風野緋璃@FEG様からのご依頼品


 ラファエロと風野緋璃の結婚式に招待されたのは、親しい友人とAEC達であった。そこには、共和国の藩王が列席してようが、帝國の元帥が列席してようが、皆がラファエロと風野緋璃を祝福するどこにでもありふれた結婚式の光景があった。
 ひとつだけ、普通の結婚式と違っていたのは、居るべきところに一人の人物が居ないことである。とても重要な人物の姿がそこにはなかったのだ。
 列席者の一人ヒルデガルドは、この事態を予想していたのか何らかの情報を得ていたのか、新婦の控え室で内心ため息をついていた。
『花嫁には何の問題はないわ。問題はそう、男のほうね……』
 そう、式の始まる時間がすぐそこまで迫っているのにも係わらず花婿であるハードボイルドペンギンことラファエロが姿を現していなかったのだ。


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 新婦の控え室でヒルデガルドが内心ため息をついていたころ、新郎控え室に集まった男性陣は大騒ぎをしていた。なにせ、お祝いの言葉をかけに行ったらかけるべき相手が居なかったのである。
「ダイジョウブ。こんなこともあろうかとここにペンギンの着ぐるみが」
「全身の骨を削り落として羽を植えつければ何とか…ならないすね」
「なるなる。大丈夫」
「是空、ダガーでペンギンに変装だ。時間を稼げ」
 などという、ボケをかましているのか錯乱しているのかよく分からない発言が飛び交っていた。ラファエロを含めた男性陣に対するヒルデガルドの心配が大的中である。
「うーす、って根底を解決すれば師匠は分身もできるし。本体移動も簡単でしょ」
「どーしましょうか」
 とはいえ、いち早く正気に戻った(?)是空、高原といった面々が対策を練り始め、ラファエロ行方不明事件捜査本部(仮称)の体制を整える速さは、ニューワールドの幾多の危機を乗り切ってこの場に居る彼らでこそ出せる速さだった。
 即席捜査本部が機能し始めると、次は捜査会議である。捜査本部には既に、朝からラファエロの姿が見えないとの情報が入っていた。
「で、お弟子さんな方々、ご予想は?」
 真琴が海法、是空らに尋ねるが、この二人の見解はほぼ一致していた。
「まぁどっかでクーリンガンが出たとかそのへんじゃね?」
 というのが海法の見解であり、
「まぁ師匠のこった、どっかのピンチを処理してからくるつもりでしょ。俺らも呼び出しされる前提でー。というか今日ぐらい俺たち呼び出せー」
 というのが是空の見解であった。
 あるいは、護衛をしてもらうため、どこかの事情を知らない人間がうっかり呼び出しているのかもしれない。
「ちょっと、周辺さがしてきます。」
「あ、悪童さん。二重遭難するとマズイから、連絡方法確立させて移動しましょう」
 現時点では、結婚式の行われるここフィーブル藩国において、携帯電話を使って連絡を取ることができない状況あった。別の通信手段を確保しなければ、二重遭難はともかく事件に巻き込まれた場合に助けを呼ぶことができない可能性があった。
「あ、そうですね。 どうしましょうか?」
「通常の固定電話は使えるみたいですね。とは言え、最近じゃ公衆電話の数も少なくなってるし」
「そうだ、西方天翼騎士団の回線を使いましょう。あれならこことは別回線だし大丈夫でしょう」
 通信手段が決まった後の各人の動きは早かった。
 真琴が新婦控え室に事情を説明するため走り、是空、高原がキノウツン、フィーブル両藩国に連絡を取りラファエロの足取りを追い始め、悪童屋と古河がそのバックアップに入り得られた情報の整理を行う。
 SOU、tactyの二人は、ラファエロがいつ現れても良いように礼服の準備を始め、海法、小鳥遊がラファエロが見つからず式の時間を遅らせる事態に陥った場合の対策を練り始めた。
「よし。余興をやって時間を稼ごう」
「では、私が盛大にぶっ倒れるとしましょう。参謀時代に散々ぶっ倒れてきましたし、違和感もないでしょう」
「いや、それ余興じゃないから。それとヒルデガルドさんからの伝言。『新婦を泣かせ茶駄目よ……』だそうだ」
 真琴が冷静にツッコミを入れながら伝令役のオーレを引きつれ控え室に戻ってきた。
「え、真琴さん。ヒルデガルドさんに事情を話したんですか?」
 小鳥遊が若干引きつった顔で真琴に訊ねた。もしも、新婦にラファエロが居ないことを知られたら絶対怒られそうだ。
「いや、気づいていたみたいだ。あの人のことだから、何か知ってるかもしれんが」
 その時、地道にラファエロの痕跡を追っていた是空らが、ラファエロの足取りを辿ることに成功した。
「ええと、海法。師匠仕事熱心にもツン国だそうよ?」
「行って奪還したいところだが、面倒だな、こりゃ」
「なんで、こんな日にキノウツン!?」
「今日ぐらい、誰かを頼ればいいのに」
 悪童屋と古河があきらめ顔を見合わせため息をついたが、彼らにも分かっていた。いつ何時であろうとも自分の仕事をするのがラファエルだと。神々の一柱にして”ハードボイルドペンギン”と呼ばれているのは伊達ではないということを。
「是空さん、ヒルデガルドさんが何か知ってそうでしたよ?」
「うーん、情報は多いほうがいいか。ちょっくら話を聞いてみるか。オーレ、伝令お願い」
「ニャ!」
 オーレはびしっと右前脚で敬礼し自分で扉を開けて新婦控え室に伝令に向かった。器用な猫である。
「一息入れましょう。お茶でも飲んでオーレが帰ってくるのを待ちますか」
 SOUがそう提案し、皆に配るお茶の準備を始めた。
「ありがと。なんとかなりそうかな・・・」
「ヒルデガルドさんがどんな情報を持ってるかにもよりますね」
「にゃー」
 お茶を片手に悪童屋とtactyが雑談をしているとオーレが戻ってきた。
 是空の前まで行くと、またもびしっと右前脚で敬礼し報告を始めた。
「うん?。ロビーのソファーで待ってるって?」
 オーレは頷くと是空を先導するように歩き始めた。
 そして、扉を開ける時に振り返ると右前脚の指を1本立て後ろについて来る一同を見渡し軽く首を振った。まるで付いて来るのは一人だけと言っているようだった。
「そ、そうか。付いて行ってもいいのは俺一人か?」
 是空の言葉に頷くと、オーレは扉を開け廊下に出た。つくづく器用な猫である。
 ロビーに着くと既にヒルデガルドの姿があった。是空とヒルデガルドの会話が万一他人に聞かれないように、オーレが周辺の警戒を始めた。
「遅くなりました」
「いいのよ。あの人に比べれば遅刻とも呼べないレベルだから」
「そのあの人のことですが、今回の件でもいろいろ知ってるみたいですね?」
「ええ、こんな事態になるとは思っても見なかったけど」
「師匠がどこに居るかは分かりますか?。こちらではキノウツンまでの足取りを掴んでいますが」
「キノウツンで間違いないわ。既に、高原を彼のところには送ってる。うまく彼を使いなさい」
 先ほどまで是空と高原は一緒にラファエロの足取りを追っていたので、普通に考えれば高原をキノウツンに送り込む時間など無かったはずである。が、断定するように彼女は言うと新婦控え室に戻るため立ち上がった。
「高原は既に現地なのですね?」
「ええ。期待してるわよ、ダガーマン」
 是空も立ち上がり、歩き去っていくヒルデガルドに軽く頭を下げた。そして、律儀に周辺の警戒をしてたオーレと共に新郎控え室に戻る。
「やはり、師匠はキノウツンに居るらしい。既に高原が介入しているようだが、俺も合流して支援に入る。状況によっては師匠のミッションを引き継ぐよ」
 びっくりして是空を見るオーレ。是空はこの式の司会をすることになっている。その彼が居なくなれば、新郎が帰ってきたとしても滞りなく式が挙げれるとは思えなかったのだ。
「じゃあ、こっちは前期型?」
「だね。そろそろ司会も始めないといけないだろうし」
 この海法と是空の会話でオーレも納得したようだ。
 ニューワールドの住人の中でも極限られるが、同時に複数の場所に介入することが出る人物が居た。その限られた人物の中には是空や高原の名前もあるのだ。有名なところでは、是空とおるの前期型と是空後期型、通称ダガーマンがある。
「こっちのフォローも適当にお願い」
 そう言い残すと是空はキノウツンにダガーマンとして介入を始めた。


