榊遊@愛鳴之藩国様からのご依頼品



記憶のかけら  ―榊遊さまに捧ぐ―


雑踏にまぎれるように、一人、道を歩いていた。
何ということもない。
自分にとっては、よく見慣れた風景だ。

今日は、なんだかよくわからないが生活ゲームに呼び出されたらしい。

自分を呼ぶ物好きなど、とうの昔にいなくなったと思っていたから、少々驚いた。

それでも、まあ、別段拒む理由もない。

それで、その待ち合わせ場所に来てみたわけだが。

「こんにちは・・・お久しぶりです。」

不意に横合いから声をかけられて振り向いた。
犬耳眼鏡にメイド服、とある意味三拍子揃った20歳くらいの女性が、そこにいた。

しばらく、考える。

「ん? ああ、いや、だれだっけ」

やっぱり思い出せなくて、とりあえず素直に聞いてみた。
女性に対して人間違いなんかをすると、後が怖いというのは、おそらく誰もがわかっていることだろう。

だからといってこういう聞き方もどうなんだと言われてしまえばそれまでであるが、女性は少しばかり寂しそうにしながらも自己紹介をしてくれた。

榊遊、という名前に、確かに聞き覚えがあった。

「あー」

だが、それも、随分と昔のことである。

「そういや、そういうのもあったな。貴方は娘さんかなにか?」

あれから過ぎた年月を考えれば、娘が来てもおかしくはない気がする。
が、彼女の口から出たのは意外なことばだった。

「3ヶ月以上音信不通でしたから当然ですね・・・」

3ヶ月。
彼女は間違いなくそう言った。
思わず眉をひそめてしまう。

「3ヶ月以上か・・・」

そういう自分とは別に、彼女は彼女で疑問があったらしい。

「・・・娘さんですか?」

意味がわからない、といわんばかりの顔でこちらを見ている。

話が、噛みあっていない。

とはいえ、どの部分で噛みあっていないのかもよくわからないのでこちらの疑問をぶつけてみる。

「3ヶ月ってどういう区切りだ、それは」
「私も詳しくは判りませんが、長い間連絡を取れないでいると記憶が薄れてしまうことがあると伝え聞いていますので・・・」

すぐに答えが返ってきたものの、求めていた答えではなくて思わず笑ってしまう。

彼女が本当に榊遊本人だとして、彼女と最後に会ってから『10年』も経っているというのに、『3ヶ月』以上音信不通という表現はおかしいだろう。
まるで、彼女にしてみたら3ヶ月しか時間が経っていないようではないか。

それについて聞いたつもりだったのだが、彼女は別の受け取り方をしたようだ。

「よくわからないな。まあ、でもせっかくの合併十周年記念祭だ。じゃ」

と言った所で、彼女の表情がはっと変わる。

待ってください、と彼女が袖をつかんだのでなんだ?と視線で問うと、彼女は勢い込んで聞いてきた。

「合併十周年記念ってどういう事ですか?愛鳴之藩国は今はまだ合併審査中で正式に立国出来ていないはずです!」

いきなり何を言い出すんだ、こいつは。

思い切り顔に出ていたのだろう。
榊遊は、続けざまにこうも聞いてきた。

「・・・し、失礼ですが今は何年の何月何日でしょうか?」
「第11ターンの頭だな。世界によって地方時は違うと思うが」

答えてやると、彼女はさらに複雑そうな顔をして黙り込んだ。
その後も半ば独り言のようにぶつぶつ呟いていたが、彼女なりに今の状況を理解しようとしているのだろう。
聞かれるままに答えていたが、とりあえず現状を確認してみることにしたらしい。

「ごめんなさい・・・もしよろしかったら藩国を案内していただけませんでしょうか?」
「ん。ああ。そういやハイマイルが一般公開されてるそうだ」

案内といわれて、即座に思いつくのはそんなところだ。
だが、彼女は手持ちがないことを気にしているらしい。
かく言う自分も、そんなに大層な手持ちはなかった。
そういえば、昔、貧乏のどんぞ…いや、正義を守りつつそれなりに収入のある仕事があまりなかった頃。
彼女に、おでんを奢ってもらった記憶がかすかに残っている。
そこまで思い出して、ふと頼まれていた仕事が記憶の底から蘇ってきた。

「思い出したぞ。ダヴィンチの人形の部品」

それの捜索依頼の前金で、なんとか食いつなぐことができたのも、今やいい思い出ではある。

「はい!調査のお仕事をお願い致しました!」

こちらがようやく思い出したことに安堵したのか、彼女の顔が笑顔に変わる。
思い出せてよかったと、なんとなく思った。

「一応、4つ目まではみつけておいた。それから連絡がつかなくてほっといたが」
「ごめんなさい・・・アレから今度はこちらが貧乏に悩まされました」

恥じ入りながら俯くように告げた彼女の顔は耳まで赤そうだ。

「ま、そういうこともあるさ。おでんでも食うか?」
「あ、はい・・・おでんは貧乏の味方です」

あの時とは逆の立場だな、と思いながら彼女を誘っておでんやへと向かう。
はにかみながら笑う顔も悪くはない。
そんなことまで思い出しながら、二人並んで道を歩いた。



END


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最終更新:2008年08月15日 00:25