が赤い気がするのは気のせいでは無いだろう。岩崎が彼女の方を見ると、向うの方から小さく黄色い悲鳴があがった。美少年が花を選ぶ姿が画になっていたらしく、すっかり女性店員の注目を浴びてしまったらしかった。

「実はお姫様の髪を飾る花を探していてね。このピンク色とオレンジ色のポピーを貰おうかな。それとスイートピーも」

岩崎が人好きのする笑顔でそう言うと、声を掛けた女性店員は彼の微笑みに顔を赤くしてから、注文の品を包み始める。ちょっとしたブーケみたいに出来上がったそれを上着に隠して去っていった少年を見送ってから、花屋では彼の相手を想像しての噂話に花が咲いたのだった。





そして、待ち合わせの桜の園。
桜がいつも満開のここでは、屋台も年中楽しむことができる。

準備万端な岩崎は経の髪を上機嫌に梳いて魔法のようにアフロを解除してしまうと、ゴムでその髪をまとめてしまう。

「わー、髪がまっすぐになった。魔法!?」
「経さんのアフロ解除…!初めてみたっ」
歓声を上げる経と駒地に岩崎は微笑んで、綺麗に束ねた髪に満足げに頷いた。
「僕の趣味でごめんね?」
―アフロも楽しくて良いと思うけど、可愛く着飾った姿も良いと思うんだよねえ
「可愛くなるよ」
「えへら。そうだと嬉しいです」
―僕の見立てに間違いは無いからね。うんうん。
少し照れたように笑う経に、岩崎は自信有りげに微笑むのだった。
そういしている間も、駒地に鬣を梳いてもらっていたエクウスはウキウキとした様子で、いかにも嬉しそうだ。
そんな様子がいかにも無邪気に見えて、ジャスパーは楽しそうに笑った。
「おしゃれ、僕好きだよ?」
「エクウスもきっとかわいくなる…」
想像してぽわーんとなる経に、岩崎は頷く。
「そうだね。エクウスは美馬だから」
「ほんとー?」
「毛並みも綺麗だし、そのままでもかわいいけど、おしゃれしたらまた違ったかわいさがあるよね」
駒地の言葉にエクウスは嬉くてたまらない感じで鼻息を荒くするのだった。
「経が飽きないように、エクウスからさきにやろうか」
そう言うと、岩崎は凄い速度でエクウスの鬣を編み始めた。その手さばきといったら、達人レベル。繊細な編みこみが魔法のように出来上がっていく。駒地もそれを手伝い、岩崎の気を利かせた森の噂に少しどきどきとしながら編みこみを完成させた。
「出来たよ。見てごらん、エクウス」
岩崎がどこから出したか、大きな手鏡を出して見せると、エクウスは後ろ足で立ち上がって自分の姿をじっくりと見つめる。
「いいね!」
「岩崎君は魔法も使えたんですね!びっくりです」
「いやいやいや。僕の場合は手品さ。手品」
エクウスの可愛さに目を輝かせる経に、岩崎はにっこりと微笑んだ。
「さて、馬のお姫様の次は、人のお姫様だね」
「岩崎君は手品師を目指しているんですか?…ボクの番!」
動揺する経の髪に、優しく触れるとスイートピーを丁寧に編みこんでいく。艶やかな白い髪に、淡いピンク色の愛らしい小さな花が咲く。
「…ボクは優秀な技族になりたいです」
「なれるといいね。もちろん、なれなくても僕は君の味方だよ?…いいにいおいだ。つけ毛をして、長い髪にしようね」」
いつもより近い顔に、経が照れながらそう言うと、岩崎は優しく微笑んで頷いた。
「宰相府の技族って、どんな所で働いてるんだろうね」
親友の森の事が気になる駒地は、さりげなくそう聞いてみた。
「森さんなら、建築部門だよ」
さらりと答える岩崎。そうしている内にも、着々と髪は飾られていく。
「さあ、出来たよ」
ピンクとオレンジ色のポピーを耳の上に。
「経さん、ストレートもかわいいよ」
「これで服があわせてあれば完璧だな」
駒地とジャスパーが感心した風に経を見つめた。ストレートの髪に、繊細な花の編みこみ。白い髪に映える淡いピンクの小花とアクセントに2色のポピー。照れ笑う表情が、また年相応に可愛らしく花を添えていた。
「服?制服以外はこういうのしかないです。どんなのがいいと思いますか?」
経が自分の服装を見下ろしてからジャスパーにそう尋ねると、ジャスパーは思案げに顎をさする。
「エクウスはまあ、旗みたいなのをかぶせて、経はドレスかな」
「僕が無理行ってやらせてもらったからね。貸衣装なら用意するよ?」
ジャスパーの言葉に、岩崎は何と言うことも無いといった風に言った。
「わあ、いいんですか。ドレスですよ!?きっと高いですよ!」
「僕ぁ、見たいのを見るためなら借金でもするね」
驚く経に微笑むと、岩崎は3分くらいで運ばせてきてしまう。しかも移動試着室付きである。
「はやッ」
驚く一同に、岩崎は微笑んだまま恭しく経にお辞儀をして見せた。貴婦人にするみたいに。
「どうぞ。お姫様。僕がファスナーをあげられないのが残念だけど」
その様子があまりにも様になっていたので、経が感心した風に呟く。
「うわー、岩崎君はなんかこう、いい大人になれると思うよ」
「いやいや。僕はきっと、おとなになんかなれないよ」
微笑んだまま、岩崎はそう言う。
「着替えは私が手伝えば大丈夫かな」
「あ、駒地さん。手伝ってくれるんですか。ありがとう」
試着室に入り、駒地に手伝ってもらいながら、ドレスを着る経。

