芹沢琴@FEGさんからのご依頼品


[タイトル:レムーリアに咲く向日葵]

 緑豊かな穏やかな山中。
 広大な敷地の一角。
 そこで、広島明乃は福岡飛熊と対峙していた。

 いや、別に深刻な雰囲気とかではない。
 ただ、少し明乃が緊張しているため、雰囲気が少々ピリピリしていただけだった。

「すぐ戻ってくるのだろう?」
「は、はい…ただ、飛熊様に黙っていきたくなかったので…」

 最後の方は消え入りそうな声音で、風にかき消されてしまった。
 飛熊は明乃に気付かれないようにため息を一つ吐く。
 このまま、咄嗟に言葉を出していたら、明乃を傷つけてしまいそうだったからだった。

「気を付けて行ってこい…」

 明乃から目をそらしながら言う飛熊。
 明乃はそんな飛熊へ深くお辞儀をすると、その場を去っていった。


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 黒く長い髪の毛は綺麗にみつあみに結わい、綺麗にアイロンがかかった白いエプロンに長い裾のワンピースメイド服をまとった明乃は、自分を呼んだという人と会うためにそこへやってきた。

 そして初めてそこ-FEGという国に降り立った明乃は驚いていた。

 立派な駅。綺麗な構内。ホームを出入りする電車はしっかりした作りで頑丈そうだった。
 行き来する大きな人並みに気圧されそうになりつつ、明乃は立ち尽くしていた。
 駅から見える外の風景に、緑もあるが大きなビルが立ち並んでいるのが見える。

 自分が知る世界とはあまりに違いすぎる場所に呼ばれた明乃は、一人そこに立ちすくみただただ不安だった。
 不安を表すその小柄な身体がことさらに小さく見える。

 そんな明乃に一人の少年が声を掛けてきた。

「もしかして、俺と一緒に呼ばれた子?」

 人なつこい顔をし、優しい笑みでにこっと笑いかけてきた少年。
 彼の周りを包む空気はすごく柔らかくて、明乃は、自然とほんの少し警戒を解いていた。
 少年-小カトー・多岐川は、妹や小さな女の子に接するかのように優しく明乃に話しかける。

 小カトーが小さな少女と思っていた明乃が、実は自分と同じ歳だということを知らない。

 明乃が小カトーと少しずつ打ち解けてきた頃、二人に近付く少女二人の影があった。
 それに気付いた明乃は、少し怖くなり小カトーの背中に隠れた。

 その少女二人は、面影が少し似ていた。二人は血縁なのかもしれない。
 一人はキャミソールワンピースを着ていた。胸の大きめなリボンが揺れている。
 もう一人はお揃いの上下、ノースリーブの上着に裾が長いスカートをヒラリと揺らしていた。
 二人は、なにやら大きな包みと明乃が見たことのない花を持っていた。

 三人がなにやら話した後、少女二人が明乃を覗き込み、話しかけてきた。
 自己紹介をしてくれた。
 のだが、明乃はこの時、すでに軽いパニックを起こしていた。

(えぇっと…こちらの方が芹沢琴さんで…こ、こちらが多岐川佑華さん…お、おら、覚えれるかな…?)

 うう、とグルグルする明乃。
 小カトーがいなければ、話が進まなかったのではないか、と思えるくらい、極度の緊張などで硬直していた。
 だから小カトーから「俺の友達。な」と、言ってくれたとき、凄くほっとした。



 そうして話していて明乃には一つだけ気になったことがあった。
 自分を呼んだのは、人から自分の話を聞いて、会いたくなったから、と言った。
 だが、自分の交友関係が狭いことは自分が一番よく知っている。

「ぁ、あの…誰、ですか? わたすを知るって・・・」
「うーんと、うちの国に滞在している千葉昇さんから」
「昇・・・さんから」

 昇の名前を聞いた瞬間、一気に首の上を真っ赤にした明乃。
 可愛らしい明乃の反応が見れた、琴と佑華はすごく嬉しそうだった。

(か、かわいいぃ!!)

 琴の心中は『明乃ちゃんかわいい!!』で占められる。
 それほど、明乃の昇に対する態度が可愛いのだ。

「は、はい。そういうことなら!」

 昇と親しいなら、きっと大丈夫、とどんな確信なのかは不明だが、それまでの二人への緊張をほぐす明乃。

「親しい方なのですか?」
「…は、はい。い、いえ。よくして、もらってます」
「そうかそうか。仲いい事はいい事だね」
「まあ、優しい方なんですね。」

 佑華はちらっと、彼氏である小カトーを少し見詰めながら、仲良き事はいい事かな、と謳った。
 琴は明乃ちゃんかわいいーー、と抱きつきたい勢いをひた隠しにしながら、微笑んだ。
 そんな二人の反応に、明乃は初対面の人に、憧れの人、とは言えず、赤面した顔をうつむいて隠す。

 そして思った。
 今その昇がここに滞在している?と。

 明乃の想いは、ひた隠しながらも強いものだった。
 それはきっと、本人の自覚もない。

(昇さん、おら、晋太郎さんからダンス習っただよ。早く一緒に踊りたい…)

 それは春の訪れが、森に告げ始めた3月の終わり頃。
 昇さんのご友人だという青年が冬にシンタロ校へ転入してきていた。
 ひょんな流れから、明乃はその青年-晋太郎からダンスを習うこととなったのだった。

 ただ、昇と踊るために。

(昇さん、今どこに…?)

