八守時緒@鍋の国様からのご依頼品


 スリル・ショック・サスペンス


 八守時緒は、前々から自分の相方、八守創一郎の事を気にしていた。
 普段お仕事どうしているのかとか。
 交流関係はとか。
 休日はまあ、自分が普段遊びに行っている時みたいなんだろうけどなあとは思う。
 気になった。ので、調べてみる事にした。
 ちょっとした探偵ごっこであった。


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「目標捕捉、えーっと……」
 時緒はきょろきょろと辺りを見回した。
 ここは黒麒麟藩国。外国である。
 何か八本脚がいるとか、変な技術がはびこっているとか、色々きな臭い噂の流れている国であった。
 創一郎はのんびりした出で立ちで宇宙船から降りると、歩いていった。
 時緒が後を追う。
 創一郎をジロジロ観察する。
 荷物あんまり持ってないような気がする。武器とかなくって大丈夫なのかなあ……。一応ここ、敵国になるんだよね……。
 時緒は怪訝な顔をしたが、まあ後をついていく。
 きょろきょろしてみる。
 あ、創一郎が女の子を捕まえた。
 もしかして、仕事先の情報屋さん?
 創一郎の笑顔が気になった。すごい笑顔。営業用?
 何とか人ごみにまぎれて近付こうとするが、どうも二人の会話は終わってしまったらしい。
 二人は並んで歩いていってしまった。
 時緒は、慌てて二人の後に続く事にした。


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「あの子は?」
 女の子はショーウィンドーにくいっと顎を上げた。
 ショーウィンドーには、後ろからついてくる時緒の姿が見える。
「ああ、連れだ」
「妬くんじゃないの?」
「そのつもりはない」
「いやねえ。女は世界中の女全員がライバルよ?」
 女の子はクスクス笑う。
 女の子が笑っている間に二人はホテルの中に入った。
 女の子は創一郎の肩をポンと叩いた。
「お仕事大事だろうけど、彼女はもっと大事にしてあげたら? 着いたらサービスしてあげて」
 じゃあね。
 女の子は手を振って去って行った。
 サービス、か。
 創一郎は少し頬をかいた。