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 男はキノウツンの地下室に居た。
 ここに居ることがある女性にばれれば一騒ぎあることを知ってはいたが、どうしても連れて行きたい友人が居たのだった。
 あるいは、女性に関しては心配する必要ないかもしれない。彼女と一緒に残してきた弟子たちにならこれくらいの問題は任せておけば大丈夫なはずだ。大抵の問題なら自力で解決することができるぐらいには鍛え上げていたし、そのことを密かに誇りにも思っていたぐらいなのだ。
 自分がここに居るという情報を彼女から遠ざけておくことぐらいできるだろう。
 キノウツンには友人を連れに来ただけのはずだったが、その友人は既に移動した後のようだ。忌々しいことに友人の姿をコピーした連中が大量にいるのを確認できただけだった。
 どうやら、友人に会いに行く道中で、いつものように護衛まがいのことをしていたのがいけなかったらしい。
 予定より時間をかけすぎてしまった。
 こうなると心配の種は、今頃彼女を取り巻いている女性陣ということになりそうだ。特にヒルデガルド辺りが親切心を出し始めるかも知れない。流石に、彼女にこのことを伝えはしないだろうが、誰かを使って連れ戻すことぐらいはしそうだった。
 そして、男の心配は的中した。
 ヒルデガルドに送り込まれた一人の男が現れたのだ。
 現れた男の口から、弟子が自分の代わりに護衛任務に就くためにこちらに向かっていることを聞いたが、既に護衛の仕事はほとんど終わっていたし、彼女にはいざとなればどこからでも呼び出すことができる便利なキーホルダーを渡してあるのだ。
 男が盛大に顔をしかめていると、弟子の一人がどこからともなく現れ、目立たないように今まで男が護衛をしていた一行の護衛を始めた。
 しばらくその弟子と護衛していた一行の様子を眺めていた男はフッと微笑むと、彼らに背を向けて歩き出した。
 キノウツンでの仕事はこれで終了した。
 次はフィーブルで待っている一人の女性の元に帰らないといけない。
 そう、風野緋璃の元へ。

~END~


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最終更新:2008年09月07日 00:44