 昇の名前を聞いて切なさを過ぎらせた明乃は無意識に駅の外へと目を泳がせてしまっていた。

 少ししゅうんとしてしまった明乃に、佑華はその手に持っていた花束を差し出した。
 明乃にきっと似合う。そう思ってチョイスした、その花は小さなひまわりだった。

「初めて会えた記念にプレゼント」
「わぁ」

 目の前に差し出された、そう大きくない花束に明乃は感嘆をもらした。
 女同士、やはり可愛いものや花が好きなのは明乃も琴や佑華と変わらない。

「い、いいんですか?」
「あんま珍しくない花だけどな」
「うちの国では、こういうのないです」
「うん。せっかく来てくれたから。プレゼント」
「ええ、はじめて会う方に何すればいいか、分からなくって。佑華さんが用意してくれたんです」

 小カトーは、ひまわりってどこにでもあるよなー、と思っていたがさすがにそれは口に出さなかった。
 少女達3人の笑顔が、ひまわりのように咲き乱れていたのに、水を注すのは無粋だな、と空気で感じとったようだ。
 花を挟んで少しずつだが、少女達の間にあった壁が取り払われていった。


 そうしてホームで電車を2本逃しながらも、乗り込むと、向かい合わせの4人席に座り込み、共和国桿状の旅を楽しんだのだった。


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 寮へ戻ってきた明乃は荷物を自室に置くと、食堂の戸棚やら物置やらで何かを探していた。
 そんな明乃を偶然見付けた飛熊は、少し様子を見ていたが、探し物が見付からないようだったので、耐え切れず声を掛けた。

「何を探しているんだ?」
「ひゃぁ!!」

 突然のことに驚く明乃。その明乃の声に驚く飛熊。

「あ、あの…花瓶を…」
「花瓶?花は何だ?」
「ぇ、ぁ…ひまわり、という花だす」

 列車旅行中に聞いた、花の名前を思い出し、明乃はそれを答えた。

「ひまわりか…ちょっと待っていろ」
「ぇ…飛熊様…?」

 廊下の奥へと消えていった飛熊の背中を見詰めたまま立ち尽くす明乃。

 そう時間も経たずして、飛熊は一つの花瓶を持って戻ってきた。
 上質な陶器であるそれは、淡いクリーム色に鮮やかのオレンジで渕に模様のラインが入っていものだった。

「これを使え。ひまわりに合うと思う」
「ぁ、ありがとうございますだ…」
「花が枯れたら…種が取れる」
「…飛熊様」

 ぽつり、と呟き始める飛熊に狼狽を隠せない明乃。
 そんな明乃を気にせず飛熊は続けた。

「ここの気候でひまわりが育つかはわからないが、花壇を作らせる。そこに植えてみるといい」
「種を、だすか?」
「ああ。ここの気候で育たないようなら、森のリス達に与えるといい。リスはひまわりの種も好物らしいからな」

 そこまで言うと、飛熊は明乃を置いて、自室へと帰っていった。
 明乃はお辞儀をすると、花瓶に水を入れ、自分も部屋へと帰っていった。


 明乃の部屋には、その日、ひまわりが綺麗に飾られたのだった。

【終わり】


++++++++++


【作中補足】

明乃が晋太郎とダンスを踊っていた件はNWCでの芝村さんとのやりとりから引用いたしました。

  1. 夜國涼華 > Q:個人ACEの様子が聞ける、とのことですが、夜國晋太郎さんのご様子をお伺いすることはできますか?>芝村さん (3/26-22:12:50)

  1. 芝村 > A:夜國晋太郎は明乃にダンスを教えている (3/26-22:13:27)

  1. 夜國涼華 > Q:ちなみに、明乃はなぜダンスの練習をしているのですか? (3/26-22:29:12)

  1. 芝村 > A:そりゃもちろん、昇と踊るためだよ>涼華 (3/26-22:30:10)


作品への一言コメント

感想などをお寄せ下さい。(名前の入力は無しでも可能です)

  • はうわ、明乃ちゃんごっさ可愛いです!! 福岡君まで出てきて前日・後日の2人のやり取りがとっても可愛かったです。素敵なSSありがとうございます。あと、明乃ちゃんと千葉兄とダンスさせてあげたいという夢もできました。本当に本当に、ありがとうございます。 -- 芹沢琴@FEG (2008-09-30 20:32:43)
  • 明乃ちゃんの可愛いSSをありがとうございます。何とか明乃ちゃんが千葉兄とダンス踊れるよう頑張りたいと思います。 -- 多岐川佑華@FEG (2008-10-01 23:08:36)
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最終更新:2008年10月01日 23:08