貸衣装とは言え、そのシャラシャラとした上等な手触りに胸が弾む。
綺麗なピンクがかったシャンパンカラーのふわりとしたドレス。白い肌の経に似合うだろうと、岩崎が選んだものだった。
しかし、経は先ほどの岩崎の一言が気になり、少しだけ顔を曇らせる。
―おとなになれないってなんだろう…

着替え終わって、ドキドキとしながら試着室を出る経。ふわっ、と試着室を仕切っていた布についた桜の花びらが舞った。
「えーと、はじめて着てみたけど。似合ってます?」
拍手をする岩崎とジャスパー。エクウスは目をキラキラさせながらちょっと前足を浮かせた。
「お姫様みたいだ」
「うわあ、ありがとう!」
嬉しくてくるくる回って自分を見てみる経、シャンパンカラーの薄い布地を幾重にも重ねたようなドレスが風に翻って、まるで本当にお姫様みたいだった。
「きれいだよ、すごい似合ってる」
「いいねえ。実にいいねえ。最高だ」
素直に賛辞を口にする駒地と岩崎、岩崎は自分の完成させた作品に満足げにうんうん、と頷く。
「岩崎君は魔法使いみたいです!」
経は素直にそんな感想を言うと、岩崎はちょっと苦笑して見せた。
「いやいやいや。僕はただのペテン師だよ。美人に弱い」
―魔法使い 兼 王子様なんだよねえ、経さんの
ほう、と岩崎と経を見てしみじみとしてしまう駒地。
「いえいえいえ。誰かを幸せにするペテンは魔法だと思うよ。ボクも綺麗なひとは好きです」
そう言う経に、岩崎はふわりと微笑んだ。
「では、自分を好きになってくれないかな。僕からの、願いということで」
―他人を楽しませるのもいいけど、自分の事も大事にして欲しいんだよねえ
女の子らしく綺麗に着飾った経をじっと見つめる。
「アフロを喜んでいるようには、見えないんだよねえ」
「ほえ?自分ですか・・・・」
意外そうに目を見開く経に、岩崎はにこっと微笑んだ。
―経さんがんばれー
駒地は心の中で応援しながら、気を利かせてちょっと距離をとる。2人の恋の始まりみたいでちょっとドキドキしながら。
「んー、初対面の人にウケるんで好きですけど。やっぱりストレートは憧れかも。…というか、岩崎君も自分を好きになってほしいですよ。ムカついたときはムカツクー!でいいんですよ」
少しだけ考えてから経がそう言うと、岩崎は微笑んだまま首をかしげて見せた。
「…似ているのかもね。ぼくたち」
「そうかもしれませんね…うーん」
真面目に悩む経の顔を覗き込むと、岩崎は口元の笑みを深める。
「中々口説くのも大変だね。今度は別の手でくるよ。それ、似合ってる。出来れば笑顔、忘れないで」
「うん、ありがとう」
岩崎は手をひらひらさせると、風みたいにどこかへ行ってしまった。
「またねー!!」
手を大きく振る経の横で、エクウスが感心した風に鼻を鳴らす。
「あいかわらず風みたいだね」
「風、か…とらえどころがない、のかな」
駒地がちょっと呆然と岩崎の去っていった方を見送ると、ジャスパーが腕を組んでフムと頷いた。
「ま、そうだな。いまだにあいつのことはわからん」
「いい風かもしれないよ?」
エクウスが経の髪から漂う鼻の香りにうっとりと目を閉じて、楽しそうに自分の鬣を揺らしたのだった。
その鬣に、まるで飾りのように桜の花びらを纏わせながら。


作品への一言コメント

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  • 可愛らしく書いてくださってありがとうございます!岩崎君が愛しくてたまりません(てれ。 -- 経@詩歌藩国 (2008-11-07 23:55:01)
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最終更新:2008年11月07日 23:55