よんた@よんた藩国様からのご依頼品
[タイトル:女心ともみじ模様]
ちょっとだけ、ちょっとだけ、後悔した。
なんか、ちょっとだけ、嫌な女の子だなーって。
でも、だって、言いたいことはたくさんあるんだもの。
ちょっとだけ、待っていたのよ。なのに…
男の人って、なんで女心を判ってくれないのかしら。
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彼はそっと手を出し、自分の目の前にいる少女-森精華に言った。
「じゃあ、あらためて・・・デートしませんか?」
「・・・・・恥ずかしいので嫌です」
ほんの一瞬、彼には判らないように、その手を見詰め…そっと、繋ぎたい衝動をやり過ごした。
彼は少ししょんぼりしながら悩んでいた。
その様は、一国の王とは思えない。
精華はそんな彼を嫌いじゃなかった。
でも、たまに、国と自分を天秤にかけさせて、彼を困らせる。
だって、どう考えても、私より国が大事に決まっている。
精華はそんな自分を少し好きになれなかった。
(私なんかより、国を思えばいいのに…)
そう思って、少ししょげた。
「う~」
項垂れるような声をもらす彼-よんた藩国の藩王、よんたは必死に考えていた。
よんたは、どうしたら、精華と一緒に過ごせ、彼女が楽しんでくれるのか。
それを必死に考えているのだ。
「じゃあ・・・一緒にそこらをふらふらしておしゃべりっていうのは?」
探るように精華を見詰めるその瞳は、少し情けなくも見える。
「それならまあ」
「ありがとうっ」
「いい気にならないでください」
先ほどの暗い雰囲気を一掃し、ぱぁ、と一気に明るい表情を見せたよんたをザッパリ切り捨てる精華。
ここで、いい気にさせてはいけない。
「はい…」
しゅん、とするよんた。
それでも、精華のツン気味だが承諾を見せたことに、少しほっとする。
景色を眺めるように、二人はそっと移動を始めた。
今日、二人が訪れていたのは、わんわん帝国宰相府にある観光地、秋の園。
その秋の園にある緩やかで整備された山道を、登っていく二人。
その道の先には神社がある。
よんたの目的地は神社ではないのだが、散策しながら歩く二人。
その二人の距離は微妙に離れていた。
よんたは並んで歩きたいのだが、精華はそんなよんたを置いて、すたすたと歩いていく。
山道の途中には、美味しいと評判の御茶屋もある。
その茶屋を見つけたよんたは、少し前を歩く精華へ声を掛けてみた。
「っとそだ、俺お腹すいたんですけど・・・森さんどうですか?」
「一人で食べてくればいいじゃないですか」
「折角なんで一緒にお茶でものめたらなあ、と」
そう言って誘ってみたものの、精華といえばさっさと歩いていく。
「あ、まってくださ~い」
よんたの声は聞こえない振りをして、精華はすたすたと歩いていく。
気付くとベンチのあるエリアに着いていた。
普段歩く速度より早い速度で歩いたためか、歩みを止めた精華は肩で息している。
そんな精華の様子に、疲れた雰囲気を読み取ったよんた。
ベンチを指して言った。
「・・・やすみません?俺もつかれちゃったんで」
「・・・一人で休んでください」
なおも、よんたへ答えない姿勢の精華は、ぜえぜえいいながら岩に背を預けて休んでいた。
こちらを見ようとしない精華の様子をなるべく視界に外さないようにしながら、よんたは周りの風景を見やった。
そこは神社までの参道の途中。
長い参道を行く人の為の休憩所だった。。
二人の目の前には山間の景色が広がり、美しく色づいた紅葉が広がっている。
それは正に絶景だった。
「きれいだなあ・・・絵にしたらどうなるかなあ・・・」
彼女も、今見ているだろうか。
視線を確かめられないけど、一緒にこの景色を見て、同じことを思ってくれるといいな。
そう思いながら、よんたは感嘆を漏らしていた。
「かけばいいじゃないですか」
精華もまた、その景色を見ながら、少し拗ねた声音で言った。
よんたの方は見ず、目の前にただ広がる絶景を見詰める精華。
黄色・橙色・赤色。グラデーションを作り、山々を染める紅葉。
なんで…同じことを考えているんだろう。
そう思うと、ちょっと悔しかった…
「ですねえ。下手の横好きですけど」
「…私だってそうです」
「そっかあ・・・」
少し拗ねた声音を発する精華が、なんか可愛らしくて。
ちょっとおどけながら言ったよんた。
よし、っとその景色に勇気をもらうと、それまで目の端でしか捕らえていなかった精華の方を向いた。
そっと、1冊のスケッチブックとペンを精華へ差し出しながら。
