多岐川佑華@たけきの藩国さんからのご依頼品


 桜の花びらが舞う道を、二つの人影は手を繋いで歩いていた。
枝から飛び立った鳥を指差して多岐川佑華が視線を上げ、その視線を小カトー・多岐川が追いかける。
 季節感のない桜も、人の多いはずの春の園にほとんど人がいないことも気にせずに、二人はくすくすと笑いあっていた。

「いや、でも本当びっくりした。」
「? 何が?」
「お前、いきなり飛び込んでくるんだもん。」

 小カトーの放った言葉に、多岐川が赤くなる。
いたずらっぽく笑う小カトーに気付いてからかわれたことに気付き、むくれる。
多岐川は、今より少し前に、久し振りに小カトーに再会した時のことを思い出していた。

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 少し遠くの背の低い影に気付いて、多岐川は走り出した。
舞い散る桜の花びらが顔に当たり、風圧で髪が乱れる。
少しずつ少しずつ大きくなる人影が、こちらに気付いて手を振る。
耐え兼ねて、多岐川は跳んだ。

「ショウ君ー!!!」
「……んなー!?」

 ――飛び付いたは、いいものの。
 多岐川の運動神経をもってしても、さすがに距離がありすぎた。
明らかに地面に飛び込んでいく曲線を描いて跳ぶ多岐川に、小カトーがうろたえながら走り出す。
着地地点に滑り込み、無事に抱き留めた多岐川を見上げて、小カトーは安堵の息をはいた。

「びっくりした。」
「ごめんね、ごめんね、迷惑かけてごめんね。」

 ぽたりと顔に落ちた水に、小カトーの眉が上がる。
泣きじゃくりながら謝る多岐川の頭に手を伸ばし、なだめるように髪を撫でて言葉を探す。
馬鹿、気にするなよ。俺たち友達だろ、と言わないだけ、彼も成長していた。

「……大丈夫かよ。頭うった?」

 小カトーの問いに、ふるふる、と多岐川が頭を振る。
真っ赤になった目を手で拭い、多岐川は小カトーの怪我を探した。

「頭打ってない。大丈夫。ショウ君は? どこもケガしてない?」
「大丈夫?」

 首を振り、同じ台詞を繰り返している自分に苦笑して、小カトーはゆっくりと多岐川の頭を撫でた。

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 自分でしておいて、回想の内容にまた多岐川の顔が赤くなる。

「何想像したんだよ、多岐川スキー。」
「た、タキガワスキーだもん。」

 揶揄された言葉に微妙に意味の異なる返事をして、多岐川は握った小カトーの手を引き寄せた。

「私だって、びっくりしたんだからね!」
「何が?」
「いつの間にかFEGに居るって言うし、いつの間にか戦闘機買ってるし、手紙読んでないし。」
「あれ、言ってなかったっけ?」

 首を傾けながら質問を返されて、多岐川が言葉に詰まる。
聞いたけど、聞いたけれども。
勢いのあまり近くなった小カトーの顔は、不思議そうに、かつ他意もなさそうににこにこと笑っている。
ふにゃり、と、多岐川の肩から力が抜けた。

「……さっき聞いたけど。」
「ならいーじゃん。な?」

 あっさりと笑って見せる小カトーに、一応頬をひいておいた。

 ピンク色にかすむ視界の奥に桜並木の終わりを見つけて、小カトーの手を握る多岐川の手に力がこもる。
繋いでいない方の手で頭の後ろを掻きながら、小カトーは口を開いた。

「なぁ、」
「何? ショウ君。」

 自分に顔を向けた多岐川を横目に見て、小カトーが視線を上に向ける。
落ち着かない様子でいる小カトーに首を傾げて、多岐川は彼の言葉を待った。

「たけきのから帰ってくる予定、あるんだろ?」
「うん。」

 上に向いていた小カトーの視線が、更に揺れる。
何かあるのかと視線を追いかける多岐川の死角で、小カトーが言い淀むように唇を尖らせた。

「電話しろよ。」
「え?」

 ぼそりと、小さな声で呟かれた言葉に、多岐川の耳が揺れる。
上を向いていた小カトーの視線が多岐川を向いて、目が合った。

「最近どこも物騒だから、迎えに行く。」

 少し早口で告げられた言葉に、多岐川の大きな目が更に大きくなって、しきりに開け閉めされる。
目以外の箇所は凍り付いたように動かず、首から上に向けて赤い色が昇っていく。

「………えー!!?」

 頭の中で何度も反芻して、意味をようやく理解して、多岐川は叫んだ。
声から逃げるように、左右の桜から鳥が飛び立っていく。
否定的な意味にとらえたのか、拗ねたような顔の小カトーは、再び視線を空に戻していた。

「……別に、嫌なら行かないけど。」
「いっ、嫌じゃないよ! 望むところ!」
「何だよそれ……。」

勢いよく首を左右に振りながら、握り拳を作る多岐川を見て、小カトーが小さく噴き出す。

「約束だからな。」
「うん、絶対連絡する!」

お互いに顔を見て、えへへーと笑って。手を繋ぐ一組の人影は、桜並木を抜けていった。



おまけ

「あ、ちょっと目閉じて。瞼に花びらついてる。」
「えっ、どこ? どこ??」
「動くなって、とってやるから。」

 多岐川の薄い瞼の皮膚に、小カトーの指が触れる。
体温の高い、皮膚の厚い手。
女の子の瞼なんて触れたこともないだろうに、精一杯気を使っていることが指の震えから伝わって、多岐川は小さく笑った。
 不意に、何度か触れたり離れたりを繰り返していた体温が長く離れた。
小カトーが何も言わないのでまだとれていないのだろうと判断して、目を開かずにいた多岐川の瞼に再び体温が触れる。
少しカサついた、さっきまで触れていた指とはかなり異なる感触に片目を開いた多岐川の視界に映ったのは、至近距離すぎてピントの合わない小カトーの顔だった。

「しししし、ショウ君!? どこで覚えてきたのそんなことー!!」

 多岐川が絶叫する。やはりというか、小カトーはよくわかっていないような顔で首を傾げていた。

「? おまじないだろ?」
「おまじないだけど、おまじないなんだけど!!」



作品への一言コメント

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  • 読んで悶絶しました。本当にありがとうございます!! -- 多岐川佑華@FEG (2008-07-13 21:26:29)
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引渡し日:2008/07/13


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最終更新:2008年07月13日 21:26