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「うわー」
 時緒はホテルを見て驚いた。
 何か綺麗な建物である。お金かかりそう。
 こんなすごい所でお仕事?
 とりあえず客を装いホテルに入る。創一郎がエレベーター使って止まった階を覚えて、自分もそそくさとエレベーターに乗り込む。
 チン。
 と言う音と共に創一郎の降りた階に降りると……。
 創一郎が腕を組んで待っていた。
「わっ!!」
 時緒、思わず声を上げる。
「どうした?」
 創一郎に訊かれ、時緒はあっちこっちに視線を向けた。
「はは…。探偵ごっこー…なんちゃって」
 バレバレですかあと言葉を濁す。
 バレバレだなと創一郎はあっさりと言う。
 時緒は本気でがっかりしているのを創一郎が笑う。
 時緒は釣られて笑った後、気付いた事を言ってみた。
「さっきの女の人は? いいの?」
「ああ。芝居だ。きにするな。笑って協力してくれたよ」
 そっか。てっきり情報屋さんかと思った、と言いながら、内心時緒はほっとした。
 浮気するとは思っていないけど、していたら悲しいだろうなあとは思う。
 そのまま創一郎の周りをうろうろしていたら、創一郎が取ったらしい部屋に着いた。
 ダブルベッドが一つに、テレビが一つ。ベッドの枕側には電話が設置してある。
 新聞は置いていない。情報操作の一環かなと時緒はぼんやり思った。
「さて、情報収集するか。表向きは平和そうだが」
 創一郎はそう言いながらカーテンをシャーと閉めた。
 創一郎は時緒にポンと望遠鏡を渡した。時緒はそれを受け取ってカーテンの隙間から外を見てみる。
 外はさっきまで人ごみがあった割には真っ暗だ。灯火管制が布かれているらしい。
 目を凝らしてよく見てみると、所々には兵力を配置しているようだ。
 兵隊の武装は自分達の国とあまり変わらなさそうである。
「歩兵のは役に立たなさそうだ」
 創一郎がぽつりと言う。
 望遠鏡を覗いている時緒の横でせわしなさそうに調べ物をしている。
「そう? そんなに歩兵に力はいれてないのかな…」
「まあ、地上戦はする気はなさそうだな。黒麒麟は」
 ふうんと創一郎の解説を聞きながら、また思いついた事を言ってみる。
「そういえば、藩王がどこかに隔離されてるかもって聞いたんだけど、町の人達は何も感じてないのかな」
「たぶん、違うな。姿が見えない。ふむ……」
 創一郎が少し考えているのを時緒はきょとんとした顔で見ていた。
「違うのかー…。黒麒麟は医療がすごく発達してるとは聞くんだけど、そういう系なの?」
「戦う気がないんだろう」
「そうなの?」
「常識的だな……まあ、講和するつもりだろうな」
 創一郎の言葉に時緒はほーっと息を吐いた。
「そっか…。それなら願ったりかなったりですね」
 そう言いながら望遠鏡をもう少しだけ覗きこんだ。あと気付いた事は多分なさそうだ。
「問題は、残り6国か……」
 創一郎の言葉に、時緒は少し指で数えた。牙の義勇戦士国家、ファイドオーラ藩国、カリヨン公国、田園藩国、アイオース鳥の歌、ストームブルー藩国……。まだまだ時間がかかりそうだなあと思った。
「テラで天領の人たちを受け入れます、って言ったら講和してくれないかな」
 思ってみた事を言ってみる。
「まあ、できるだろうな」
「どうかな。まあ……」
「テラの情報を操作したり隠蔽したりしてた事を国民の人たちに知らせたら、憎しみも薄まるかな?」
「どうかな。まあ……」
 やる事のなくなった時緒は、じぃっと創一郎を見た。
 創一郎もようやく調べ物が終わったらしい。時緒を見返した。
「キスなら後だ」
「違うもん」
 時緒は少しむくれる。
「これからどうするの?」
「冗談だ。俺がしたかっただけ。これからはそうだな……」
 時緒はじぃっと創一郎を見た。
 創一郎は笑う。
「帰るだけだが、デートでもするか?」
 その言葉に、時緒が反応した。
「うん」
 少し顔が火照る。
 創一郎は笑いながら時緒に貸した望遠鏡を仕舞い込み、手を出した。
「いくか」
「うん」
 こうして、二人はつかの間のデートと洒落込む事となった。


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 二人はいつもより寄り添って歩いていた。
 誰かが尾行しているような気がする。黒麒麟藩国の人達だろうか。
 元々恋人同士の二人だが、より一層ただの恋人同士と見せかける必要があった。
 時緒はどうしようと創一郎の手をぎゅっと握った。
 創一郎が時緒の手を少し引っ張った。
 そのまま街角の暗がりにまで彼女を引っ張る。
 そして。
 創一郎の顔が近付く。
「!!」
 キスされた。
 突然の創一郎の行動に時緒はビクリと身体を震わせる。
 そのまま角度を替えて何度もキスをされる。
 時緒は思わず創一郎にしがみついていた。
「ま、ほっとけ、普通にべたべたしてたらいい。身元は偽装してるから、すぐ調査はとかれるだろう」
 耳元でささやく創一郎の声がくすぐったい。
 内心ドキドキしながら、時緒は尾行している人達に見せ付けるためにするんだなと納得した。
「う、うん。ちょっとびっくりした」
 時緒は創一郎にぎゅーっと抱きついた。
「すまん」
 創一郎が顔を離そうとするのを、時緒が抱き付いて引き寄せた。
「ううん。外でデート久しぶりだしね」
「そうだったか?」
「うん。部屋の中ばっかりだったもん。外は危なかったし、その方が落ち着くからだけど」
「ははは」
 そう他愛ない会話をしている間に、人の気配が消えた。
 ただの恋人同士だと判断したんだろうか。
 時緒は最後にもう一度だけ創一郎にキスをすると、二人で手を繋いでホテルに戻っていった。


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 ホテルに戻ってからの時間は二人だけのものだった。
 時緒は創一郎の心臓の音を聞いていた。
 とろりとろりと眠気が襲ってきた。
「眠っていいぞ」
 耳元でささやく創一郎の声が、いやに甘く聞こえた。



作品への一言コメント

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  • あああああありがとうございました><わーっぎゃーと言いながら読みました…はあはあ -- 八守時緒@鍋 (2008-10-23 01:59:59)
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引渡し日:2008/10/14


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最終更新:2008年10月23日 01:59