「かきません?予備はありますし」
「・・・・私、書くと長いんです。何時間も」
「いいですよ、森さんと一緒なら。俺も手遅いですから」
にこりと微笑み、はい、といいながら、そのスケッチブックとペンを精華に手渡す。
手渡された精華は、うっ…、と小さく唸り、なんだかくやしそうな表情を浮かべた。
(く、悔しい…なんで…)
負けた気分に浸ってしまった精華。
自分も描きたいと感じていたのを感じられたからなのか、今日は一日そっぽを向くのだと決めたいた決心を打開されたからなのか。
難しい顔のまま、それらを受け取ると、精華は渋々といった感じのまま近くのベンチへ腰を下ろした。
よんたは、そんな精華を不思議そうに見ながら、同じベンチへと座ると、二人だけの写生大会が始まった。
ベンチの端と端に座りながら、秋の絶景を写生する二人。
たまに通りかかる人々はそんな二人を微笑ましく見ながら、通り過ぎていく。
時折吹く風は優しく二人の頬を撫で、紅葉の葉も揺らしていた。
美しく誇らしげに鮮やかさを見せる山々の紅葉。
その風景を壊すことなく、整備はされているが自然そのままの参道。
気のせいか、遠くからは微かに水の音も聞こえていた。
見られたくないのか、見せたくないのか、必死によんたからスケッチブックを隠しながら、目の前に広がる秋の絶景をスケッチする精華。
よんたは、そんな精華に負けじと、見えないように隠して描いていた。
(あ、距離感おかしい)
よんたは集中してきたのか、ポツリと聞こえるか聞こえないかの独り言を呟き始めた。
一気に描いたはいいのだが、少し距離感がおかしい。
どこかで奥行きの取り方を間違えたのか、絵がしっくりこない。
(う~)
と、小さく唸った瞬間だった。
精華はよんたの尻を、いきなり鉛筆で刺してきた。
「いっ!!!」
びくっ!と身体がベンチから一瞬浮き上がる。
「いたい・・・」
刺された尻を撫でるよんた。
あ、ちょっと涙出てきた…
「いたかったです」
涙目はスケッチブックへと視線を落としながら、僅かな抗議をしてみるよんた。
「なんのことですか」
シレっ、とスケッチを続けながら答える精華に、寂しそうに、唸ってみたが精華には効かなかった。
そして、よんたは自分の絵を見てみた。
線を描いていた最中に刺されたためか、そのショックでか、線があらぬ方向へと何本も伸びていた。
「ああ~あ・・・。かきなおせばいいよね・・・」
今日一番の落ち込みを見せて、しゅぅんと呟くよんたに向かって、精華はまた、尻へペンを刺した。
「!!???」
「もういいです。帰ります」
刺されたショックと痛みにうろたえているよんたを置いて、精華はいきなりベンチから立ち上がった。
あまりの気分の乱高下を見せる精華に、さらなる動揺を隠し切れないでいるが、痛む尻をさすりながらどうにか声を掛けた。
「あ、まって」
「絵が好きなくせに」
「ううん?」
あれ?と思うよんた。
(あれ?拗ねてる?)
何に、とは気付いていないが、よんたは漠然とそう思った。
そして、ただ素直に言った。
「俺は森さんと一緒にいるのが好きなの」
ぴたり、とベンチから離れようとする精華の動きが止まる。
よんたは、精華の今日の気分の起伏の原因はよく判っていなかったが、ただ素直な思いを素直に言った。
「絵もすきだけど、一人じゃさびしい・・・キミがイヤじゃないならもっと話したいし・・・」
よんたからは見えなかったかもしれない。
その精華の表情はみるみる真っ赤になってきていた。
スタスタとUターンしてきた精華。
その顔は首まで真っ赤だった。
「少しですよ」
「うん」
ニコニコと笑うよんたの表情は、純粋に嬉しかったのだろう。
それがにじみ出ていて、精華はその嬉しそうな表情を見るのが恥ずかしかった。
さきほどより、ほんの少しだけよんたに近いとこに座りなおす精華。
その精華によんたは言った。
「じゃあ、君の好きなものが知りたいな。俺も好きになりたいから。俺のことも、できるなら知って欲しいし」
ね、と言ってよんたが精華の方へ向くと、精華はいきなりスケッチブックでよんたの顔を隠した。
「????」
「お、教えません!!」
その時の精華の表情は、嬉しいような恥ずかしいような。
やっぱり恥ずかしいから嫌だ、と言わんばかりに真っ赤になっていた。
【おわり】
#イラストがすでに出来上がっていらしたので、出来ればそのイラストにも合うような内容にしてみました。
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最終更新:2008年10月07日 23:36