久珂あゆみ@FEG様からのご依頼品


/*白の結び*/


「も、もうきんちょうで頭真っ白です」
 油断すれば目をぐるぐるさせそうなのはいつもの通り。周りでは、にぎやかな様子で煽ったり宥めたり説明をしたりする者が多数。動きやすく作ってもらったとはいえドレス姿なので、ぐるぐるしたままではすっころびかねない。後ろはこれでずいぶん裾が長いのだ。
 大きく息を吸う。久珂あゆみはうつむくようにして息を吐くと、面を上げた。普段から大きな瞳が、いつになく揺れている。それを見てにやにや笑う緋璃、都がアドバイスをする。その横で松井がドレスの説明をしている。
 少し離れたところでそれを見ていた是空が、しまったという顔をする。あゆみが倒れたときのためにつっかえ棒を持ってくれば良かった。
「しっかりー」
 川原が苦笑しながら目の前で手を振った。はっとするあゆみ。それからすぐにおちつきなく、揺れた。
「う、うん……似合うっていってくれるかな」
 そういう風に、口から出ることは実はあんまり心配していない。ひたすらに緊張で締め上げられる感覚に、どんどん頭の中沸騰していく。このまま式にのぞんで大丈夫なんだろうかと不安になって、さらに落ち着きが消えていく。
「がんばってね」
 あやのが言う。それを聞いた悪童屋が、結婚式でがんばるって言うのも……と小さくこぼす。

/*/

 さて、時間が来る。その場で花嫁を囲んでいた人々のほとんどが、白い仮面をかぶり始めた。白い服と、背丈ほどもある長剣をさげて立ち去っていく。その間に参列者は講堂に入っていき、巨大なホールを埋めていく。そしてその最後から、広い出入り口から件を携えた白い姿の人々が入ってくる。そして全員が入ったところで、囁きあう声がゆっくりとひいて消えていく。宰相がパイプオルガンの前にすわり、ゆっくりと指を伸ばした。

 天から落ちてくる、その音に人々が上を向く。雪の欠片のように舞う音が、いつまでも天井に残響する。
 そして曲が低音になり、重たく落ちてくるその音を追いかけるように人々が視線をおろしていくと、

 新郎新婦の白い姿が、そこにあった。

 白い結婚式、と呼ばれる――
 その一幕が、始まった。

/*/

 左右に立ったあゆみと晋太郎は、互いを見て、ほんの一瞬だけ息を止めた。純白の礼奏を着た新郎に、同じ色のドレスの新婦。
 刹那の間隔の後、
 晋太郎は楽しそうに微笑み、あゆみが照れたように口元をほころばせた。
 そのままゆっくりと歩き出す。静かに歩いている内に曲はトーンを落としていき、二人が中央で出会ったところで、曲が終わりを告げた。
「素敵です」
 小声で囁くあゆみ。それだけでも恥ずかしかったのか、さっと顔が赤く染まった。晋太郎は微笑みを浮かべている。まんざらでもなさそうだった。拍手が起こる中、二人は笑みを浮かべあった。
 パイプオルガンの席から離れた宰相が演壇に立つ。うれしそうな笑みを浮かべて、あゆみの方を向いた。
「よい日だね」
「ええ。とても」
 その笑みが眩しいとでも言うように、宰相はわずかに眼を細めた。笑みを浮かべて頷く。
「その日が、ずっと続くように。その火が消えぬよう。守り抜きなさい」
 あゆみと晋太郎が頷く。
 宰相は微笑むと歌を歌いだした。

 低く、抑揚のある声がホールに響き渡る。ちりちりと響く音が反響して重なり、波のように響く。

 晋太郎も歌を歌い始めた。

 良く響く、しかし低くない音がホールに響く。反響し、重なり合うその声は、どこまでも高く、高く昇っていく。

 昇が、小夜が、日向が続く。ベルカインが声を合わせ、ペンギンが口を開いた。
 重なり合い、響き合い、どこまでも届きそうな歌が満ちていく。
 その声を見ることが出来たのなら、それはきらきらと瞬く白い輝きに映ったことだろう。

 婚姻の歌が高く、響く。

 その響きにつられて天を見上げようとしたあゆみは、ふと、視界の端に灯った輝きに気がついた。視線の先では、晋太郎の薬指が白く輝き始めている。
 晋太郎が歌いながら微笑み、手を伸ばす。あゆみは途惑いがちに晋太郎を見る。頷いたように、見えた。
 彼女はゆっくりと手を伸ばした。
 歌と手が、重なり合う。
 薬指の白い輝きが、ふわりと揺れる。それはわずかにふくらむと、そのまま溶け合うようにしてあゆみの指に結ばれた。
 わずかに手を放す。
 あゆみは目を丸くした。晋太郎が笑みを深くする。

 白い、細い線が、二人の指を結んでいた。

 人々が、息を呑む。重なり合った歌声はいつの間にか止み、徐々に静けさが戻ってくる。
 天に漂う歌の残り香が遠のくように、
 二人の指から、白い光が薄れて、消えた。

 あゆみは穏やかに目を瞑る。薬指にから、いまだつながりを感じられる。
 再び目を開けば、じっとこちらを見ていた晋太郎がほっとしたように微笑みを浮かべる。
「こわがらせてごめんね」
「ううん、もう大丈夫。わたしこそごめんね」
 お互いに微笑みあう。

/*/

 歌よりも白く、眩しい笑顔が、そこにあった。



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引渡し日:2008/10/04


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最終更新:2008年10月06日 16:39